ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

待遇に不満を言う研究部門の社員はどう処遇する?
 何より会社の「和」を尊び、研究部門を特別扱いしないことが必要である。

最近は、特許発明で給与のほかに多額の報酬を要求する研究者もいるが、私はその考えに同意できない。日本では多くの研究者は企業におんぶにだっこをしてもらっているのが現状。それで特許を発明したら報酬をくれ、というのはおかしな話だ。企業の縛りが嫌なら会社を辞めて、研究者自身が資金を集めて開発をすればいい。
いまは研究開発部門だけが話題になっているが、そういう要求を許したら、やがて営業や経理など他部門にも問題は飛び火するだろう。
当社では社員の約一割が研究職だが、彼らを特別扱いすることはない。目に見える成果を上げた社員には金一封と賞状を贈るくらいで、開発の成功報酬やインセンティブのようなものもない。本音はわからないが、とくに揉めることはないし、辞める社員もいないところを見ると、そこそこ納得してくれているのではないかと思う。
それには、社員の自主性を尊重していることが、よい影響をもたらしていると思う。当社では、研究開発職にノルマや売上目標は課していない。業務内容も研究に関することなら何をやってもいいと言ってある。
根本は、いかに楽しく仕事ができるかだ。本当に素晴らしい発明というのは、世の中にまだないものを作ること。開発の結果が出るまでには、そうとう長い時間と多くのコストがかかる。しかも、ものにならないことのほうが多い。そこで、モチベーションを維持しつづけるのは、やはり研究者がもつ夢だとか、やりがいをもって仕事に取り組めるかどうかということだ。報酬を前面に出したら、満足のいく開発などできないだろう。
夢を追いかけつつ、楽しく仕事ができれば、よい結果が出てくる。経営陣の仕事はそういった環境を作り上げ、維持していくことだと考えている。
また、特許に該当する開発の場合は、あらかじめ特許は会社に帰属すると定めておくべきだ。そのうえで、本当に個人のがんばりで取得した特許なら、会社だって無視はできない。

<< 日頃から協力の重要性を説く >>

忘れてはならないのが、「協力しあう」という社内における素地作りだ。
よく「研究は孤独な作業」というが、私はそうは思わない。たしかにある面ではそうかもしれないが、最終的には様々なスタッフの協力があってこそ製品は完成する。それを誤解しないような素地作り、コミュニケーションが重要だ。つまり、普段からもちつもたれつの関係、思いやり、気配りの重要性を説いていくことが欠かせない。
また、そういうことに同意しない、できない人は排除することも必要だ。研究職は、思い上がりがちな職種だ。自分のかかわった特許が認められれば、驕りの気持ちが出ることもある。他部門に対する特権意識を捨てさせ、「和」を維持していくことが会社の強さにつながる。
企業とは、トップに似た社員が集まるものだ。お金が好きな社長のところには高収入を求める社員が、研究そのものに価値を見出す社長のもとには同じような社員が集まる。会社のトップから姿勢を正していれば、報酬・待遇ばかりを求める研究者は居づらくなる。結局は、経営者自身の姿勢が問われているということだろう。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。