ビジネスわかったランド (経営・社長)
経営計画の立て方・進め方
経営計画策定のステップは
計画作成を通じて社内の意思統一や活性化を図ることを狙いとし、社内全体を巻き込み、次の13のステップを踏んで行なう。
<< 計画は将来についての現在の意思決定 >>
長期計画と年度計画
人生に人生設計があるように、企業には経営計画がある。よりよい経営の成果を生むには、よりしっかりした経営計画が必要である。なりゆき経営は一時的には良い業績をあげても、根なし草のように業績が安定しない。目先の利益を追いかけるだけの、土台のしっかりしない投機的事業は、バブルがはじけて倒産した企業や不祥事の頻発に見るとおりの結果生む。
企業の進むべき目標と進むべき分野を明らかにして、この実現のためにどのような対策をとるか、これを煮つめた計画が経営計画である。ところで、ひとくちに経営計画といっても、中長期計画と翌年度の短期(年度)計画がある。
(1) 中長期計画
一般的に中期計画は3~5年計画、長期計画は5~10年単位で作成される。これら中長期計画の狙いは、企業を取り巻く環境変化に企業をうまく対応させて、企業を成長路線に乗せることにある。
将来的な成長産業分野に向けて、新事業の展開、新製品の開発、新販路の開拓、生産システムや流通システムの改革などといった、基本的な事業戦略の展開を目指したものである。
具体的には、分社化、M&Aなど、組織構造戦略やグローバルな生産、販売戦略や財務戦略など、さらにはこうした戦略を遂行することができる企業体質改善計画などが盛り込まれる。
(2) 年度計画
中長期計画が環境変化に対応する戦略計画であるのに対して、年度計画は翌年度の年間経営計画で、中長期計画の初年度計画として位置づけられる。いい替えれば中長期計画を実現するための具体的な年度実行計画であって、中長期計画に盛り込まれた政策の具体的な推進策が主要内容となる。
中長期計画は、毎年これを見直し、この最初の事業年度の計画を年度計画として具体化すると、常に3~5年先をとらえた経営戦略展開ができる。このように、毎年、中長期計画を見直して、最後の年を加えて修正していく方法をローリングプランという。
このように年度計画は、中長期計画にそって設定されることが望ましい。しかし、現在、中長期計画が設定されていない企業も多いと思われるので、ここでは年度経営計画の中に中長期目標の大切な部分だけは盛り込んで、年度計画の設定ができるように配慮した。
計画は「予測」にあらず
(1) 「いまのことさえわからないのに……」は正しいか
経営計画というと、「計画といっても将来のことなどわかるはずかない」という人が多い。
確かに「いまのことさえわからないのに、将来のことなどわかるはずがない」というのも理屈である。しかし、計画とは、将来の「予測」ではない。予測なら、当り外れもあるが、経営計画は「1年後にはこのようになっていたい、このためには現在このように取り組む」という目標であり、計画である。
いい替えれば、「わからないから計画を立てる」というのが正しい。わからないけど、このまま過去の延長的に推移したのでは希望する方向へ進めない、あるいは進んだとしても目標達成ができないかもしれない。だから、将来の目標を定めて、それに向かって計画的に対策を打っていくということである。
こう見てくると、計画とは予測ではなくて、「あるべき未来についての現在の意思決定」に他ならないことがわかってこよう。
人生でも同じである。当り前のことながら、現在をいい加減に過ごせば、将来はない。逆に将来の目標がしっかりしていれば、現在をいい加減に過ごすことはできなくなる。「計画は九分の成就」とは、そのことである。
目標と将来のための現在の行動がしっかりと計画されていれば、あとは実行するだけだから、経営計画にこの実行の内容まで具体的に盛り込んでおけば、あとはこの計画のチェックとフォローにかかってくる。
(2) わからないのは「どうしたらよいか」
ところで 「将来のことがわからない」というが、情報化社会といわれる現在、あらゆる研究機関が将来の予測データを出しており、近い未来のことはほとんどわかっているといえるのではないだろうか。
たとえば、人口予測は、向こう100年間で、6,400万人程度に減少し消費需要は確実に減少に向かうと予測される。
