ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

片腕的存在の専務に鬱の兆候…。休養させたいが本人が納得しない
 素人判断は厳禁。まず専門医への受診を勧めることである。

ストレスが引き金になることが多いため、「心の弱い人の病気」と誤解されがちだが、鬱病は脳の疲労から起こり、意欲や気力が低下して物事を悲観的に考えたり、正常な判断ができなくなる病気だ。健康な人が思い悩んだり、心が落ち込むのとはまったく異なるのである。
鬱病になった場合に顕著なのは、「眠れない」「食べられない」「だるい」の三症状が2週間以上続くこと。加えて、欠勤や遅刻(早退)が増え、泣き言を言う、能率が著しく低下しミスや事故が続く、我慢強い人が辞めたいと言い出す……。こうなったら、鬱の可能性が大きく、最後には自殺などを考える危険な兆候といえる。
しかし、鬱病と思われる人に対し、いきなり休養を勧めてはいけない。症状を見極め、休ませるかどうかを判断するのは経営者の役割ではない。
どこかおかしいと感じたときはまず、専門医への受診を勧める。そのうえで休養が必要なのか、働きながら治療ができるのかの判断は、医師が下すのだ。
受診先は症状によって異なるが、能率が下がり眠れないようなら精神科、心療内科だ。鬱病に見えても一概にメンタルな問題とはいえない。アルツハイマーや認知症の発症ということもあるし、脳腫瘍や内臓の弱りが鬱症状を引き起こすこともある。いずれにせよ、早めに医者にかからせることである。
その場合、焦って「とにかく医者へ」というのはタブー。それは鬱病の人にとって、「迷惑だ」「辞めてくれ」と聞こえる。また、「たるんでるぞ!」「頑張れ!」などと叱咤激励したりするのもいけない。本当に鬱病ならば、気合いで治せるものではない。「温泉でも行ってのんびりしてきたら?」と気分転換を促すのも無意味である。

<< 相手の義務感に訴える >>

では、どうするのが望ましいのか。たとえば、一緒に食事するなどして、「食が進まないようだけど、一度医者に診てもらったらどう? 何でもなければ安心できるし」「仕事を降りろと言っているわけじゃない。会社にとっては君が元気に活躍してくれるのが一番。少し休んで元気を取り戻すことが、いまの君には大事な仕事なんじゃないか」と、相手の義務感に訴える。
鬱病になりやすいのは几帳面で律儀、会社への忠誠心が強い人に多い。強い信頼関係で結ばれた片腕的存在の相手なら、気持ちは伝わるはずだ。
どうしても受診しないようなら、次の手段として家族から勧めてもらう。ただし、個人情報保護法の問題もあるので、「奥さんにも話すけど」と、事前に承諾を得るようにする。
治療と復帰までのプロセスは受診後に医者が診断書を出すので、それを見てから対処を決める。主治医と本人を交えた三者で今後のことを話し合うとよいだろう。
鬱病ならばほとんどは、数か月の通院と自宅療養になる。すぐに完治とはいかず、半年、1年かかる場合もある。3か月休めばたいてい仕事勘を失い、能力はせいぜい6割程度に落ちるから、リハビリ期間は十分にみておく必要がある。
本人が焦っていたら、「早く完全復帰したいという気持ちはわかるが、急がば回れだよ」と、諭すくらいの余裕が周囲には求められる。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。