ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

後継者を最初から自社に入れたほうがよいか、他社修行に出すべきか
 社員の気持ちを理解するためにも他社修行をさせるべきである。

私はもともと父親の会社(婦人服専門店チェーン)を継ごうという意志がなく、大学卒業後にまったく違う業種(レコード会社)に入った。1年後に父親が急逝し、長男だった私が二代目社長にならざるを得ない状況になったが、わずか一年とはいえ、給料やボーナスをもらう側の体験ができたことは有意義であった。ストレートに父親の興した会社に入っていれば、社員の喜びや痛みのわからない社長になっていたかもしれない。
そういう体験をしたこともあって、やはり他社に修行に出すほうがよいように思う。
どうしても自社に最初から入れたい場合は、事前に帝王学の第一歩として、次のような言葉でクギを刺しておくことをお勧めしたい。
「おまえは周りから次期社長だともてはやされるかもしれないけれども、従業員は経営者を信用する振りをして、信用しないものだからな。特別扱いされても浮かれるんじゃないぞ」
これは、私が師匠と仰ぐ先輩経営者から20年前に言われた言葉だ。当時は「何を言ってんだろう、この人は?」と首をかしげたものだが、その後の社長修行でいろんなことを体験するうち、なるほどなあと言葉の意味を実感するようになった。

<< 他社修行で人脈も拡がる >>

他社修行する場合、まったく違う業界がいいか、近い業界がいいかという相談も受ける。私は、自分の業界をよく知るのが大事という意味で、近い業界のほうがいいと思う。
まったく違う業界に修行に出すと一つ危険なことがある。違う業界が面白いからと戻る気を失う、あるいは戻ったにしてもそっち関係の新事業を始めるといった“暴走”をする危険性があるのだ。
同業種ならば川上や川下であってもいいが、できれば父親の会社より大きいところを選択するとよい。中小企業にない優れた面があり、人脈も拡がるからだ。
他社修行の大きな目的は「人脈を拡げる」ことにある。父親の会社に戻ってからも、「あのときにお世話になった○○です」と、電話一本で話ができるような関係の人を作っておくのが大事だ。業界がまったく異なると電話して相談ということもあまりない。私も、レコード業界ではなく、婦人服の大手に入っていれば、もう少し違った経営ができたかなという気もする。
他社修行期間は5、6年でよいだろう。それを過ぎると父親の会社に戻る気を失う可能性が高くなっていく。
このほか、後継者候補の子供が複数いた場合はどうするか、という問題もある。
一般的には、後継者は地味な実務家タイプのほうがいい。派手で、見るからに社長タイプの息子さんは、父親の会社でおとなしくしているのは苦痛になろう。むしろ資金を渡して独立させる。創業者の父親のDNAを多く受け継ぎ、アントレプレナー的な素養があると思われるからだ。
なお、兄弟を会社に揃って入れるといろいろトラブルもあるので、避けるべきだろう。
最近は、娘さんが父親の会社を継ぐケースも増えている。これまた一般論だが、女性のほうが人の心をつかむのに長けており、社長には向いているともいえる。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。