ビジネスわかったランド (経営・社長)

倒産と個人資産の保全

個人保証、担保を入れるときの注意点は
 長引く景気の低迷や信用不安の高まりにより、銀行、親会社、取引先などから社長の個人保証、担保を求められることが多くなっている。保証、担保を差し出す際には、金額や担保物件、担保の種類といった重要事項を確認するとともに、書類などについて不明な点は、専門家に確認すべきである。

連帯保証の意味の理解
保証には「単純保証」と「連帯保証」がある。両者の相違点は、単純保証では保証人に催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益が認められるのに対して、連帯保証では、これらの権利が一切認められないということにある。
1.催告の抗弁権……保証人に債務の支払いを請求する前に、まず主債務者に対して請求するよう主張できる権利
2.検索の抗弁権……主債務者に財産がある場合には、まず主債務者の財産に対して強制執行をするよう要求できる権利。ただし、主債務者に財産があることは、保証人の側で証明しなければならない
3.分別の利益……保証人の責任が、保証人の人数に応じて軽減されること
要するに催告・検索の抗弁権とは、保証人に請求する前に主債務者からの回収を考えてくれと債権者に対して抗弁(請求)できる権利といえる。
しかし、実際に保証人に請求されるのは、主債務者が無資力で弁済能力のない場合がほとんどであるから、催告・検索の抗弁権は、現実にはさほど大きな意味はないといえる。
とはいえ、連帯保証では、この権利すらない。
このように単純保証と連帯保証では、保証人の権利と責任に大きな差がある。保証をする場合には、これらのことを十分に踏まえておく必要がある。

保証人が複数のときの負担責任
複数の保証人がいる場合には、分別の利益により、各保証人の責任が頭割りで分割される。ただし、単純保証では保証人に分別の利益が認められるが、連帯保証では認めらない。
300万円の債務について、保証人が3人いるケースを例に、両者の違いを考えてみよう。単純保証では、各保証人が3分の1に当たる100万円を負担すればよい。一方、連帯保証では、債権者は連帯保証人のうちの誰に対しても債権全額の支払いを請求できる。
ただし、債権額以上の回収は認められないので、保証人の1人から全額を回収すれば、他の保証人に対しては請求できない。
通常の商取引の保証では、とくに連帯保証と謳わなくとも、ほとんどの場合、法律上、当然に連帯保証とみなされる。
したがって、連帯保証人になるときには、ほかにも保証人がいるからといって責任が軽減されることはないということを肝に銘じておくべきである。

期間・金額に定めのない根保証に注意
継続的取引から生じる買掛金等の債務を包括して保証することを「根保証」という。根保証では、保証債務の額が常に変動し、また予想外の金額になることもある。このため、根保証契約では、保証限度額や保証期間を定めることが多いようである。
限度額も期間も定めない根保証契約では、相当期間が経過し、事情が変化した場合には、保証人の側から一方的に契約を解除することができる。
たとえば、次のような事情が生じたときは、解除が認められる。
1.取引量が急激に増大した
2.決済条件の緩和により債権額が増加した
3.債務者会社の経営悪化にもかかわらず取引が継続される
ただし、保証契約を解除しても、解除以前の債務については、保証人の責任を免れることはできないことに注意する必要がある。
なお、債務者会社の社長のように保証債務の状況を管理し、把握できる立場にある保証人は、無限度・無限定の根保証契約であったとしても、一方的な契約の解除はできない。

極度額は適正額で設定
根抵当権とは、継続的な取引から生じる不特定の債権を、一定の限度額の範囲で担保する抵当権のことをいう。
これに対し普通抵当権は、特定の債権を担保するもので、その特定債権が弁済等により消滅すれば抵当権も消滅する。
根抵当権は、常に発生と消滅を繰り返す債権を一体として担保するので、ある時期に存在していた債権が消滅しても根抵当権が消滅することはなく、その後に生じた債権をも担保することになる。
根抵当権により担保される債権の一定の限度額のことを「極度額」という。極度額は、1か月の取引金額と決済条件によって決まる。
たとえば、未決済の手形を含めて最大で5か月分の売掛金が滞留するなら、8~10か月分程度の取引金額が極度額の1つの目安である。
これは、支払いが滞り始めるのと取引の打切りまでの間にタイムラグがあり、その分、滞留債権の額が大きくなることが予想されるためである。
ここで注意すべきは、極度額を高くしすぎると担保物件の余剰価値が低くなり、後順位の抵当権を設定する必要が生じた際に困るということである。逆に極度額を下げすぎると、支払いが滞った場合に取引を早く打ち切られることにもなりかねない。これらを念頭に置いて、適正な極度額を設定することが肝要である。

白紙での設定書類渡しは避ける
債権者からは、担保の目的物件や債権額等の記載のない書類、白紙の委任状などの提出を求められることがある。
債権者の言い方は様々であるが、要するに「悪いようにはしないから白紙で渡しておいてくれ」ということである。
白紙の書類に印鑑を押して渡してしまえば、後でいかなる記載をされても文句はいえない。たとえば、1,000万円しか借りていないのに5,000万円を借りたという書類が作成されてしまうと、実際の債務額が1,000万円であることを証明するのは非常に困難である。
いかに信用できる相手であっても、また担保の設定が会社にとってどれほど重要であっても、白紙のまま書類を渡すことは絶対に避けるべきである。

追加担保の要求には注意する
すでに担保を設定しているにもかかわらず、追加担保を要求されることがある。十分な担保を提供しているなら、追加担保の要求に応じる必要はない。しかし、既存の担保の価値が不十分になった場合には、追加担保の提供義務が生じることがある。
具体的には、次のようなケースが該当する。
1.自ら価値を減少させた場合
債務者が自ら担保の目的物を滅失・毀損し、担保価値を減少させたときは、追加担保の提供義務が生じる。たとえば、抵当権の目的物である建物を取り壊した場合などである。更地に抵当権を設定した後に建物を新築して他の債権者に担保提供した場合も、担保価値の減少に当たる。
2.特約がある場合
債権者との特約により、担保目的物の価値が下落したときは追加担保を提供することを約しているときも同様である。この場合は、価値の下落が債務者の行為によるものであるか否かを問わない。経済情勢の変動により地価が下落したとか、建物が類焼したというような場合も、追加担保の提供義務が生じる。
なお、追加担保の提供義務があるのに請求に応じなかった場合には、期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。
ところで、法的には追加担保の提供義務がない場合であっても、現実に担保価値が下落したのに追加担保の提供を拒否することで、取引枠を縮小されてしまうことが考えられる。したがって、法的義務の有無と経営上の判断とは、区別して考えるべきである。

高額保証料は役員給与となる
保証もしくは担保提供をする役員は、相応のリスクを負うことになる。そのリスク負担に対しては、保証料や担保提供料が支払われて当然である。問題は、そのレートである。
基本的には、会社の借入れについて、たとえば信用保証機関とか第三者に保証を依頼した場合に通常支払うレートに設定すべきである。
もし、こうした通常レートより高い保証料を会社が支払っている場合は、その通常より高額な部分は役員に対する給与となるので注意を要する。

著者
華学 昭博(弁護士)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。