また、社内のことについては、来年は在籍社員の平均年齢は確実に1歳上がるし、人件費は少なくとも世間相場以上に上げていかなければならないこと。さらに、設備の陳腐化は確実に進み、借入金は翌年度も約定通りに返済していかなければならないこと等々。
このように見ていくと、ほとんどのことはわかっている。わからないというのは、いい訳に過ぎないことがわかろう。たった一つ、わかっていないのは、「これらにどのように対応していくべきか」である。
この解決こそ経営計画の本質である。
(3) 下請け、受注型企業はなおさら経営計画を
「うちは下請けだから経営計画など立ててもしかたがない」とか、「うちは受注型企業だから……」という意見がある。本当にそうだろうか。
松下だってソニーだって最初は小さい企業だったはず。それが大きくなったのは明確な目標があったことと、その実行に向けて具体的な計画をもつていたこと、そして、それを実行したからに違いない。
下請け企業だからとか、受注型企業だからといって、それでは、もし親会社や受注先から仕事が来なかったらどうなるかを考えてみたことがあるだろうか。親会社が業績不振や海外生産体制を採ったために仕事が減ったり、親会社の生産システム改革で下請けが品質的についてゆけなくなったりするケースは数え切れない。
たとえいまは下請け企業であっても、技術や品質などで「あの下請けでなければ」といわれる主体性を持った企業にならなければ、この環境変化に生き残れない。主体的な活動ができる企業を目指して体質改善計画を立てる、それが経営計画である。
<< 経営計画策定のステップ >>
経営計画策定の13ステップ
経営計画の策定は、次の図表のとおり、13ステップから成る。
各ステップごとの内容を、簡単に触れておこう。
(STEP1)「経営理念・経営方針」
まず、経営のよりどころとなる経営理念、経営基本方針を設立する。これは経営者の基本
的役割である。
経営理念・経営基本方針がすでに設定されている会社は、それが社内に浸透しているか、
現在の環境にマッチしているか、見直す。
(STEP2)「自社の経営力分析」
計画策定の前提として、自社の経営力を分析するステップ。長所を伸ばし、短所を補うこ
とが経営力の強化につながるから、自社の経営力を経営分析、経営活動分析、事業成長分
析の3点から分析する。
(STEP3)「外部環境変化予測」
企業を取り巻く環境がどのように変化しているか、それが自社にどのような影響を与える
かを明らかにするとともに、これに対する対応方針を明確にする。
(STEP4)「中長期目標の設定」
このうえで、自社が進むべき方向と、中長期(3~5年)目標を事業領域、企業規模、組
織構造などの面から具体的に設定する。
(STEP5)「翌年度経営重点方針の設定」
ここから年度計画の作成に入る。まず、中長期目標を実現するための、翌年度にとるべき
基本的な経営重点方針を固める。
(STEP6)「市場編成と商品構成計画の設定」
中長期目標で定めた事業領域にそって、翌年度の市場・得意先編成および商品構成につい
て、売上高、利益の面から具体的に設定する。
(STEP7)「開発投資計画の設定」
中長期目標にそって、開発投資計画を、設備投資、人材投資、研究開発投資の3面から検
討し、その内容と投資金領を設定する。
(STEP8)「利益計画マスタープランの設定」
翌年度の利益計画骨子は、目標利益をもとに、限界利益率、固定費から必要売上高を計算
し、利益計画の骨子を固める。
(STEP9)「部門計画の積み上げ」
利益計画マスタープランにそって、各部門が部門計画を作成する。部門計画は部門予算と
部門政策の両面から煮つめる。
(STEP10)「全体計画と部門計画の調整」
各部門計画が出そろったところで、部門計画を全体計画と突き合わせて、調整を行なう。
(STEP11)「部門計画まとめ」
全体計画と部門計画の調整の結果を受けて、必安な修正を加えて部門計画としてまとめる。
直接部門だけでなく、間接部門も部門計画を設定する。
(STEP12)「全社予算編成」
各部門計画と調整を終えたうえで、全社の予算を利益計画、資金計画としてまとめ、さら
に予算を月別に展開する。
