ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

高齢の幹部が新社長の足を引っ張るのではと心配…
 幹部を「協力勢力」にするためにも人事権は新社長に握らせる。

高齢の幹部が新社長の足を引っ張るような徴候が、実際に見えているのであろうか。そのような徴候もないのに、親心から、古参幹部がいることで、ご子息が新社長として存分に力を発揮しにくいのではないかと心配しているのであれば、なおのこと彼らには退いてもらわないほうがいい。年功や過去の業績だけで幹部に登用しているような人は別だが、実力のある人には退いてもらうべきではない。むしろ、彼らの力をご子息が活かせるような体制を作り、彼らを協力勢力にするようにすべきであろう。
中小企業は、若い人間とベテランが協力しあってこそ、発展することができる。新しい発想も、培ったノウハウという土台があって初めて活かされるというものだ。年配の幹部に退いてもらうのは、実を言えば難しいことではなく、オーナーがその気になれば簡単にできる。しかし、易きに流れては、結果的に大切な経営の土台を壊してしまいかねない。

<< ポイントは譲る側の姿勢 >>

では、どうすればベテランの力をご子息が活かせるようになるかだが、簡単に言えば、人事権をすべて新社長に握らせることだ。名実ともにトップになった人間の方針には、誰しも真剣に耳を傾ける。仮にトップに意見をするにしても、足を引っ張ってやろうという邪な気持ちからではなくなるはずだ。
実際、ご相談者が心配されるような世代交代に伴う問題は、しばしば耳にする。しかし、よくよく聞いてみると、任せたとはいっても人事権だけは会長が握っていたりする。しかも、しょっちゅう新社長のやり方に口を挟む。これでは、周囲のベテラン社員は、当然「私たちも」となる。新社長の方針を軽視するようになってもしかたがない。
しかし、新社長が人事権を握れば、軽視はできない。抵抗したとしても、覚悟をもってするわけだから、それらは傾聴に値するものであろう。
そうやって、世代の違う人間が意見を闘わせてこそ、本当に市場の評価にも堪えるものができ上がっていくのではないだろうか。よかれと思って、年配者を退かせることは、結果的にイエスマンばかりを、ご子息の周囲に配してしまうことになりかねない。
いずれにしろ、年配の社員が新社長の足を引っ張るかどうかは、譲る側の肚一つである。
とはいえ、若いご子息に人事権を握らせるのは、どうにも不安だというのであれば、事前に相談だけはしてもらうようにすればいい。もっともそれも、役員人事についてだけに留め、それ以外は口を出したくても黙って見守ることだ。それが結果的には、ご子息の成長にもつながり、会社のためにもなる。
私が息子に社長を譲ったときは、後継後も口出ししてしまいそうな心配があったので、社長交代時に「今後、人事を含めてすべてを新社長に任せる」と社内外に宣言して、自分自身に縛りをかけた。また、息子と毎日“交換日記”のような形で業務の連絡を取り合うようにした。新社長もなりたてのころは不安だらけだから、いろいろアドバイスを求めてくるもので、その機会に自分の意見をさりげなく述べていった。ご相談者も、そのような形でご子息をサポートされてはいかがだろうか。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。