ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

他社修行中の息子をいつ呼び戻せばよいか?
 他社の風土が染みつく前の30歳前後が最適である。

結論から先に言うと、社会人生活5、6年目が一番よい。
それ以上長く勤めてしまっては、他社の仕事の進め方や考え方といったものが染みついてしまい、貴社に戻ってきたときにギャップに戸惑うに違いない。
2、3年ではやっと学生気分を抜け出したところで、仕事を覚えたかどうか、という程度だろう。それでは、お世話になった会社にもかえって迷惑をかけてしまいかねない。
5、6年も働かせてもらえば、多少は勤め先の役にも立てただろうし、本人にとっても社会のしくみや仕事の流れがわかる時期である。さらには、他社を経験していなければ絶対に味わうことのできない「サラリーマンの気持ち」といったものも感じることができたであろう。
ご子息は、いずれ会社を継ぐのであれば、いつ戻ってもよいと考えているかもしれない。
しかし、たとえば大企業で部長クラスにまで出世したとしても、いきなり中小企業の社長が務まるかといえば、そうではない。組織の規模はどうあれ、やはり社長には社長の仕事がある。自分の理念や経営方針を社員に伝えて理解させ、実行させなければならない。それは、大企業の部長でも、すぐにできるものではない。
ご子息が貴社に戻ってきても、すぐに社長が務まるはずはなく、最初は現場の仕事から始めなければいけない。そして会社のすべての業務に精通するようになるまで、やはり10年くらいはかかる。だから、体力的にもムリがきき、頭もフレキシブルな30歳前後が最適の時期なのである。

<< スタッフ育成が親の務め >>

何歳になれば戻ってくるとご子息と約束をしていれば、時期がきても悩まずにすむかもしれないが、もし約束していたとしても、他社での仕事が面白くなり始めると、やはり二の足を踏むだろう。とくにスケールの大きな仕事を一度でも経験してしまうと、その魅力にとりつかれてしまうことは、男なら容易に想像できる。
ご子息の才能や資質を考慮したうえで、後継者として考えておられるなら、子供のころから家業の事情をよく言い聞かせて、将来は継いでもらうということを、こんこんと説いておくことも大事である。
せっかく他社で得難い経験をしてきても、貴社に入社してのち、それが活かされなければ意味がない。ご子息が戻ってきたら、親として、また後継者を育成すべき経営者として、十全のサポートをするべきである。
その最たるものは先に述べたように、現場の仕事から覚えさせることである。本人にしてみれば不満かもしれないが、一般の従業員と同じ経験をさせるべきだ。そうでなければ決して仕事は覚えられないし、従業員の気持ちも理解できないだろう。
そして、ご子息が将来、会社を引き継いだときのために、組織と人材を整えておくことだ。
もちろん、ご子息が社長に就いてしばらくすれば、自分の思うようなスタッフを自分でそろえていけばよいのだが、社長就任当初は苦労しないためにも、助言を与えてくれたり、いざというときに頼れるスタッフを育成しておかなければならない。
その二点がしっかりしていれば、ご子息へのバトンタッチは比較的スムースに運ぶであろう。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。