ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

業績悪化で役員の退職金を規程どおり支払えない
 株主総会の決議があれば役員分の支払い義務はない。

役員の退職金支給の可否・金額は、株主総会で決議することとされている(役員相互のお手盛り的な支給により、株主の利益が害されないことを目的とする)。
ただし、役員退職金規程があらかじめ株主総会で承認されている場合には、「規程に従って退職金を支払う」旨の決議だけがあれば、具体的に金額まで決議する必要はない。
質問のように、会社の業績が悪化していれば、株主総会でその旨を説明して役員退職金を支払わないことを決議する、あるいは退職金支給自体を総会の議案としなければ、退任役員に退職金を支払わなくてもいいことになる。
つまり、役員退職金規程は、従業員退職金規程の場合と違って、労働法的な権利ではないため、同じ退職金規程でも法的意味がまったく異なるのである。

<< 労働者性の検討が必要 >>

役員退職金に関する会社法の規定は、純粋に役員(取締役)として委任された者と会社との関係を前提とする。いったん従業員を退職して退職金を受領し、そのうえで取締役に選任された者については、会社法の規定どおりの扱いで何ら問題はない。
しかし、現実には多数の役員は従業員兼務取締役である。そして、ほとんが役員の退任に伴い、従業員としても退職する形となる。
もし、質問にある役員がそれに相当するのなら「従業員としての労働者性」という要素を考慮しなければならない。
従業員退職金規程がある会社なら、従業員として就職したときから今回退任するまでの期間について、従業員退職金を支給する義務が生じる。
従業員退職金規程があるのに取締役昇格時点で退職金を支払っていない会社の場合、「取締役になった以上は退職金支給の可否は株主総会の判断だから、場合によってはいっさい支払わないことも可能だ」という考え方は通用しないのだ。
また、役員兼任前の従業員時代の期間に相当する退職金のみを支払うという考え方も、過去の判例に照らすと通用しにくいと考えられる。よって、退任までの従業員としての勤務期間に相当する従業員退職金を支払う必要がある。
ただ、従業員兼務取締役の、従業員としての退職金支給の基礎となる従業員給与が明確になっていない場合には、支給に際して困難が生じる。実際、役員報酬として一本化している例も見受けられる。
そのような場合、報酬のうちから従業員分の割合を決めて計算する必要があるので、その割合について退任取締役と合意する必要がある。
一方、役員としての退職金については、兼務取締役でも、株主総会の判断で不支給とすることも法的に可能と考えられる。
一般に曖昧になりがちな従業員兼務取締役の退職金支給については、会社・従業員双方が納得できるルールを作っておくことが大切だ。
そして、従業員部分の退職金に上積みする趣旨の役員退職金については、会社業績に応じて適宜、株主総会で改定していくべきであろう。
ルールがない場合には、退任までの従業員退職金相当分だけはきちんと計算してしっかり支払い、それ以上は事情により判断、という対応が必要となる。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。