ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

役員に登用する際の留意点は
 親族であれば、事業部長のような売上と利益について責任のある部署長に据えて、成功するかどうかを見極めたうえで登用する。社外から招くのであれば、何を求めているのか、ダメだったときには辞めてもらうことを明確に伝えておくことが必要である。

社長の配偶者や息子、兄弟など親族を選ぶケース
身内が本当に有能かどうかはわかりにくい。だからといって、他に意見を求めても、「いいでしょう」とか「何とかなると思います」といった答えしか返ってこない。たとえば顧問の税理士に聞いても、社長の息子は将来の重要な客だから、その登用について悪い話はしない。
身内という理由だけで登用すると必ず失敗する。大切なのは、事業部長のような売上と利益について責任のある部署の長に据え、成功するかどうかを見極めてから役員にすることだ。
経営者の素質は勉強して獲得できるものではなく、生来の素質が磨かれて経営者にふさわしいものとなる。そこをきちんと見極めたい。1つの事業で成功しないのに、役員、さらには後継者となることを前提として登用するようでは、企業の維持・発展など覚束ない。
それと、役員とした後、結果的に後継者になるとしても、そうなるまでは、「息子(弟など)に譲ることになるかどうかわからない」と社員に明言しておくべきだ。身内の能力については、社長より社員のほうが的確に見抜いている。早くに発言してしまうと本人の努力も甘いものとなり、身内の能力を見切った社員は会社を離れ、自分の代で事業を傾けてしまうことになりかねない。
なお、役員となった息子が跡を継ぐときは、自分が育てた役員のうち、後継者を困らせるようなタイプは残さず自分で引き上げるか、辞めてもらうようにしたい。彼らを残して自分だけ退任してしまうと、上下関係が崩れて後継者はトップダウンの経営ができなくなるおそれがある。

社員から抜擢するケース
一般社員から課長クラスまでは昇格・昇進制度をきちんと作成している企業も多いだろう。それになぞらえて役員への登用についても一定の基準をつくろうとする企業もあるが、それはまったくのムダだ。
役員は、あくまで事業家である。サラリーマンで成功する人と役員で成功する人は違うのだという考えをもちたい。
確かに取締役事業部長などいわゆる執行役員級の登用はそれなりに社員の希望のシンボルになり得るので、長く勤めて実績と信頼のある社員を登用するのはよいだろう。しかし、常務や専務、副社長など経営戦略を練る部分となると、そうした実績や信頼感プラス経営者としての素質を問わないといけない。

友人やかつての同僚、他社スカウトなどを迎え入れるケース
これらの場合は、他社で活躍した人が自社で活躍できるとは限らないのだから、迎え入れる前に、社長自身が何を求めているか十分に伝えることが大切である。単に「あなたの経験と技量を買いたい」といった話ではなく、社長自身がやってきたこと、補佐役・参謀として手伝って欲しいこと、あわせて報酬面を明確に伝える。
そして、社長が望むことを実現できなかったら辞めてもらうこともはっきりとしておく。役員として迎え入れる場合は、うまくいかなかったら降格させて一般社員にすればよいなどと甘い考えをする必要はない。役員としての職務を実行できるか、できなければ去ってもらうか。この2つの選択だけでよい。これを明確な文書にして交わす必要がある。
また、一般社員として入社させて数年後には役員にするといった悠長な考えではなく、最初から役員として迎え入れたほうがよい。何にせよ上役が外からくれば古参社員はいい思いをしないが、最初から社員とは違う立場の人間として採用したほうが、社員も入ってくる役員も仕事がしやすいだろう。もちろん十分に活躍してもらうために、古参社員の妬みや反発は社長が受けとめるべきである。
個別にいえば、友人やかつての同僚は迎え入れるべきではない。どんなに優秀でも、社長との上下関係をはっきりさせておける人物でなければ、後々のトラブルになる。
オーナー経営において、ワンマンと民主的運営は両立する。それは上下関係をはっきりさせたときで、そのときこそ役員は力を発揮すると考えるべきだ。
再就職者を役員として迎え入れるのも勧められない。“旬”を過ぎた人材を、マネジメントの中枢に置く必要はないからだ。かつての経歴や気迫は続かない。その再就職者も「これが最後の勤め先だ」と思えば、かつての気迫もどこへやら、実に穏やかになるものだ。
だから、再就職者に関しては、その人の技能を一定期間だけ発揮してもらうという考え方をすべきである。雇用でなくても請負や委任契約で働いてもらうこともできる。

イエスマンもノーマンも必要なし
社長の都合のよいように、イエスマンを取巻きとして固めるのはいただけない。
ただ、ノーマンにもいくつかの種類がある。社長を尊敬し、その発想を理解したうえでノーと言える人もいれば、自分が有能であることを見せようとか、最初から責任逃れを考えているとかの理由でノーと言う人もいる。
社長の配偶者や息子・兄弟などの親族のノーマン以外は、たとえ優秀であっても役員から外すべきだ。社長のマインドを萎えさせるからである。

誰を残し、誰を斬るかを決めておく
さらに、すべてにわたっていえることだが、役員人事では1つの事業が成功したら誰を残して誰を斬るか、あらかじめ決めておきたい。役員として1年も働いてもらえば、できる仕事のレベル、リーダーシップ、構想力、計画力、実行力などで必要ないと思える人物が出てくるはずだ。そういう人物には、残された任期の報酬を支払ってでも任期満了を待たずに辞めてもらったほうが、事業は円滑に進む場合がある。
また、オーナー型中小企業では、株式を役員に分配するかどうかということも問題となるが、株式を公開する意思があるなら分配し、その意向がないならオーナー社長に集中させておけばよい。オーナー社長として、何も発言力を削ぐような真似はしなくてよいだろう。
誰を役員にするかは、企業にとってマニュアル化できない極めつけの人事である。社長、会社の個性であり、戦略の実現性を決定づける重要な決断であることを肝に銘じたい。

著者
中村 壽伸(日本経営システム研究所社長)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。