(STEP13)「経営計画発表会」
各部門の計画を集めて、全社予算とあわせて経営計画書にまとめる。このうえで、全社員
に対して経営計画発表会を企画し、実施する。
経営計画策定は幹部層を巻き込んで
経営計画の作成は、トップ層だけでなく、できれば全社員の参加で、少なくとも幹部層の参加を得て作成する。
なぜ、トップ層だけではいけないかは、計画づくりに管理者層を巻き込むことによって「全員の計画」とするためである。
ところで、全員の参加でつくるとはいえ、おのずから役割の分担はある。
それは、
(1) 社長は理念と方針を
(2) 幹部は戦略の具体化を
(3) 管理者は実行計画を
ということである。
計画作成にあたって、社長の一番の役割は、翌年度に向けての方針を指し示すことにある。社長補完者の協力を得ながら、自社の経営力を正しく把握するとともに、外部環境の動向を掴み、変化をチャンスと捉えて的確な戦略の方向づけをすることである。
社長室や企画室など、ゼネラルスタッフ部門は、調査、企画立案にあたるものの、決定は社長の役割である。
幹部層は、全体方針にそって戦略を練ることが求められる。中小企業では社長以外の役員は担当取締役として現業に携わっていることが多い。だからといって、担当部門の計画だけに固執するのではなく、役員幹部として、あるいは社長の補完者として全社的な観点から政策の立案、決定をしなければならない。
もちろん、担当部門の政策や予算もつくることになるが、それには自分の協力者である部門の補完者を参加させて、むしろ補完者を中心に立案させ、これを指導しながら部門計画をまとめることが必要であろう。
そして管理者、リーダー層は、担当部門の戦略にそって具体的な実行計画を立案することである。
自らも、部門責任者と共に部門計画立案にあたってきたわけであるが、この推進のために、さらに部下を参加させて、具体的な実行計画設定と、この計画実現の第一線指揮官として活躍することが求められる。
ゼネラルスタッフ部門の役割
事業計画作成において社長室、企画部など、ゼネラルスタッフ部門の役割はどのように考えたらよいだろか。
私は、常々、中小企業の経営計画はスタッフ部門が中心となるのではなく、ライン部門が中心とならなければいけないと考えている。
大企業では、スタッフ部門が中心となって作成している例が少なくない。しかし、これも本来はスタッフ部門が計画全体をコーディネートするのであって、決してスタッフが勝手に作成しているのではない。ところが、専属スタッフに力があるので、調査や企画が充実しており、その分、スタッフ部門が計画設定においてライン部門の指導的立場に立っている。
たびたび述べるが、経営計画の目的は、計画作成を通じて社内の意思統一や活性化を図ることを狙いとしている。それゆえ、ライン部門の責任者が自分の問題として計画づくりに取り組むことを強く要請したい。自分の部門の計画は即ち自分自身の成長計画であり、極端にいえば、自分自身の人生計画のアロセスの一つだからである。
経営計画設定を早めにスタートさせる
経営計画策定のスタートは、通常決算期の3か月前。9月決算であれば、7月から計画策定にかかるのがよい。7月までにはその年度の実績は予測できる。正確な実績は出ないまでも、その年度の傾向はほとんどわかるものである。
もちろん、残された3か月間は、本年度の計画達成に向けて、全力の努力を惜しんではならないが、あわせて翌年度の政策を早めに決めて、この3か月間は翌年度の助走期間という気持ちで改善に取り組むほうが計画達成は確かなものとなる。
そこで、9月決算の場合には、7月初めには、6月までの実績を整理するとともに、残り3か月の予想を加えて当年度の実績予測をして、反省を行なう。あわせて自社を収り巻く
環境変化を見通して、翌年度の基本的な方向を固めてしまう。これをもとに8月には各部門の計画を積み上げて、9月には全体計画との調整を行なって計画書作成に入るという手順である。
計画作成の着手に早過ぎるということはない。
成功する経営計画の着眼点
せっかく経営計画をつくっても、絵に画いた餅で、掲げられるだけに終わってしまったり、実行が伴わない企業も少なくない。年度計画を成功させるポイントはどこにあるのだろうか。
