ビジネスわかったランド (経営・社長)

取締役の責任

企業秘密の漏洩に関する取締役の責任とは?
 会社には、大なり小なり企業秘密がある。特殊な技術、ノウハウ、研究開発中の新製品、物流システムなどで、汗と知恵を武器に企業間競争を戦っているのである。武器は、一つでも多くもっていたほうが有利であり、競争相手に知られるのは最も避けたいところである。

<< 企業秘密を守ることは忠実義務 >>

取締役は、企業秘密について、日常の業務や取締役会を通じて最もよく知り得る立場にあり、企業秘密を外部に漏らしたのでは、企業の競争力は大きく損なわれてしまう。取締役にとって企業秘密を守ることは、重要な「忠実義務」なのである。

<< 「企業秘密」の範囲は広い >>

ここにいう企業秘密、つまり取締役として外部に漏らさないようにすべき事項は、かなり広く捉える必要がある。
たとえば不正競争防止法にいう「営業秘密」、つまり「生産方法、販売方法などのように、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、秘密として管理されて公然とは知られていないもの」だけに限定されない。もっと広く、現在や将来の経営方針、会社資産状況、人事や労務、社員の履歴や能力に関することなども含まれる。なぜなら、それらの事項も競争会社などに知られたときは、経営上の不都合を生まないとは限らないからである。

<< 取締役職務規律などで漏洩防止を >>

したがって、取締役としては企業秘密、企業情報についてはひときわ慎重な態度が要求される。外部に漏らした場合は、当然に忠実義務違反となる。
ただ、取締役が退職後に独立したり他社に就職して、在職中に知った情報を利用することがあるが、これを忠実義務違反として責任追及することは、なかなか難しい。取締役の退職とともに情報も洩れるのは、ある程度やむを得ない。会社としては、取締役の職務規律などを定めて、在職中に知った企業秘密、企業情報の漏洩ないし利用を禁止する範囲、程度などを明確にしておくのがよい。

著者
横山 康博(弁護士)
2010年6月末現在の法令等に基づいています。