ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

娘婿を後継者として育てたい。どうすればよいか?
 社員の気持ちを理解させる意味でも現場からたたき上げさせる。

私自身の話をすれば、大学在学中に学生結婚した妻の父が、当社の創業者だったため、大学院を中退して入社したという経緯がある。
そして、33歳のときに岳父が急逝したため二代目社長に就任したが、その経験からこの問題を考えていきたい。

<< 現場教育の効用 >>

私は先代から、経営者たる者、計数に強くなければいけないと言われて、入社前から経理の学校に通わされていた。そして、入社して2年間は経理部に配属。経営者として、B/S、P/Lの数字を理解できなければと考えたのだろう。
その後は、社員食堂の皿洗いから、盛り付け、調理、弁当の配達、営業までいろいろな部門を経験した。アルバイトやパートに仕事を教えてもらいながら一緒に汗を流した何年かの現場経験は、どんな業種にもいえるだろうが、メリットが大きいと思う。
一緒に働くことによって、まず現場の実情を知ることができる。これは、上から眺めていたのでは見えてこないものだ。頭で考えるより現場に入って肌で知る。仕事の後に居酒屋で一杯やったりしていると、仲間ができる。そういう人たちが、後々成長してよいスタッフになり、経営者を助けてくれるものだ。
このように、数字がわかることと現場の従業員の気持ちがわかることは重要だ。

<< 急がば回れ >>

スムースに会社の経営に参加してもらうためには、上に入れるより下から登ってきてもらったほうがいいだろう。本当に、「急がば回れ」を実感する。
私は、先代に現場からたたき上げの経営者として育ててもらって、結果的によかったと思う。これがいきなり管理職からのスタートだったら、うまくいかなかっただろう。
ただ注意したいのは、娘婿はゆくゆくは社長になるのだから、一般の従業員と一緒に働くとき、営業でも開発でも負けるわけにはいかないということだ。
できれば一番、少なくとも上位に入っていないと、従業員は納得してくれない。レールは敷かれていても、周りから認めさせるのはあくまで本人の実力と人柄なのだ。
また、大手企業に勤務していた娘婿が入社してくるというケースも多いことだろう。ただ大手にいたという自負があっても、天狗になったら顰蹙を買ってしまう。プライドが捨てられるかが勝負となるだろう。
そして、現場経験とともに忘れてならないのは帝王学だ。比率としては、現場が三分の二、帝王学が三分の一くらいがベストだろう。私の場合は、先代の運転手を命じられていろいろなところについて行き、先代の振る舞いを観察したり、お客さんもよく紹介してもらった。
私が婿だから思うのかもしれないが、事業承継は実の息子でないほうがうまくいくように思われる。
どうしても子は親に反発したくなるものだ。息子だと距離が近すぎて、その分衝突も多い。婿であればもともとは他人だから、お互いに遠慮気味になり、一歩引いたほどよい距離感が生まれるというメリットがある。
いずれにせよ、じっくりと腰を据えて育てていただきたい。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。