成功する経営計画の策定と、失敗する経営計画作成とを比較してみた。このチェックリストで自社の経営計画作成の自己診断をしてみてほしい。
経営計画がうまくいかない主な原因は、次のとおりである。
(経営計画失敗の原因)
(1) 計画が社長やスタッフだけで作成されて、現場の実行部門の意思が反映されていない
(2) 計画が希望的な目標であって、現在の環境条件から見て社長以外の誰が見ても不可能と判断されるようなものになっている
(3) コンピュータによるシミュレーションが中心となった計画であり、計数的には精緻な計画になっているものの、実行の裏づけがない
(4) 抽象的な方針の作成が中心となっており、その具体化がない。また、予算との連携も不足している
(5) 計画達成の責任体制や評価制度が明確になっていないために、社員に実行意欲がわいてこない
(6) 為替レートの変化など、外部環境条件の影響によって計画自体の妥当性がなくなったのにもかかわらず、計画の修正がされていない
(7) 計画が月別に展開されていなかったり、されていても、実績とのチェック、フォローがなされていない
以上のような失敗原因をクリアすれば、経営計画は成功するはずである。このための条件をまとめとして整理すれば、次のとおりである。
(成功する経営計画作成の着眼点)
(1) 経営方針がはっきり設定されている
(2) 全員(少なくとも幹部層)の参加で経営計画が立てられている
(3) 予算だけでなく、経営政策および幹部層の実行目標が設定されている
(4) 売上計画は得意先別、製品別、セールス別に積み上げられている
(5) 計画作成は前年度の反省がもとになっている
(6) 外部環境が変わったら計画修正が行なわれるような体制になっている
(7) 計画達成の評価が正しく行なわれるような体制が整っている
(8) 業績配分など、報賞への結びつきが確立されている
(9) 計画は月別に展開され、予算実績管理ができるしくみになっている
(10) 利益計画は資金計画との連携がよく図られている
著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
<< 計画は将来についての現在の意思決定 >>
長期計画と年度計画
人生に人生設計があるように、企業には経営計画がある。よりよい経営の成果を生むには、よりしっかりした経営計画が必要である。なりゆき経営は一時的には良い業績をあげても、根なし草のように業績が安定しない。目先の利益を追いかけるだけの、土台のしっかりしない投機的事業は、バブルがはじけて倒産した企業や不祥事の頻発に見るとおりの結果生む。
企業の進むべき目標と進むべき分野を明らかにして、この実現のためにどのような対策をとるか、これを煮つめた計画が経営計画である。ところで、ひとくちに経営計画といっても、中長期計画と翌年度の短期(年度)計画がある。
(1) 中長期計画
一般的に中期計画は3~5年計画、長期計画は5~10年単位で作成される。これら中長期計画の狙いは、企業を取り巻く環境変化に企業をうまく対応させて、企業を成長路線に乗せることにある。
将来的な成長産業分野に向けて、新事業の展開、新製品の開発、新販路の開拓、生産システムや流通システムの改革などといった、基本的な事業戦略の展開を目指したものである。
具体的には、分社化、M&Aなど、組織構造戦略やグローバルな生産、販売戦略や財務戦略など、さらにはこうした戦略を遂行することができる企業体質改善計画などが盛り込まれる。
(2) 年度計画
中長期計画が環境変化に対応する戦略計画であるのに対して、年度計画は翌年度の年間経営計画で、中長期計画の初年度計画として位置づけられる。いい替えれば中長期計画を実現するための具体的な年度実行計画であって、中長期計画に盛り込まれた政策の具体的な推進策が主要内容となる。
中長期計画は、毎年これを見直し、この最初の事業年度の計画を年度計画として具体化すると、常に3~5年先をとらえた経営戦略展開ができる。このように、毎年、中長期計画を見直して、最後の年を加えて修正していく方法をローリングプランという。
