ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

父の急逝で社長に就いたが、母が口出しをして困っている
 信頼できる第三者が間に入れば“摩擦”は活力に変えられる。

まず最初に申し上げたいのは、「摩擦は進歩の母」だということである。すなわち、互いのアプローチのしかたが違っても、会社をよくしたいという思いが同じであれば、よい方向に進んでいくはずだ。むしろ、対立する意見がある状況は歓迎すべきことである。意見の衝突というのは、会社に活力がある証拠だ。それを困ったことととらえては、物事は進歩しない。
とはいえ、頻繁に口出しされては、社員の手前、社長として示しがつかないという、ご相談者の気持ちもわかる。
実は、当社は母が創業した会社で、私にも同じような苦労があった。
経営に関する考え方では、とくに衝突した。私は、会社を大きくしようと意欲を燃やしていた。たとえれば「火」みたいなものだ。一方の母は、いわゆる京都商法の信奉者で、あまり規模を大きくせず、つねにキャッシュを厚くする。借金をして商売するなんてとんでもない、という考えの人だった。「あまり大きくしたらいけない」「借金したらいけない」と、私の情熱に冷や水を掛けるようなことばかりを言う。
先に私は、衝突は会社の活力と言った。しかし、火と水がまともにぶつかったのでは、お互いのためによくなかった。社内にも不要な軋轢を生んでいたはずだ。そこで、私は「鍋」になってくれる人を見つけて、状況を打開した。
つまり、私と母のどちらから見ても信頼がおけ、相談にのってくれる人物に、衝突したときなどにアドバイスをもらいに行く。火(私)と水(母)の仲介をしてもらうわけだ。それぞれの言い分を聞いて、鍋(仲介役)は、相応の着地点を見つけてくれる。これなら火と水が直接ぶつかりあうことなく、火は火、水は水とそれぞれ真価を発揮して、鍋の中が沸騰してエネルギーが生まれ、会社としての活力となる。

<< 双方に忠告できる存在を >>

その役割を誰に果たしてもらうかが問題になるが、私の場合は、顧問税理士と叔父の二人に担ってもらった。また、資金繰りが絡んできたときには、メインバンクの支店長にも鍋の役割を果たしてもらった。
要するに、この人の言うことなら腑に落ちる、というような存在でなければいけない。どちらかに関係が近かったり、利害が深く絡むような立場ではダメだ。お互いが信頼できて、私の言うことも母の言うことも受け止めてくれる。そのうえで、双方にうまく忠告できる。そんな存在が鍋の役に最適なのだ。
しかし、最良の解決方法は、何といっても実績という形で示すことである。言い合っている時点では、自分が正しいのか、母が正しいのか、その間をとったほうがいいのかわからない。その答がわかるのは、実績という万人にわかりやすい結果なのだ。
私も自分の信念を曲げずに貫き、当社をどうにか上場させることができた。それで母もようやく安心したのか、心から喜んでくれたのを覚えている。
ご相談者も、お母様と共通の知人で、信頼でき、鍋役を買って出ていただける方を見つけて、積極的に相談されてはいかがだろう。きっと現状よりよい結果が生まれるはずだ。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。