ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

市場編成・商品構成計画の着眼点は
 市場編成計画と商品構成計画の設定は、中長期目標で設定した市場戦略と商品政策を実現するために、図表1のフローチャートに沿って、次のような点に着眼して行なう。

市場編成・商品構成計画のフローチャート
具体的な市場編成計画と商品構成計画を設定するに当たっては、次の図表1のフローチャートを踏まえて進める。

(STEP1)市場分析
まず、市場編成について、現在の市場別の売上構成、利益状況などを分析して、自社の長所と改善点を明かにする。
(STEP2)市場(得意先)編成計画
現状分析の結果と中長期の市場編成目標とを照らし合わせて伸ばすべき市場を明らかにする。これに沿って翌年度の市場編成計画を市場分野ごとの売上高と利益の2つの面から立案する。
これは、商品構成計画とともに、部門計画立案に当たって指針となるものである。
(STEP3)商品分析
次いで、商品構成についても現状の商品分類別の売上高、利益状況等を分析し、現在の長所と改善すべき点を明らかにする。
(STEP4)商品構成計画
さらに、この分析結果を中長期の商品構成目標に照らして、翌年度の商品構成計画を、売上高および粗利益の両面から立案する。

<< 市場編成と商品構成計画の狙い >>

伸びる分野に高付加価値商品で差別化を
企業の成長が事業分野の選択に大きく依存することは、すでにたびたび述べてきたところである。
中長期目標で設定した事業領域へ進出し、あるいは既存の事業領域で市場シェアを拡大していくために、翌年度は具体的にどんな市場編成にしていくのか、また、どんな商品構成にしていくのか、成長分野に高付加価値商品をもって中長期目標の初年度としての計画を固めることが狙いである。

部門計画積上げの指針
経営計画は中長期目標を軸としたトップ層の基本的方針に沿って、各部門から具体的な計画が積み上げられなければならないが、市場編成計画と商品構成計画は、部門計画の積上げの際の指針となるものである。
営業部門での販売計画や製造部門における生産計画の立案に当たって、それぞれが独自の判断で計画を立てるのでなく、この市場編成、商品構成計画に沿って立案することによって、会社全体を中長期目標で定めた方向へ導くことができる。

利益、資金計画の基礎を提供する
市場編成や商品構成を計画することは、会社の売上、利益、資金計画の基礎となる。
それはいうまでもなく、同じ売上高計画であっても、市場編成や商品構成に変化があれば、利益率や資金の状況が変わってくるからである。利益率のよい市場や商品に、また、資金負担の少ない市場や商品に販売や生産の重点を移していくことにより、より経営力の強い体質を培うことができる。

<< 市場編成計画の着眼点 >>

市場分類の方法
市場編成を考えるうえで、まず、市場をどのように分類するかをはっきりさせる。市場分類の善し悪しで販売力に格差が生じることが少なくないので、この分類は大事である。
市場を分類する目的は、市場の違いによって企業が取るべきマーケティングのあり方が異なるからであり、それゆえ、市場分類の基準は、マーケティング展開に活かされるような観点から行なわれるのが望ましい。
一般的には、次のようなとらえ方ができよう。
(1) 流通経路別に分類する
直販ルート、代理店ルート、通信販売ルートなど流通経路別に分類するものである。
流通経路は、時代や経済環境変化に伴って変化する。たとえば、消費財では問屋流通から小売店に対する直販へ、そしてさらにユーザーニーズを直接把握するという観点から、消費者へのダイレクト販売へと移りつつあるが、自社の企業規模や業種や業態の特性から、どの流通経路を選択するか判断するうえにもこの分類は不可欠である。
(2) 地域別に分類する
国内と輸出。国内は、全国を北海道、東北、関東、甲信越、北陸、関西、中四国、九州などブロック別に、細かくは県、市町村単位に分類できるが、企業の特性に応じて担当地域別や競合状況などを勘案して決めるのがよい。
輸出も同様に、自社の取引している地域別に分類される。
地域別の分類は、地域によって顧客の購買動向が異なるので、地域の風土や顧客に合致した販売戦略を展開する必要があるという、いわゆるエリアマーケティングに役立つものでもある
(3) 業態別に分類する
得意先が、小売店でも、ナショナルチェーン店、ディスカウントストア、地元大型店、コンビニエンスストア、系列専門店、一般小売店など、業態によって分類することによってどの流通形態の需要が伸びているか、自社の傾向はどうかをつかみ、今後の市場編成に活かすことができる(図表2参照)。

