ビジネスわかったランド (経営・社長)

人材の登用と処遇

マニュアルに従わないアルバイトに手を焼いている
 実体がともなわないマニュアルは逆効果。現場で手本を見せることが先決である。

「マニュアルを作れば現場がそれに従う」というのは、思い違いだ。マニュアルは、それまでやってきたことをいったん整理して、経営者が一人で手が回らなくなってきた部分を補うためにある。マニュアルが先行してそれに人が追いつく、あるいはマニュアルがあるから繁盛する。それはあり得ない。繁盛しているから、そのやり方を全店舗に敷衍するために整理する。それがマニュアルなのだ。
当社は寿司店などを展開しているが、私の経験からいうと、店舗が五店までならマニュアルは不要だ。社長が母店的な店に週の半分いるとしても、十分目配りはできる。そのために店長がいるのだ。当社では、従業員がアルバイトを含めて500人を超えるまで、いっさいマニュアルはなかった。結果としていらなかったということだ。
現在では、新人の入社前後1週間は、マニュアルを使った研修をしている。それも接客の基本動作だけで、あとは実地で覚えてもらう。マニュアルを作る時間や手間があったら、自ら現場に立って直接、具体的に指導し、体で覚えさせるようにしていくべきだ。

<< 社長が率先して現場で指導する >>

ただ、留意点はいくつかある。第一に、社長が率先垂範していくこと。これは絶対に欠かせない。次にそれをアルバイトにロールプレイングさせていく。実際の業務のなかで、いろいろ問題が出てきたら、お客様の目があろうとも、気がついたときに指摘してあげることだ。多少厳しくする必要はある。
結果として、やる気になってついてきてくれる人間と、ついてこれない人間に明確に分かれるが、それはしかたがないことだ。辞めていく人間が続出すると、どうしても「俺のやり方が間違っているのか」と自問し迷ってしまいがちだが、自分が決めた基準に届かない人は不要だ、というくらいの信念をもってやるべきだ。
もちろん、アルバイトがすべて辞めてしまうという事態もあり得る。そうなったとしても、決して無駄ではない。そこまでやろうとした店なのだという実体は残っている。次に入ってきた人たちに、「ここはそういうふうにやらないといけない店なんだ」と思ってもらえるだけのものは、培われているはずだ。
また、いまの若い人たちには、どうすれば世の中や他人に喜んでもらえるかがわからない人が多い。「こうしてはいけない」「こうするのが正しい」ということを、実地に教えていく必要がある。当社では躾・挨拶を大切にしている。いまの若い人たちは「すみません」という言葉はすぐ出る。そうではなく、「ありがとうございます」と感謝の念のこもった挨拶ができるような教育が欠かせない。
それと当然ながら、どんな店を作っていきたいのか、経営理念が経営者に備わっていなければならない。それは言葉や紙に書けばよいのではなく経営者自身から匂い立つようなものだ。
繰り返しになるが、いまのマニュアルは撤廃して、社長自ら汗をかき指導すべきである。その前提として躾・挨拶が重要になる。若い経営者には優秀な方が多く、そのためか筋道を立てすぎる嫌いがあるようだが、世の中には理屈以前にやらなければいけないことがあるのだ。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。