ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

職場を改善するために提案制度を活性化させたい
 制度(ハード)よりも理念(ソフト)浸透が大事である。

提案制度を実施して好業績を上げている会社に、金型製造のミスミ(東京都江東区)がある。同社は、「企業家型人材は育てるのではなく、自ら育つ」という共通認識のもと、「自由と自己責任」を人事の基本理念としている。
ミスミでは、幹部社員が次年度の事業計画を経営戦略会議に提案し、事業のビジョン等をプレゼンテーションする。会議で承認が得られれば、提案者自らがその事業のチームリーダーとなる。
ここで大切なのは、制度という「ハード」よりも、風土や理念といった「ソフト」をどう浸透させ、社員の意識を変えていったかということだ。
同社では、企業理念を実現するための方策として、社内企業家を育てるにはどうしたらいいのかを検討してきた。
その答えの一つとして、社員の意識改革を本当に達成するためには、「サラリーマン型組織」を破壊し、企業家型組織へと脱皮させることが必要。その実現のために、この公募によるチーム制を導入したのだ。
相談者の会社では、経営理念や行動基準がいまの提案制度とリンクしているだろうか。
提案制度導入の失敗原因の多くは、(1)経営理念・行動基準が全社員に浸透していない、(2)社員が問題意識を感じていない、という二点にある。
つまり、社員が「自立的行動」を起こすための風土ができ上がっているかどうかが大事なのだ。
経営理念と行動基準は、どちらが欠けても問題を解決できない。
しかし、多くの企業では行動基準を作成してまで徹底しようとはしていない。また、企業の目指すべき方向性を示していなければ、社員に自立性を促すことはできない。
たとえば、「クルマを作るためにボルトを締めろ」と言われるのと、「世界一品質の高い工場にするためにボルトを締めろ」と言われるのとでは、どちらのほうが社員のやる気を引き出すだろうか。また、どちらが社員からの提案を生み出しやすいだろうか。答えは言わずもがなであろう。

<<経営理念を実現する公式>>

あらためて説明すれば、「経営理念」を実現するために設定するのが「行動基準」なのだ。それは、経営理念を実現していくための「公式」のようなものだといえる。
ともすれば経営理念は、経営者側からの一方通行になりがちだ。
そのような状態では、社員からの提案も的を外すことが多く、せっかく提案制度を設けても、効果はなかなか現れないだろう。そこで、経営側と社員側の橋渡しをしてくれるのが「行動基準」なのだ。
東京ディズニーランドやトヨタ自動車など、日本を代表する企業では、例外なく社員の仕事に対する意識が高いものだ。従業員にとって、仕事は単に収入を得るための手段ではないのだ。その意味で、提案制度の活性化は、報奨金の額と比例するものではない。
職場を、「何のために生きるのか」「どのような人生を送るのか」など、“自己実現の欲求”を満たす場でもあるととらえ、社員が自律的行動を起こす風土を作り上げることが大切だ。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。