(4) 得意先群別に分類する
得意先を流通経路別にも地域別にも分類できない場合には、得意先群別に分類する。得意先数が多い場合には得意先を何らかの基準で、たとえば規模別や自社との取引状況などに応じたABC格付けなどで分類することができる。
グループ別も困難な場合には、主力得意先だけを列挙し、他の得意先は「その他の得意先」として一括してもよい。
小売店のように、不特定多数を得意先としている会社は得意先分類が難しいが、POSなどで購買客の分類をしている場合にはPOSデータによる顧客属性分類が活用できよう。

市場選択の判断基準
市場、あるいは得意先選択の着眼点は、
・市場の成長性
・収益力の高さ
・資金回転率のよさ
の3つである。市場の成長性が高く、利益率もよく、かつ、資金回転率のよい市場が自社にとって伸ばしていくべき有利な市場であり、こういう市場への販売ウエートを高めていく(図表3参照)。

たとえ成長率が高くとも利益率が低かったり、また資金負担が大き過ぎればその市場は自社にとって望ましい市場とはいえない。三拍子揃った市場が最もよいのではあるが、現実にはなかなかよい市場ばかりでなない。成長率の高い市場は利益率が低かったり、また、利益率の高い市場は資金負担が大きいという傾向があるからである。
そこで、これらの中で、どの市場を選ぶかは自社の方針によって選択することとなる。すなわち、自社が現在最も必要としているのは売上高の成長なのか、あるいは利益率か、資金負担を減らすことなのか、これら3つの要因の中で、自社の戦略課題を考慮して市場選択をする。
以下、これらの3つの要因について少し検討を加えてみよう。
(1) 市場の成長性
第一の市場の成長性は、これからの、その市場の成長可能性である。
市場の判断に当たって、市場ごとの成長率の予測がわかれば、それを用いて判断する。
しかし、実際にはこれからの市場の成長性がわからないときも多く、この場合は自社の過去3~5年の実績成長率を調べてこれで判断する。
(2) 利益率
市場ごとの利益率が得意先選択の第二の基準である。市場区分ごとの利益を市場別損益計算によってとらえていればそれを使うが、それがとらえられていない場合には得意先別の利益を市場別に集計して算出する。
求める利益は、通常販売単価から製品の原価を控除した粗利益であるが、売上原価以外に、流通に伴う直接原価を控除した限界利益を使えばより厳密である。
これは、流通経路によっては流通コストが異なるから、流通コストを控除したうえで見てみないと正しい損益はわからないためである。
流通コストには、次のようなコストが含まれる。
・商社マージン
・配送コスト
・包装資材
・保管費用
・在庫に伴う金利コストなど
市場を地域別に分類している場合には地域ごとの配送コストが異なるし、また流通経路別に市場を分類している場合には流通マージンによって流通経路ごとの利益率が異なってくる。
(3) 資金回転率
得意先に関わる資金の回転は、売上債権の回転期間である。同じ売上高でも回収条件がよい得意先と悪い得意先とでは、たとえ利益率が同じでも、売上債権に伴う資金負担と債権回収不能の危険が異なるからである。
また、資金回転率は、資金に伴う金利コストとともに、事業活動に要する資金調達の必要も考慮する。
売掛金の回収率をよくするには、支払条件の変更を依頼することもさることながら、支払条件のよい市場や得意先に売上高のウエートを移していくことがカギを握る。

