ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

部門計画のまとめ方・個人目標設定のポイントは
 部門計画は、実現に向けて、部長、課長、グループリーダーなど、階層ごとに、直属上長の方針を受けて下方展開し、個人別計画にまでもっていくが、その手順・ポイントは次のとおり。

部門計画のまとめのフローチャート
部門計画まとめは、次の図表1のフローチャートに従って行なう。

(STEP1)部門方針のまとめ
全体計画との調整の結果、必要とされた部分修正を加えて部門方針を決定する。
部門方針は、部門重点方針とともに、その具体化計画を加えて、誰が、いつまでにどのように実行するか、具体的対策に煮詰めることが必要である。
(STEP2)部門予算のまとめ
部門予算も同様に全体予算との調整の結果、必要とされた一部修正を加えて確定する。部門予算は、売上高、粗利益、経費予算のほか、回収予算、在庫予算など、全社の予算体系に沿って設定する。
(STEP3)個人目標の設定
部門予算および方針を実現するために、その部門の責任者自身が取り組まなければならない実行課題を行動目標として設定する。
さらに、その実行課題を遂行するための、部門責任者自身の能力開発目標をつけ加える。
部門計画は、部長、課長、グループリーダーなど、階層ごとに、直属上長の方針を受けて下方展開し、できれば個人別計画にまで展開するのがよい。

<< 部門計画まとめの着眼点 >>

部門計画の体系
全社計画と調整した部門計画は、必要な修正を加えて部門計画としてまとめる。
部門計画は、それぞれの部門階層において、
(1) 部門方針
(2) 部門予算
(3) 部門責任者の行動目標
の3つにまとめる。すなわち、全体予算との調整を終えた部門予算と、この予算実現のための部門方針、そしてこれを実行する部門責任者の行動目標である。
なお、間接部門で予算が設定されない場合には、これを省略して、部門方針と部門責任者の行動目標の2つを設定すればよい。
第一の部門方針は、さらにその具体化としての具体的な実施項目である部門施策が付け加えられて完成する。
第二の部門予算は、利益計画マスタープランとの調整を終えた予算で、これはさらに月別予算に展開する。
第三の部門責任者の行動目標は、業務目標を中心に、できれば能力開発目標あるいは生活目標をあわせて設定する。

部門責任者の行動目標
部門方針と部門予算は、別項(Q 部門計画策定の手順は)で立案され、別項(Q 全体計画と部門計画の調整の仕方は)で全体方針等と調整を終えたものである。「部門責任者の行動目標」は、別項(Q 全体計画と部門計画の調整の仕方は)の合宿調整会議で、これを含めて検討した場合を除いて、このステップで初めて設定されるものである。
部門方針が実現できるか否かは、部門全員の努力にかかっているが、とりわけ、責任者のリーダーシップは部門方針実現の大きなカギを握っている。
部門計画実現のためには、部門責任者が、自ら実行しなければならないことをはっきりと自覚し、これを確実に行なうことが必要であるが、この内容には、
(1) 部門方針、具体的施策のなかで部下に委譲できない内容
(2) 自分の補完者に協力を求めて、必要な教育をすること
(3) 部門全体を計画実現に向けて動機づけること
の3つが含まれる。
これら、部門責任者自身が取り組む行動計画が、ここでいう「部門責任者の行動目標」 である。

方針、予算、個人目標の「横」の関連
これら、部門方針と予算、そして責任者の行動目標の関係は、
(1) 部門責任者の実行目標が確実に行なえれば部門方針は実現できる
(2) 部門方針が実現されれば部門予算が完遂される
という関係にある。
集団は、その長によって決まる。部門責任者自身の姿勢と行動が部門成果を実現するカギを握っているだけに、この個人目標が大切なのである。
ところで、方針、予算、個人目標の関係は、各部門においてだけでなく、グループにおいても、全社にもいえることである。全社の責任者である社長の姿勢と行動が全社の経営方針の実現の鍵を握り、また、これが全社予算の達成を左右するように、部においては部長の、課においては課長の行動目標が計画達成のカナメである。

方針、予算、個人目標の「縦」の関係
方針、予算、個人目標の関係は、組織の縦の関係でもそのまま当てはまる。
すなわち、個人の実行目標が全員達成されればグループの方針は達成され、すべてのグループ方針が達成できれば部門全体方針が達成でき、そして全部門とも方針を達成できれば全社方針も実現できる。
予算においてもまったく同じである。
このように見てくると、方針、予算、個人目標は、組織の縦の階層においても連鎖のあることがわかる。
計画をこのように、全体計画から、個人目標まで連鎖させて設定することによって、計画が、より確実なものになるのである。

<< 個人目標設定の着眼点 >>

行動目標の体系
部門計画の3つの柱のひとつ、部門責任者の行動目標は、部門方針や部門施策を実現するための、責任者自身の行動課題であることはすでに述べたとおりである。行動目標をもう少し突っ込んで考えてみると、職務目標と能力開発目標とに分けることができる。
これら職務目標と能力開発目標の関連は、次の図表2のとおりである。

すなわち、部門方針や政策を実現するために、部門責任者自身が取り組まなければならない職務上の課題を「職務目標」とすると、これをを完遂するために、部門責任者自身の力は十分か否かを考えて、十分でないところがあれば、この能力を開発しなければならない。この「開発すべき能力」が「能力開発目標」である。
たとえば、人事異動によって営業管理から生産管理の担当になった課長を考えてみよう。
この課長が、現在の生産管理システムの改善をしようとすると、彼は、未知の生産管理の知識を身につけるとともに、自社の生産管理の実態をよく勉強しなければならない。自社の現状分析が行なえて、改善に着手できるように生産管理の知識や技能を身につけることが「能力開発目標」である。
能力開発目標に入る前に、まず、職務目標設定の着眼点について触れておこう。

