ビジネスわかったランド (経営・社長)

役員給与・賞与・退職金

名前だけの非常勤役員に報酬・賞与はどこまで出せるか
 非常勤役員への報酬は、税務署のチェックが厳しく、報酬額が過大かどうか、報酬に見合う仕事をしているかなどが出せる基準となる。

<< 過大かどうかの認定は、総合的に判断される >>

非常勤役員とは
非常勤役員は、「会社の業務への関与や勤務実態が常勤役員ほどではない役員」ということになるだろう。社内的な肩書は取締役、監査役はもちろん、会長・相談役、また社外取締役であったりする。非常勤とはいえ、株主総会で選ばれ、取締役会で非常勤と決めたのだから、役員としての法律上の権限と義務は常勤役員と変わらない。
なお、株式会社の設立には代表取締役を含め3名の取締役と1名の監査役が必要だが、オーナー社長のもとでは実態として登記の都合上、親族の名前を借りただけで、その取締役・監査役は非常勤役員という程度にしか業務にタッチしていないケースも多いだろう。
これらも含めて非常勤役員への報酬は、税務調査で厳しくチェックされる。金額が過大ではないか(損金算入できない部分がないか)、とくに同族が非常勤役員である場合に、結局は社長の懐に入っているのではないか(社長への賞与となる)ということだ。この点、否認となれば法人税と所得税の両方にまたがる追徴となるケースもあるから十分に調べられるのだ。

中小企業の非常勤役員の報酬・賞与データ
まず、各社は非常勤役員に対して報酬などをどのくらい支給しているか。これについて見たのが次の表である。


会長を除き、平均的には大卒初任給より低い金額が多い。もっとも、これは支給実態をデータで見たもので、「この程度の額であれば税務上、問題とされない」というものではない。
そもそも税務上は常勤役員と非常勤役員を明確に区別する規定、報酬額についての規定はないのだ(役員賞与については損金不算入だから、原則的には税務上は問題とならない)。
要は、役員が常勤であるか非常勤であるかに関係なく、「業務の対価として適正か」が問題となる。そのため、本当に“名前だけ”の役員で何ら業務にタッチしていないのであれば、報酬はゼロが適正となる。実際、非常勤役員に対しては、報酬を支払っていない企業も多いだろう。
ただ、文字どおり名前だけの役員への報酬はゼロでなければならないかというと、そんなことはない。何ら業務にタッチしていないといっても、役員である限りは、法律上の責任を負い、権限をもつからだ。
このため、月に換算すれば数万円の報酬を払っているケースはあるだろう。これについては、毎月、定額を支払っていれば報酬となり、まとめて支払っていれば賞与となる。まとめて払っていても、「毎月の報酬を支給せず、年俸等の名目で年1~2回あらかじめ定めた時期に定額を支給」しているのであれば、報酬の定義の例外扱いで損金算入が認められる。

形式基準と実質基準
このような報酬の額が過大かどうかについては、税務上は形式基準と実質基準という尺度で判断される。
形式基準とは、定款の規定や株主総会決議を超えた金額になっていないかどうかで判断することだ。これは明瞭である。一方、実質基準は、
1 その非常勤役員の仕事内容
2 会社の収益状況
3 社員の給料との比較
4 同業種・同規模の会社の役員報酬との比較
などによって考える。その非常勤役員の経歴が加味される面もあり、常勤役員の経験の有無なども経歴の大きな要素だ。つまり、実質基準とは「○○万円以上は過大」といった具体性のあるものではなく、税務調査での事実認定によって変わってくる額ともいえる。
このような報酬に対する判断の仕方は、ほとんど業務にタッチしていないケースばかりではなく、「取締役会には顔を出している」「年に数回は帳簿を見ている」「受注のための口利きの役目をもっている」「経営上の意見を求められたときにアドバイスしている」といった程度の業務への関わり方をしている非常勤役員にも同じように適用される。

<< 判決・裁決や税務調査を踏まえる >>

実質基準では金額の妥当性にさまざまな要素が絡むが、その点について最近の判決・裁決で見てみよう。

設立メンバーの妻の場合
娯楽業を営む有限会社では、設立時の経営陣となった社長の妻を非常勤役員とし、年額700万強~950万円ほどの報酬を支払っていた。だが、税務署は、その妻の報酬は年額約130万~190万円が適正とした。同族役員の報酬の過大部分を否認したわけだが、97年9月、国税不服審判所はこの税務署の判断を支持した。
妻が行なっていた業務の具体的な内容はわからないが、妥当な報酬額は月に10万円強ということになる。設立メンバーであっても、業務への従事の度合いによっては、著しく低い金額にせざるを得ないと理解しておいたほうがよいだろう。

他に仕事をもつ息子の場合
勤務医であった社長の息子を役員として登記していたケースで、息子に支払った役員報酬の額300万円、役員退職金2,000万円を過大役員報酬・賞与と認定(損金経理を否認)したうえ、仮装・隠蔽があったとして重加算税が課せられた事案がある。税務事件として地裁で争ったものの、会社側の不服は退けられた。
要するに、名目的な役員と判断され、長男が経営に助言などができたとしても裏づけがなく、報酬・退職金が父親である社長への報酬・賞与とされたのである。他に仕事をもつ息子などを非常勤役員とするケースは多いが、その非常勤役員への報酬などは社長の所得隠しを疑われかねないと心すべきだ。

報酬に見合う仕事をしてもらうことが肝要
では、非常勤役員を置く場合に、報酬などについてどう考えて決めていけばよいか。
基本的には、まず、その非常勤役員は同族なのか、同族ではないのかを確認する。同族の場合には、これまでの経歴を聞き、どのようなことをやってきたのか、ほかにどのような仕事をしているのか、また、この業界での知識や経験、人脈等をチェックする。そのうえで、会社のためにどの程度の仕事をするのかを説明してもらう。そして、この人と同程度の同族ではない第三者を従業員として雇ったとしたらいくらくらい給与を支払うのか確認する。最終的には、非常勤役員であっても商法上の責任があるぶん若干の上乗せをして報酬を決めるというような順序で考えていく必要がある。
税務調査では、非常勤役員に報酬を支払っていれば、「この人はどんな仕事をしているのですか」と必ず聞かれる。
そんなときには、仕事の内容と報酬決定の経緯を説明することとなる。
では具体的に、「月額20万円」となるとどうか。これは大卒初任給と同等の額となる。さまざまな要素が絡むので一概には言えないが、この面だけを比較すれば「大卒新卒者レベルの仕事内容」が非常勤役員に求められる。そのとき「この人には月1回だが、経営上、重要な助言をもらっている」と言っても、その主張が通るとは限らない。むしろ、「ほとんど業務にタッチしていないのに、大卒新人並みの報酬はおかしい」と受け取られるかもしれない。
なお、「社長の懐に入っているのでは?」と疑われないようにするには、報酬は振込みで証拠を残すようにしたい。また、取締役会への出席の際には、交通費をきちんと支給して、参加している証拠を残すなどの書類整備も考えたい。

著者
日本実業出版社「経営者会報」編集部
2004年11月末現在の法令等に基づいています。