ビジネスわかったランド (経営・社長)

事業承継と相続対策

生前贈与の有利性は?
 贈与額が一定額以下なら税額は多くなく、相続税の節税が可能になるケースがままあり、やりやすい金融資産を中心に生前贈与を実行すべきです。

<< 金融資産は生前に贈与する >>

相続財産を大きく分ければ、土地家屋などの不動産と、預貯金や株式などの金融資産の二つになります。
このうち、生前贈与を行なうとすれば、不動産より金融資産のほうがはるかにやりやすいといえるでしょう。土地などの場合は、価額からみて、単純な贈与ではとても贈与税を払いきれるものではありません。もちろん、考え方としては、土地を1坪分ずつ毎年贈与するということも可能です。しかし、登記の手続きや費用を考えれば、あまり現実的な方法とはいえません。
これに対し、預貯金なら1円単位、株式なら1株単位まで分割して毎年贈与できますから、負担できる贈与税を考慮しながら、毎年の贈与を決定できるというメリットがあります。
したがって、金融資産対策としては、一にも二にも生前贈与を実行していくことといえます。

<< 贈与税を負担しても相続税で得になる >>

贈与税の累進税率が高率であるといっても、贈与額が一定額以下であれば、それほど税額は多くありません。このため、贈与税を負担しても、相続税の節税が可能になることもあります。
次の設例を見ていただきましょう。

相続財産を3億5,000万円、相続人を妻と子供2人の3人とし、10年間にわたり毎年300万円ずつ生前贈与を行なったものです。
生前贈与をまったく行なわなかったとすると、配偶者の軽減を適用しても、相続税額は3,175万円になります。
そこで、相続人1人について、毎年300万円ずつの贈与をすると、3人で900万円、10年間ですから9,000万円が相続財産から除外できます。したがって、10年後の相続財産は、2億6,000万円で、これに対する相続税を計算すると、1,700万円になります。
もちろん、生前贈与に対する贈与税を考慮しなければなりませんが、300万円の贈与の場合、贈与税は19万円。3人分10年間では570万円を納税することになります。
さて、結果はというと、10年間に570万円の贈与税を払っても、相続税と贈与税の合計は2,270万円。生前贈与をしなかった場合の相続税3,175万円と比較し、差引905万円の節税というわけです。
しかも、この設例では、現状の相続財産の評価額が10年後も変わらないという前提で相続税額を計算していますから、実際にはもっと節税効果があるかもしれません。

<< 贈与はこきざみに毎年行なう >>

前掲の設例からもおわかりになると思うが、生前贈与は数年にわたって少額ずつ行なうこと、できるだけ多くの者に贈与すること、長期間にわたって続けることがポイントです。
贈与税の特徴は、毎年1人110万円という少額ながらも基礎控除が認められていることです。したがって、贈与の年数と受贈者の数で、110万円を数倍、数十倍にも活用することができるわけです。
ちなみに、下の表は、2,000万円の財産を1回に贈与するか、何回かに分けて贈与するかによって、贈与税がどれだけ変わるかを示したものです。


2,000万円に対する贈与税は、720万円。これに対し、200万円ずつ10年で贈与すると、贈与税はトータルでもわずか90万円ですんでしまいます。

著者
小池 正明(税理士)
2013年6月末現在の法令等に基づいています。