ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

役員就任を拒む部長がいるが、どう説得するか
 夢を社員と共有できているか、まずは己を振り返るべきである。

役員に推すくらいだから、その部長は有能で責任感があり、人望も厚い人物なのだろう。そのような人物が役員就任を拒むということは、裏に何らかの事情(リストラの隠れ蓑など)があると勘ぐられているのかもしれない。もっとも、ご相談者にそんな邪推を受ける覚えがないならば、結局、その部長は不安なだけかもしれない。
しかし、そうだとすれば問題の根は意外と深いところにあるといえる。
真面目な経営者ほど、責任をもとうとするあまり、何でも自分で背負い込もうとする。これは一見立派なようでいて、実は大きな勘違いである。
会社で起こったことは、よいことも悪いこともすべて、社長の責任である。それは当然だ。
しかし、責任を負うことと、全部一人で背負い込むこととは別の話だ。全部自分で、ということになれば、会社の業績も社長の手柄ということになる。
「責任」というのは、重い反面非常に美味しい果実でもある。本当はその果実を皆で分け合うことが必要なのである。
一人で抱え込む社長の元では、社員は「社長が何を考えているのかわからない」と不安になる。役員に抜擢して「営業統括をまかせる」などといっても、絵空事に感じるだろう。
ご相談者にしてみれば、なぜ自分の考えをわかってくれないのか、という思いもあるだろう。だが、日頃から社長として、社員に夢やビジョンを語っているだろうか。経営計画をオープンにして短期目標を提示するといったこととは別に、10年、20年というスパンでとらえた社長の夢を、きちんと社員に伝えているだろうか。
会社の将来像が見えなければ、社員は不安になる。そのような状況で、くだんの部長が役員として、泥をかぶって汗をかき、重責ある仕事をしようという気になるかどうかは、はななだ疑問だ。

<< 「期待」を具体的に示す >>

実は私も、ご相談者と同じ経験をした。打診して一度は断られた。
このとき私は根気強く真剣に話をした。彼に何を期待しているのか、経営のどの部分を任せたいのか。報酬や退職金の話もしたし、具体的に明文化して示しもした。それからもう一度打診したら受けてくれた。
優秀な人間なのだから、以心伝心で伝わると思ったら、それは違う。人間誰しも、幾つになっても初めて体験することに関しては不安なものだ。まずは、ご自身の考えを具体的に説明することが大事だ。
また、直接参考にはならないかもしれないが、このような場合、私は自分の持分から株式を分け与えるようにしている。いくら口で「やりたいようにやっていい」と言っても、なんの後ろ盾もないのでは、結局、イエスマンになってしまう。発言力をもたせ、期待しているということを、何らかの具体的な形で示す必要はあるだろう。
もし、そこまで意を尽くしても「役員は御免だ」という人物なら、これはむしろ任せなくてよかったということだ。
自戒の念を込めて言うが、この件だけでなく、すべてを抱え込みすぎて社員に不安を抱かせてはいないか、もう一度、自身を振り返ってみてはどうだろうか。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。