ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

事業承継に際しての税金対策は
 事業承継のための相続税対策の基本的な考え方は、相続財産を減らす、相続財産の評価額全体を引き下げる、納税資金の準備をする、の3点である。

<< 事業継承のための相続税対策 >>

自社株を減らす
自社株を減らすための方法として後継者への贈与と譲渡がある。たとえば、1人に対して年間1,000万円の自社株を贈与した場合の贈与税額は231万円となるが、同額を4人に贈与すれば、贈与税は合計で56万円で済む。贈与は多人数へ、毎年少しずつ行うのがよい。
次に、後継者へ自社株を譲渡する。これには、毎年少しずつ譲渡する方法と、自社株の評価が大きく下がったときなどタイミングを見計らって大量に譲渡する方法とがある。同族会社の株式を譲渡すると譲渡利益に対して所得税15%(住民税5%)がかかる。このように自社株を後継者へ移すためには税負担が伴うが、将来負担する相続税と比較してどちらが有利かの判定により実行すべきである。

自社株の評価を引き下げる
自社株の評価引下げ対策は、収益力の高い会社での「収益対策」と土地等の含み資産の多い会社の「含み資産対策」が主となる。
1.収益対策としての新会社設立
優良会社は、株価対策を放置すると、会社に利益がどんどん蓄積され、ますます株式の評価が上がっていく。このような状況を避けるために新会社を設立し、収益力の高い部門を移転させる。
たとえば、海外向けの販売会社をつくるとか、製造部門と販売部門を分離して新会社に移せば利益を移転することができる。
2.含み資産対策=不動産経営
会社が、賃貸ビルやマンションなどの土地・建物を全額借入金により購入して、不動産経営を行なう。
この場合、土地より建物の割合が多い物件を選ぶ。賃貸物件の相続税評価が取得価額より大幅に低い物件を購入すると、借入金の残高との差額が会社の含み利益を相殺してくれる。

<< 生命保険の活用 >>

相続財産の対策による減額には自ずから限界があり、財産によっては対策が不可能な場合もある。そのとき、生命保険は有用な相続税対策の1つとなる。

遺産分割におけるメリット
遺産が分割しにくい土地・建物や自社株が主なものであれば、分割は非常に困難となる。もし、その土地が会社の工場用地でもあれば、それを分割することにより事業承継がうまくいかない危険がある。
このようなとき、生命保険金は、遺産の分割を円滑に進める手段となる。
たとえば、配偶者は自宅の土地建物を、長男は主として工場用地と自社株および死亡退職金を、次男は生命保険金を取得すれば、分割が円滑に行なわれることになる。

納税資金の準備ができる
納税額が多額の場合、手持ちの金融資産で納税資金を十分に準備することはむずかしい。事業経営者の場合には、余裕資金は事業に投下することが多く、納税時には不動産の売却、会社への貸付金の回収、ゴルフの会員権の売却などの必要性が出てくる。
こうしたときに高額の生命保険に加入しておくと、助けになる。

生命保険の活用法
では、どのような生命保険を選ぶかだが、事業承継の立場から考えると、保険契約者が会社、被保険者が経営者、保険金受取人が会社という契約内容の定期保険か、定期付終身保険に加入するのがよい。
突然の経営者の死亡に対しては、定期保険により高額の保険金が会社に支払われるから、それを死亡退職金や弔慰金として支給すれば、相続税の納税資金に充当できる。会社において、受取保険金は特別利益となるが、一方、死亡退職金が特別損失となり、役員の過大退職金と認定されなければ課税されることはない。
また、経営者が生存中に退職した場合には、生命保険契約を解約すればよい。解約返戻金が会社に支払われ、これを役員退職金として支給することになる。退職時期は、解約返戻金の多いときとなる。

著者
中村 敏彦(公認会計士・税理士)
監修
税理士法人A.Iブレイン
2013年4月末現在の法令等に基づいています。