ビジネスわかったランド (経営・社長)

取締役の職務

取締役にはどの程度の知識や能力が要求されるか
 取締役は、経営陣として会社経営の舵取りをしなければならない。

会社を繁栄させて株主からの信任に応え、社員の生活を安定させるためには、相応の能力や知識が要求される。取締役が通常要求される程度の注意を怠って誤った判断をすると、忠実義務違反となるが、そのような誤った判断をしないための前提として、取締役には相応の能力・知識が不可欠なのである。
ちなみに、通常程度の能力・知識を欠いていた場合、それ自体で忠実義務違反になるといえよう。自分の能力や知識の範囲内で精一杯のことをしたという弁解は通用せず、取締役を引き受けた以上は、それからでも相応の能力・知識を身につけなければならない。

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要求されるのは、まず会社業務についての能力や知識である。取引の慣行や実態、取引先や業界の動向、取扱商品、業務に対する法的規制や、社内業務の処理方法等に関するものである。使用人を指揮監督するうえでは、労務上の安全衛生、災害防止に関する知識も不可欠である。
一般的な法律知識も欠かせない。対外的取引においても社内管理においても、法律知識の有無は、取引の安全や経営の安定を大きく左右する。とくに必要と思われる基礎知識としては、手形・小切手、売買や請負など業務上の契約、会社法、債権回収、金融や担保、労働基準法などに関するものがあげられる。
一般的社会常識も身につけておきたい。単に儀礼的な社会習慣についてだけでなく、経済や政治の動向、世界情勢などを知ることは、取締役としての判断に重要な影響を与えるはずである。
同じ取締役であっても、中小企業の取締役は大企業の取締役よりも大変であろう。一人の担当分野も広くなり、個人的な判断能力に委ねられることが多くなるからである。中小企業ほど、取締役の能力によって会社の命運が直接に左右される。

著者
横山 康博(弁護士)
2010年6月末現在の法令等に基づいています。