このように年度計画は、中長期計画にそって設定されることが望ましい。しかし、現在、中長期計画が設定されていない企業も多いと思われるので、ここでは年度経営計画の中に中長期目標の大切な部分だけは盛り込んで、年度計画の設定ができるように配慮した。
計画は「予測」にあらず
(1) 「いまのことさえわからないのに……」は正しいか
経営計画というと、「計画といっても将来のことなどわかるはずかない」という人が多い。
確かに「いまのことさえわからないのに、将来のことなどわかるはずがない」というのも理屈である。しかし、計画とは、将来の「予測」ではない。予測なら、当り外れもあるが、経営計画は「1年後にはこのようになっていたい、このためには現在このように取り組む」という目標であり、計画である。
いい替えれば、「わからないから計画を立てる」というのが正しい。わからないけど、このまま過去の延長的に推移したのでは希望する方向へ進めない、あるいは進んだとしても目標達成ができないかもしれない。だから、将来の目標を定めて、それに向かって計画的に対策を打っていくということである。
こう見てくると、計画とは予測ではなくて、「あるべき未来についての現在の意思決定」に他ならないことがわかってこよう。
人生でも同じである。当り前のことながら、現在をいい加減に過ごせば、将来はない。逆に将来の目標がしっかりしていれば、現在をいい加減に過ごすことはできなくなる。「計画は九分の成就」とは、そのことである。
目標と将来のための現在の行動がしっかりと計画されていれば、あとは実行するだけだから、経営計画にこの実行の内容まで具体的に盛り込んでおけば、あとはこの計画のチェックとフォローにかかってくる。
(2) わからないのは「どうしたらよいか」
ところで 「将来のことがわからない」というが、情報化社会といわれる現在、あらゆる研究機関が将来の予測データを出しており、近い未来のことはほとんどわかっているといえるのではないだろうか。
たとえば、人口予測は、向こう100年間で、6,400万人程度に減少し消費需要は確実に減少に向かうと予測される。
また、社内のことについては、来年は在籍社員の平均年齢は確実に1歳上がるし、人件費は少なくとも世間相場以上に上げていかなければならないこと。さらに、設備の陳腐化は確実に進み、借入金は翌年度も約定通りに返済していかなければならないこと等々。
このように見ていくと、ほとんどのことはわかっている。わからないというのは、いい訳に過ぎないことがわかろう。たった一つ、わかっていないのは、「これらにどのように対応していくべきか」である。
この解決こそ経営計画の本質である。
(3) 下請け、受注型企業はなおさら経営計画を
「うちは下請けだから経営計画など立ててもしかたがない」とか、「うちは受注型企業だから……」という意見がある。本当にそうだろうか。
松下だってソニーだって最初は小さい企業だったはず。それが大きくなったのは明確な目標があったことと、その実行に向けて具体的な計画をもつていたこと、そして、それを実行したからに違いない。
下請け企業だからとか、受注型企業だからといって、それでは、もし親会社や受注先から仕事が来なかったらどうなるかを考えてみたことがあるだろうか。親会社が業績不振や海外生産体制を採ったために仕事が減ったり、親会社の生産システム改革で下請けが品質的についてゆけなくなったりするケースは数え切れない。
たとえいまは下請け企業であっても、技術や品質などで「あの下請けでなければ」といわれる主体性を持った企業にならなければ、この環境変化に生き残れない。主体的な活動ができる企業を目指して体質改善計画を立てる、それが経営計画である。
<< 経営計画策定のステップ >>
経営計画策定の13ステップ
経営計画の策定は、次の図表のとおり、13ステップから成る。
各ステップごとの内容を、簡単に触れておこう。
(STEP1)「経営理念・経営方針」
まず、経営のよりどころとなる経営理念、経営基本方針を設立する。これは経営者の基本
的役割である。
経営理念・経営基本方針がすでに設定されている会社は、それが社内に浸透しているか、
現在の環境にマッチしているか、見直す。
(STEP2)「自社の経営力分析」
計画策定の前提として、自社の経営力を分析するステップ。長所を伸ばし、短所を補うこ
