ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

会長から相談役に降りたいが後継社長が頼りなく思えてしまう…
 会長か相談役かは問題なし。まずは意見を述べることを控えるようにする。

私自身、71歳のときに会長になって40歳の息子に社長を譲った。だから、社長が頼りなく見えてしまうという、ご相談者の気持ちはよくわかる。かといって、いつまでも“手取り足とり”というわけにはいかない。社員たちにはしっかりと新社長を支えていってもらわないといけない。
そこで、社長の求心力を強めるために会長から相談役に降りるというのは、確かに一つの考え方だが、実は問題なのは肩書きではない。ご相談者と社員のかかわり方である。ご相談者は、社長を飛び越して社員の意見を聞いたりしていないだろうか。社員の目が社長ではなく会長のほうを向いているのが変わらなければ、肩書きが会長から相談役になったところで、状況は変わらない。
将来の会社を背負って立つのは、ご子息や若い社員たちである。彼らに、悩み考え、自ら判断・決断する機会を数多く与えないと、いざ困難にぶつかったとき、それを乗り越えることはできない。それでは会社の将来もない。
ならば、親の世代は何をすべきか。経営トップの座をご子息に譲ったのであれば、自分の意見は極力述べないことだ。社員が直接、考えを聞きにくるようなことがあっても追い返し、必ず社長を通させる。実はここが、会社の将来を考えた場合、最も重要な点である。
とはいえ、「会長は一言も口を出さず、一切口をつぐむべき」というわけではない。ご子息を含めた役員たちに詰めの甘さを感じたら、大いに戒めるべきだし、経営に対する心構えといったことは、むしろ先輩経営者として積極的に話すべきである。詰めの甘さを戒めるのと、自分の意見を述べること――大事なのは、その峻別である。
よく、会長になったら役員会にも出ないという方がおられるが、一方で、二代目社長が自分のカラーを出そうと焦り、結果的に会社を傾けてしまったという例もある。だからこそ、ご相談者には、肩書きにこだわらず「よきアドバイザー」になるよう心がけてもらいたい。

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「社員の目が会長に向く」状態をあらためるために、次のようなことをしてはどうだろうか。
一つは、役員陣にご子息の世代ないしその少し上の人間を加えてみる。たとえばご子息が40歳ならば、タイミングを見計らって40代の人間を入れる。世代間対立が起こらないように十分に注意することはもちろん必要だが、少なくとも40代の人間は会長よりも社長のほうを向くはずだ。世代交代が進んだことで、若い社員の意識も変わるだろう。
それともう一つ、代表権を外されてはどうか。これも会長のままか相談役に退くかと一緒で、もっているかどうかでさして違いはない。はっきり言えば、オーナーである限り、いつまでも周囲は“会社を代表する人間”ととらえるものだ。
ただし、ご子息に与えるインパクトは大きい。法律上は完全に“経営トップ”になるわけだから、いままで以上に気を引き締めて経営に臨まれることだろう。その気持ちの張りが、ご子息を大きくしていく。案外、こういう象徴的なことがきっかけで人間というのは変わるものである。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。