職務目標の設定
そもそも部門責任者の行動目標というものは、部門方針や部門の具体的施策を遂行するために、部門責任者自身が取り組まなければならない課題を掲げたものであった。
たとえば、部門方針として関東地方の市場開拓が課題として掲げられていたとしよう。関東市場の開拓をするのは営業部の課題であるが、実際に関東市場を攻略するには部長、課長、課員のそれぞれが担当職務を全うすることが求められる。
また、関東地方開拓の具体策として、
(1) 関東市場の主力代理店である関東販売株式会社のトップ層の切り崩し
(2) 関東販売の担当部長クラスへの対応
そして、
(3) 関東販売株式会社のセールスマンとともに、関東地方の販売店をしらみつぶしに訪問活動を展開すること
が必要であったとしよう。
この場合に、部長の行動目標としては、関東販売株式会社のトップ切り崩しという目標が設定されることとなる。同様に課長は、関東販売株式会社の販売計画に当社製品を新製品として組み込み、自社と共同の販売拡大作戦を立案することが、また、セースルマン一人ひとりは、しらみつぶしの訪問活動の実行が課題となろう。

職務目標設定の仕方
職務目標設定は、個人個人で設定することが原則であるが、部門全体で検討する場合もある。全体で個人の取り組む職務目標を設定する場合の手順は、次のようになる。
(1) 部門方針および具体的施策を実現するために実行すべき課題は何かを整理する。一部、具体的施策と同じ項目が出てくるがかまわない。
(2) 整理された課題に重みづけをし、重要な課題から順位をつける。
(3) 順位の上位の課題から、この実現のために、誰がどのように実行すればよいか、検討する。
(4) 以上の結果、方針および具体的施策を実現するための個人別取り組み課題が整理される。
(5) これに基づいて、個人別に職務目標を設定する。

<< 成長目標としての能力開発目標 >>

現状の自己分析が先決
職務目標を立てて、これを実行するといっても、問題はその実行力が十分であるかどうか、この客観的な分析が先行しなければならない。
当り前のことながら、実行する力がなければ目標の実現は危うい。目標を実行するに当たって、自己に欠けているものを明らかにすること、これは己をよく理解することでもある。

能力開発目標設定の仕方
能力開発目標の内容は、人によって異なる。
たとえば、前述の部長でいえば、関東販売株式会社のトップ対応をするために、もし、部長が販売会社の業界やマーケティングについての理解が不足していれば、これらについての知識や理解を深めることが大切になる。
また、もし、人間関係が不得手で、これが障害となると判断されれば、人間関係を深めるような課題を目標とすべきである。
人間関係をよくするのに、すぐ効果のあがる方法などないかもしれないが、積極性や行動力を高めるために、毎日、早起きに心がけるとか、話し方の研究会に参加して自己を磨くとか、継続的な努力が求められる。
また、課長の場合には、得意先の関東販売株式会社と共同の拡販作戦を打ち立てるためにも、関東地方の市場調査の手法を研究したり、また、関東地方におげる類似業種の拡販システムを調査、研究し、その手法を身につけることが必要になるかもしれない。
これらが能力開発課題であり、その具体的な方法として、そうしたことに精通している友人をみつけて話を聞かせてもらうとか、また、本を読むとか、あるいは販売促進のセミナーを受講することなどがあろう。

能力開発目標は知識、技能、人間性
このように見てくると、能力開発の課題は、
(1) 知識に関わること
(2) 技能に関わること
(3) 人間性に関わること
の3つがあるように思われる。
このうち、一般的に見て、知識の修得が一番やさしく、次いで技能、そして、人間性に関わる問題は最も困難な課題であるといえる。
しかし、そのことは、言葉を替えていえば、人間性の問題が最も大切であることを表わしている。
私の経験でも、仕事の実力はあるのに、人間性に欠けているところがあるためにとかく人と争ったり、部下を使えなかったりして、残念ながら大切な仕事を任せられていないという人が少なくない。
能力開発目標は、職務面だけでなく、人間性の側面からのテーマも取り上げたい。

能力開発目標から生活目標へ
人間性の開発のために、いろいろなセミナーが開かれているが、一時的な研修で人間性が大きく変わるというより、研修は動機づけであって、毎日の生活の中での実行を通して身についていくものであろう。
その意味で、能力開発目標は、生活目標にまで下ろされていく必要がある。会社によっては、能力開発目標に代えて「生活目標」を設定しているところも多い。
筆者は経営指導や幹部の指導の中で、両親を大切にし、夫婦仲良く、創造的な生活を送っている人ほど人間性が豊かで、歪みがなく、リーダーとしての適性があること、また、家庭生活を含めた1日の生活が規則正しい人ほど、職場でも規律正しい活動をしていることなど、家庭生活と職場での生産性とは大きな相関関係があることをみてきた。
より幸せな家庭生活を築くことは、自分だけでなく家族全員の向上につながり、また、それは結果として会社の計画実現につながる。会社の計画実現は、また、結果として物心両面で社員の幸せに還元される。
ここに、社員一人ひとりの幸せ、向上と会社の繁栄の一致を図ることができるのである。

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。