とが経営力の強化につながるから、自社の経営力を経営分析、経営活動分析、事業成長分
析の3点から分析する。
(STEP3)「外部環境変化予測」
企業を取り巻く環境がどのように変化しているか、それが自社にどのような影響を与える
かを明らかにするとともに、これに対する対応方針を明確にする。
(STEP4)「中長期目標の設定」
このうえで、自社が進むべき方向と、中長期(3~5年)目標を事業領域、企業規模、組
織構造などの面から具体的に設定する。
(STEP5)「翌年度経営重点方針の設定」
ここから年度計画の作成に入る。まず、中長期目標を実現するための、翌年度にとるべき
基本的な経営重点方針を固める。
(STEP6)「市場編成と商品構成計画の設定」
中長期目標で定めた事業領域にそって、翌年度の市場・得意先編成および商品構成につい
て、売上高、利益の面から具体的に設定する。
(STEP7)「開発投資計画の設定」
中長期目標にそって、開発投資計画を、設備投資、人材投資、研究開発投資の3面から検
討し、その内容と投資金領を設定する。
(STEP8)「利益計画マスタープランの設定」
翌年度の利益計画骨子は、目標利益をもとに、限界利益率、固定費から必要売上高を計算
し、利益計画の骨子を固める。
(STEP9)「部門計画の積み上げ」
利益計画マスタープランにそって、各部門が部門計画を作成する。部門計画は部門予算と
部門政策の両面から煮つめる。
(STEP10)「全体計画と部門計画の調整」
各部門計画が出そろったところで、部門計画を全体計画と突き合わせて、調整を行なう。
(STEP11)「部門計画まとめ」
全体計画と部門計画の調整の結果を受けて、必安な修正を加えて部門計画としてまとめる。
直接部門だけでなく、間接部門も部門計画を設定する。
(STEP12)「全社予算編成」
各部門計画と調整を終えたうえで、全社の予算を利益計画、資金計画としてまとめ、さら
に予算を月別に展開する。
(STEP13)「経営計画発表会」
各部門の計画を集めて、全社予算とあわせて経営計画書にまとめる。このうえで、全社員
に対して経営計画発表会を企画し、実施する。
経営計画策定は幹部層を巻き込んで
経営計画の作成は、トップ層だけでなく、できれば全社員の参加で、少なくとも幹部層の参加を得て作成する。
なぜ、トップ層だけではいけないかは、計画づくりに管理者層を巻き込むことによって「全員の計画」とするためである。
ところで、全員の参加でつくるとはいえ、おのずから役割の分担はある。
それは、
(1) 社長は理念と方針を
(2) 幹部は戦略の具体化を
(3) 管理者は実行計画を
ということである。
計画作成にあたって、社長の一番の役割は、翌年度に向けての方針を指し示すことにある。社長補完者の協力を得ながら、自社の経営力を正しく把握するとともに、外部環境の動向を掴み、変化をチャンスと捉えて的確な戦略の方向づけをすることである。
社長室や企画室など、ゼネラルスタッフ部門は、調査、企画立案にあたるものの、決定は社長の役割である。
幹部層は、全体方針にそって戦略を練ることが求められる。中小企業では社長以外の役員は担当取締役として現業に携わっていることが多い。だからといって、担当部門の計画だけに固執するのではなく、役員幹部として、あるいは社長の補完者として全社的な観点から政策の立案、決定をしなければならない。
もちろん、担当部門の政策や予算もつくることになるが、それには自分の協力者である部門の補完者を参加させて、むしろ補完者を中心に立案させ、これを指導しながら部門計画をまとめることが必要であろう。
そして管理者、リーダー層は、担当部門の戦略にそって具体的な実行計画を立案することである。
自らも、部門責任者と共に部門計画立案にあたってきたわけであるが、この推進のために、さらに部下を参加させて、具体的な実行計画設定と、この計画実現の第一線指揮官として活躍することが求められる。
ゼネラルスタッフ部門の役割
事業計画作成において社長室、企画部など、ゼネラルスタッフ部門の役割はどのように考えたらよいだろか。
私は、常々、中小企業の経営計画はスタッフ部門が中心となるのではなく、ライン部門が中心とならなければいけないと考えている。