市場編成のPPM分析
商品戦略の決定においては、PPM(ポートフォリオ・プロダクト・マネジメント)分析手法が用いられるが、市場編成においてもこれを応用した考え方を使うことができるので参考までに説明しておこう。
この分析は、市場の編成にも得意先の編成にも用いることができるが、得意先編成のほうが使いやすいので、ここでは得意先編成として説明する。
横軸に得意先ごとの当社の売上高またはその得意先に対する当社の売上高の比率(これは流通業などではインストアシェアと呼ばれるもの)を、縦軸には得意先自体の規模をとる。

さて、上の図表4のように4つの領域ができたが、このうちAの領域は自社の売上も大きいし、得意先自体の規模も大きい。当社としては主力得意先で、今後とも重点的に取り組まなければならない。
Bは、得意先の規模はあまり大きくないけれど当社にとっては売上貢献の大きい得意先。いってみれば当社を信頼してくれて大きな取引きをしてくれるありがたい得意先。
Cは、規模が大きい割には当社があまり売り込めていない得意先。これは同業他社との競合に負けている得意先。
Dは、得意先も小さいし当社の売上高も小さい。
さて、当社の得意先編成であるが、結論から先にいえば、C得意先が戦略上、大事な得意先と考えられる。
なぜななら、C得意先は得意先の規模自体が大きく、当社としては販売余力が大きいからである。
Aは今後も重点を置くとして、Bは当社の売上は大きいが得意先の規模は小さいので、自ずから当社の売上拡大には限界がある。Dはもとより期待はもてない。
販売可能性の大きいCについて、当初のシェアが小さいのはそれなりの理由があるので、この点を調べて、重点的に資源を投入することが大切となる。
以上の結果、D得意先は営業活動を省力化し、また、B得意先は当社に信頼が高いのであるから、手を抜いてはいけないが誠実に対応すれば新人の営業員でも対応していける。その分ベテランセールスをC得意先に配して、売上拡大を図ることが戦略的な着眼点となる。

<< 商品構成計画の着眼点 >>

商品分類の基準
翌年度の商品別売上計画を設定するに当たって、商品をどのように分類するかは、市場分類とともに営業戦略に大きな影響をもつ。
商品分類の基準も、市場分類と同じようにマーケティングの観点から行なう。すなわち、販売戦略の判断がしやすい商品分類を用いるべきである。
筆者は、ある女性用バッグ問屋の経営診断の依頼を受けたとき、その会社の商品分類は素材別の商品分類しかないため、苦労した。皮バッグ、合皮バッグ、布バッグ、雑材バッグという、商品の材質による分類しかなかったのである。
材質ごとの分類だと、マーケティングに役立たない。
なぜなら、顧客は材質でも商品を選ぶが、より以上にデザインとか用途に合った商品であるかなど、材質以外の要素で買う買わないを決めるからである。そこで、たとえばフォーマル、カジュアル、スポーティ、ビジネスなどに分類したり、あるいは顧客年齢階層別に分類するような工夫があれば、マーケティングセグメンテーション政策に役立てることができる。
一般的な商品分類基準を掲げておこう。
(1) 品種別分類
最も一般的な商品分類基準で、たとえば、眼鏡小売業が、眼鏡だけでなく、時計、宝石、貴金属などを扱っているような場合に、このような商品品種そのものの違いで分類するもの。
次いで、品種別分類の細分類として、以下のような形態別分類や用途別分類を用いる。
(2) 形態別分類
単一商品を扱っているような場合には、その商品の形態で分類する。大、中、小など、大きさ別や工業製品などでは製品の規格寸法や品質レベルによる分類。
(3) 機能別あるいは用途別分類
商品の持っている機能や使用目的で分類するもので、たとえば時計でも、柱時計、腕時計、懐中時計、目覚し時計など機能別に、また、通勤用、レジャー用など用途別に分けることができる。
(4) 顧客対象者別の分類
男女別、家族向きかシングル用か、シングルでも高齢者、中年、妊婦、受験生向けなどがある。また、大人、子供、幼児など客層による分類もできる。
(5) その他
これら以外に、金額の多寡による分類、素材による分類、購買客の購買力による分類などがある。

