ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

父の急逝で引き継いだ会社の体質が古すぎる…
 徹底的な社内コミュニケーションで新旧が認め合う社風を構築する。

若い世代からすると、昔ながらの考え方や習慣というのは不合理に思えるものだ。
私も、35歳で父から会社を継いで、ガムシャラに社内改革に取り組んできたので、実績もカリスマ性も先代に及ばない後継者が、年配の社員たちを前に、リーダーシップを発揮して社内改革を進めていくのは、とても大変なことだと思う。
父の代までの「仕事は身体で覚えろ」という職人気質と、「道理を理解して納得してからでないと動かない」若手との間に、溝のようなものを感じた覚えは、私にもある。
とはいえ、実績では古参社員に若い世代がかなうはずがない。それは、まず認めなくてはいけないし、「考えが合わないから辞めてもらえ」というわけにもいかない。古参社員たちには、会社がこれまで蓄積してきた「知」があり、そうした貴重な戦力を簡単に失うわけにはいかないからだ。
私の経験から言えるのは、「自分の思いどおりに社員を変えてやろう」という発想では組織は動かない、ということだ。むしろ「古いものを変えよう」というのではなく、新しい世代と古い世代が一緒になって、「先代がいなくなったいま、あらためてこの会社が目指すものは何か」という、企業としての目標をしっかりと定めていくことが大切だ。

<< 同化ではなく共存を図る >>

そもそも古い人間を新しく生まれ変わらせるのは無理というもの。しかし、古い人と新しい人が共存することはできる。両者が同じ目的を共有できれば、自分のやり方に固執せずに共存する方法が見つかるはずだ。
当社の場合もそうだった。精神論で「一軒でも多く営業に回れ」という世代と、「マーケティングがあってはじめて効果的な営業活動ができる」という世代とでは当然対立もあった。
社長に就任したばかりの私は、いまの厳しい競争下では、個々人が自律的に判断し、行動できる強い組織でなくてはならないと考え、古い精神論を廃してITや緻密なマーケティングに則った先進的なビジネスを展開すべきと考えていた。
その際、「新しいやり方に合わない人は辞めろ」と命令するのは簡単だが、そんな上から押し付けるアプローチでは「個々人が自分の頭で考え、行動する強い組織」にはなれない。何より、若造でしかない新社長が声を上げても、古参社員たちから反発を受けるだけだった。
そこで社内改革の必要性を感じていた若干名の社員を中心に、トップダウン方式ではなく社員同士が活発に社内改革をどう進めるか議論する場を設けることに専心した。すると、徐々に社員から意見が出るようになり、私の考えに共鳴してくれる者も少しずつ増え、次第に社を挙げて改革を進めようという雰囲気ができあがっていった。
現在のわが社は、新旧が互いに役割を認め合い会社を支えてくれている。これも、社を挙げて侃々諤々の議論ができる社風を培えたからだと思っている。
ご相談者の会社でも、いま一度「会社がどうあるべきか」を全社的に問い直せば、「古い技術を新しい人に伝えていくにはどうすればよいか」「新しい世代は古い世代から何を学ぶべきか」といったノウハウの共有化を進める方法が、社員のなかから湧いてくることと思う。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。