ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

部門計画策定の手順は
 部門計画策定は、経営重点方針と利益計画マスタープランに沿って、各部門の翌年度計画を立てていくステップだが、その手順は、図表1のフローチャートに従って、次のように行なう。

部門計画設定のフローチャート
翌年度の経営重点方針と利益計画マスタープランに沿い、次の図表1のフローチャートに従って各部門の翌年度計画を積み上げていく。

(STEP1) 部門予算骨子の作成
まず、自部門の今年度実績見込みを予測し、これをもとに、利益計画マスタープランに沿って翌年度部門予算骨子を立案する。
(STEP2) 部門方針の設定
次いで、経営重点方針に沿って、自部門今年度実績見込みとその反省点を踏まえて翌年度部門方針を立案する。
(STEP3) グループ計画の積上げ
そのうえで、部門のメンバーに全社の翌年度経営重点方針と利益計画マスタープランを説明するとともに、STEP1およびSTEP2で立案した自部門の方針と予算の骨子を部門に提示し、部員のメンバーに、グループ計画を積み上げるよう指示する。
各グループは、部門方針と予算骨子をもとに、それぞれのグループの予算を積み上げ、また、グループの方針を設定する。
(STEP4) 部門計画の確定
積み上げられたグループ計画を部門の全体計画と突き合わせて調整する。積み上げられたグループ計画の修正と部門全体計画の修正内容を確認して、部門計画の作成を終了する。

<< 全社計画と部門計画の連鎖 >>

部門計画設定は経営参加の大切な場
命令される働きには限界があるが、自ら使命感を待った働きには無限の可能性がある。
事業経営も、事業に携わる構成員一人ひとりの自主的、創造的な働きが大切である。このためには、経営計画自体が、上から押し付けられたものではなくて、自主的に、自分たちの意思で立てることがポイントとなる。いわゆる計画への参加である。
しかし、それは決して個人個人バラバラの計画であってはならず、経営重点方針に沿ったものであることが必要である。
それは、トップダウンでもなければボトムアップでもない。トップ方針に基づいて、これを具体化する内容をボトムアップで積み上げ、トップ方針との調整を図って計画を固めることが大切である。

計画の連鎖
計画は、すでに述べたように、組織階層の上から下まで連鎖したものでなければならない。連鎖とは鎖がつながっている状態であり、お互いにかみ合い、一つひとつの輪が自分の役割を果たしながら、他と協力しあい、全体の目的が果たせる状態を表わしている。
いくら自分の部門計画がカッコよくても、全体と調和できていなければ、かえってマイナスである。計画策定においては、部分最適化より全体最適化が優先するのである。
縦の連鎖は、上は社長から、部から課、グループなど、各階層を通して個人まで下ろされる。上から末端まで、縦の連鎖が明確になっていることは、一人ひとりの位置づけと役割が明確になることを意味している。
連鎖の状態は、上下の関係だけではなくて、横の関係にもいえる。すなわち、営業部門と製造部門、製造部門と資材部門など、すべての部門が相互にかみ合っていることがよい計画の条件である(図表2参照)。


個人と全体の統合を図る
計画策定のプロセスは、個人と全体の統合を図るプロセスである。それは、構成員一人ひとりが自分自身の成長と企業全体の成長の一致を確認するプロセスでもある。
そもそも、企業の成長は、構成員一人ひとりの成長の結果である。人の成長なくして企業の成長はあり得ない。自分自身の長期的な成長目標を、事業経営を通して実現していくところに会社全体の成長と個人の成長の統合がある。一人ひとりが自主的に計画を立てる狙いは、まさにここにあるといっても過言でない。

<< 部門計画の立て方 >>

計画とは予算、方針の整合性
部門計画とは、部門予算、部門方針そして部門責任者の行動目標の三位一体となって設定されることが必要であるが、この部門計画立案の段階では、部門予算、部門方針の2つだけでよい。責任者の具体的行動目標は、別ステップの項(Q 部門計画のまとめ方・個人目標設定のポイントは)で煮詰める。
したがって、この段階では、予算と方針の整合性が大切となる。予算は、目標であり結果である、そして、方針は、予算を実現するための基本的な考え方と具体的な施策が含まれていることが条件となる。