商品構成のための着眼点
商品計画を設定するに当たり、何を基準に商品構成を考えるかは、市場編成と同じように、
・商品の成長性
・収益力の高さ
・資金回転率のよさ
の3つからとらえる。
ここで、商品の資金回転率は、商品在庫に伴う資金負担であり、通常在庫回転率としてとらえられる。
また、小売店などでは収益力と在庫回転率をあわせた「交差比率」もよく使われる指標である。
以下、商品構成決定の着眼点であるこの3つと交差比率について説明を加えよう。
(1) 商品の成長性
商品の成長性は、その商品群の市場の伸び率であり、伸び率の高い商品を扱っていくほど企業の成長性が高くなるという判断による。
商品の成長性は、今後の成長予測でなければならないが、今後の伸び率がとらえられない場合には自社商品の過去の伸び率を見て、これを参考に今後の商品構成を決定する。
(2) 収益力の高さ
商品別の利益率は、販売業の場合には売上粗利益率、製造業であれば製品の粗利益率あるいは限界利益率で判断する。
しかし、この場合も市場の利益率で述べたように、商品ごとの流通コストに大きな違いがある場合には、流通コストを加味して利益率を計算する必要がある。
商品別コスト計算において留意すべき流通コストには、次のようなものがある。
・商品在庫に伴う金利
・商品在庫に関わる倉庫料
・包装資材費用
・保守、サービスコスト
・その他
(3) 資金回転率のよさ
商品に関わる資金負担とは、在庫に関わる資金負担である。仕入商品の・場合には商品在庫、自社製造製品については材料、仕掛品、製品が資金負担であり、これら在庫の回転率が高いほど資金効率がよいことを表わしている。
(4) 交差比率
交差比率とは、売上高利益率に在庫回転率を乗じた比率で、次の図表5の算式で表わされる。

商店などでは、限られた店舗スペースで、より多くの利益を獲得するためには商品回転率の高い商品で、なおかつ利益率の高い商品を中心に品揃えすることがポイントである。
このために、商品群ごとあるいは商品単品ごとの利益率と在庫回転率を調べて、この積である交差比率の高い商品を重点的に取り扱うのが商品構成の要諦となっている。

商品戦略としてのPPM分析
商品戦略として、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の手法がよく使われる。これは、商品群というよりはむしろ事業戦略分析の手法としてボストンコンサルティンググループによって開発されたものであるが、本ステップの商品構成決定の着眼点として有益であるので、参考に掲げておこう。
PPMでは、商品群を市場のマーケットシェアと市場の伸び率の2つの側面から次の図表6のように4つの領域に分類する。

「花形商品」の領域は、伸び率もマーケットシェアも高い商品で、まさに花形である。マーケットシェアが高いということは、収益力が大きいと判断される。しかし、市場の伸び率が大きいことから追加設備投資に資金投入が必要なため、資金の流入は少ない。
これに対して、「金のなる木」は、マーケットシェアが高く、花形商品と同じように収益貢献する商品であるが、市場の伸び率が低くなっていることから新規設備投資の必要性は少なく、このために資金流入が大きい。まさに金のなる木である。
「負け犬商品」は、マーケットシェアも市場の伸び率も小さい商品群で、自社としては力を入れても価値のない商品群。
そして、「問題児商品」は、マーケットシェアが低く、現在は競合に負けており、また利益も出ていないが、市場の伸び率が高い商品群であるので、やりようによっては花形商品に育てることができる可能性を持っている。しかし、うまくやらないと、やがて市場の伸び率が下がったときには負け犬商品になってしまう危険をもっている。
すなわち、問題児商品群をよく見きわめて、このうち、自社の経営資源を投入すれば花形商品に育つと判断される問題児商品に自社の資源を積極的に投入する大切さを意味している。

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。