ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

他社に勤務する息子が跡を継ぎたくないと言い出した…
 泣き落としで迫らず経営の魅力を語って説得する。

ご相談者は、以前から後継の問題について息子さんと話し合いをもたれていたのであろうか。話し合った段階で結論が出るかどうかは別にして、ご相談者の意向が伝わっていれば、ずいぶん状況は違ってくるものだ。仮に自分で決めた道を歩んでいても、親の会社が気になって戻ってくる。そういう例は、私の周囲でも数多く見られた。
一方、意向が伝わっていない場合、息子さんは自分の道を自力で歩まないといけない、と思っている。「急に戻って来い」と言われても、「いまさら」となるのはしかたがない面がある。
問題は、息子さんを説得する方法だが、本人はすでに自分の道をしっかりと歩んでいるわけだから、それを超える魅力を提示してやらないといけない。
社長になれば、勤め人以上に大きな仕事に取り組める。ご自身の経験から、苦労も含め、まずは経営者のやり甲斐をじっくり話して聞かせることだ。
そして、いまの仕事を活かす方法を見出してやることがポイントになる。大なり小なり、違った組織での経験は、会社を活性化させるものだ。「お前の力をぜひ借りたい」「お前の経験を活かして、会社を盛り立ててみないか」と言えば、経営者の血が流れているのだから、息子さんの心が動く可能性は高い、と思う。

<< 権限委譲を確約 >>

ただし、注意点が二つある。
一つは、入社した暁には本人のやりたいようにやらせる、と確約すること。
入社したものの、結局、父親の“掌の上”では、本人のやり甲斐は半減する。親父に言われるがままではなあ、となってしまう。後継をするからには、入社したら存分に力を発揮してくれ、社長の座を譲ったのちには、権限をすべて委譲する││というくらいの気構えで臨むべきだろう。
企業を取り巻く環境は、ものすごい勢いで変化している。そんななかで、未熟な者に任せて大丈夫か、と不安を覚えるかもしれない。しかし、高齢の人間より、若くて気力・体力ともに充実している人間のほうが、変化への対応には向いている。技と経験を備えた人間は、サポートに回ればいいのだ。
二つめは、「どうしても跡を継いでもらわないと困る」などと泣き落としで迫らないこと。
親父がそこまで言うのなら、親孝行だと思って……そんな気持ちで息子さんが入社したとして、果たして、この厳しい時代を乗り切っていけるだろうか。
企業経営では、しばしば困難に直面する。経営者たる者、先頭に立ってそれに立ち向かわなければならない。そんなとき、「親父の言うことなんか、聞かなければよかった」と愚痴をこぼすようでは失格だ。
“泣き落とし”では、そういう後継者を作り出してしまう可能性がある。ご相談者の話を聞いて、息子さん自らがやる気にならない限り、経営に必要な気力も出てこないだろうし、経営者なんて務まらないだろう。
もし、話し合いにもかかわらず、「やってみよう」とならなかったら、そのときは、潔く息子さんを後継者にすることは諦めることだ。経営者にとって最も大切な「気力=やる気」を基準にして、社内から後継者を指名して教育を施していくべきだ、と私は考える。

月刊誌「経営者会報」臨時増刊号より
2008年8月末現在の法令等に基づいています。