大企業では、スタッフ部門が中心となって作成している例が少なくない。しかし、これも本来はスタッフ部門が計画全体をコーディネートするのであって、決してスタッフが勝手に作成しているのではない。ところが、専属スタッフに力があるので、調査や企画が充実しており、その分、スタッフ部門が計画設定においてライン部門の指導的立場に立っている。
たびたび述べるが、経営計画の目的は、計画作成を通じて社内の意思統一や活性化を図ることを狙いとしている。それゆえ、ライン部門の責任者が自分の問題として計画づくりに取り組むことを強く要請したい。自分の部門の計画は即ち自分自身の成長計画であり、極端にいえば、自分自身の人生計画のアロセスの一つだからである。
経営計画設定を早めにスタートさせる
経営計画策定のスタートは、通常決算期の3か月前。9月決算であれば、7月から計画策定にかかるのがよい。7月までにはその年度の実績は予測できる。正確な実績は出ないまでも、その年度の傾向はほとんどわかるものである。
もちろん、残された3か月間は、本年度の計画達成に向けて、全力の努力を惜しんではならないが、あわせて翌年度の政策を早めに決めて、この3か月間は翌年度の助走期間という気持ちで改善に取り組むほうが計画達成は確かなものとなる。
そこで、9月決算の場合には、7月初めには、6月までの実績を整理するとともに、残り3か月の予想を加えて当年度の実績予測をして、反省を行なう。あわせて自社を収り巻く
環境変化を見通して、翌年度の基本的な方向を固めてしまう。これをもとに8月には各部門の計画を積み上げて、9月には全体計画との調整を行なって計画書作成に入るという手順である。
計画作成の着手に早過ぎるということはない。
成功する経営計画の着眼点
せっかく経営計画をつくっても、絵に画いた餅で、掲げられるだけに終わってしまったり、実行が伴わない企業も少なくない。年度計画を成功させるポイントはどこにあるのだろうか。
成功する経営計画の策定と、失敗する経営計画作成とを比較してみた。このチェックリストで自社の経営計画作成の自己診断をしてみてほしい。
経営計画がうまくいかない主な原因は、次のとおりである。
(経営計画失敗の原因)
(1) 計画が社長やスタッフだけで作成されて、現場の実行部門の意思が反映されていない
(2) 計画が希望的な目標であって、現在の環境条件から見て社長以外の誰が見ても不可能と判断されるようなものになっている
(3) コンピュータによるシミュレーションが中心となった計画であり、計数的には精緻な計画になっているものの、実行の裏づけがない
(4) 抽象的な方針の作成が中心となっており、その具体化がない。また、予算との連携も不足している
(5) 計画達成の責任体制や評価制度が明確になっていないために、社員に実行意欲がわいてこない
(6) 為替レートの変化など、外部環境条件の影響によって計画自体の妥当性がなくなったのにもかかわらず、計画の修正がされていない
(7) 計画が月別に展開されていなかったり、されていても、実績とのチェック、フォローがなされていない
以上のような失敗原因をクリアすれば、経営計画は成功するはずである。このための条件をまとめとして整理すれば、次のとおりである。
(成功する経営計画作成の着眼点)
(1) 経営方針がはっきり設定されている
(2) 全員(少なくとも幹部層)の参加で経営計画が立てられている
(3) 予算だけでなく、経営政策および幹部層の実行目標が設定されている
(4) 売上計画は得意先別、製品別、セールス別に積み上げられている
(5) 計画作成は前年度の反省がもとになっている
(6) 外部環境が変わったら計画修正が行なわれるような体制になっている
(7) 計画達成の評価が正しく行なわれるような体制が整っている
(8) 業績配分など、報賞への結びつきが確立されている
(9) 計画は月別に展開され、予算実績管理ができるしくみになっている
(10) 利益計画は資金計画との連携がよく図られている
著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
キーワード検索
タイトル検索および全文検索(タイトル+本文から検索)ができます。
検索対象範囲を選択して、キーワードを入力してください。