部門予算骨子作成の手順
全社の利益計画マスタープランの設定が経営責任者の固有の業務であるように、部門予算骨子の作成も部門責任者固有の役割である。予算の策定も当然のことながら連鎖が求められるので、全社の利益計画マスタープランと全社の重点方針に沿って、自部門の今年度の実績予測をベースに翌年度の予算骨子を固める。
予算骨子を固めるためのステップは、次のとおりである。
(1) 部門の今年度実績を予測する。予測は、現在までの実績累計に、残された期間の売上、原価等の予測を加えて算出するが、予測はできるだけ商品別、得意先別、セールス別など詳しく行なうこと。これは、翌年度の予算設定にもこうした分類ごとに予算設定をする必要があるからである。
(2) 次いで、現在のままで推移した場合の、翌年度の実績を予測する。すなわち、このまま推移した場合にはどのくらいの実績があげられるか、予測を立てる。
(3) 全社利益計画マスタープランを実現するために、自部門に求められる予算を想定し、これと(2)の翌年度の自部門の、過去延長的な実績予測を比較して、不足する予算を見積る。
(4) 不足予算を埋めるために、どのような対策が必要とされるかを検討し、この対策を遂行した場合に達成可能な努力目標を部門予算として設定する。

翌年度部門方針の設定
部門方針は、部門予算実現のための方策であるとともに、それは全社の経営重点方針を部門レベルで展開するための具体化計画でもある。
計画設定に当たって求められる縦の連鎖から、全社方針に沿ったものであることはいうまでもないが、あわせて、今年度の自部門の政策の推進状況や問題点などを振り返り、これを翌年度方針に活かさなければならない。
部門方針設定のステップは、次のとおりである。
(1) 翌年度全社方針を、自部門としてはどのように取り組むか、全体方針の一つひとつについてその方針を明らかにする。
(2) 今年度の自部門方針および施策のうち、期待される成果があったもの、不十分な成果しか得られなかったものを整理し、できなかったものはその原因を検討する。
(3) 現在の自部門が抱えている問題点を整理し、この改善のための対策を検討する。
(4) 全社方針の意図と自部門の今年度の反省を取り込み、翌年度予算を勘案して自部門の翌年度部門方針を整理する。
(5) 部門方針の検討を通して自部門の組織機構および人事配置について検討を加えて、予算の実現および部門方針実現のための組織編成を部門方針の中に取り込んでおく。

部門方針、部門予算骨子の提示と施策の煮詰め
部門方針と予算骨子が立案されたなら、具体的な施策を次の手順で煮詰める。
(1) 立案された部門方針と予算骨子は部門責任者の原案として、これを部門のメンバーに提示し、みんなで検討を加える。このプロセスを通すことによって、計画が部門全員の計画となる。
このときには、前提として、全社の利益計画マスタープランおよび経営重点方針を十分に説明して理解を求めておかなければならない。
(2) 部門方針と予算の骨子が基本的に了解されたら、部門方針を実現するための具体的施策について検討を深め、具体的実施項目をみんなで検討し、5W1Hの要領で具体化を図る。
(3) そのうえで、部門スタッフに、この方針に沿って部門計画を積み上げることを、期限を決めて指示する。
部門計画の積上げをどのようなメンバーで、どのように積み上げるかは、会社の組織や規模などによって異なるので、実態に合わせて決めてほしい。小規模の部門では部員全員で煮詰めることとなろうし、所帯の大きい部門では、部の計画を課におろし、さらに係、グループ計画として煮詰めることとなろう。
ここでは、部門の中にグループがある企業の場合を想定して進めよう。

グループ計画の積上げ
部門方針と部門予算骨子に沿って、各グループはグループ予算とグループ方針を設定する。
(1) 予算は部門予算の設定と同じょうに、部門予算と自グループの今年度の実績を勘案して設定する。
(2) 予算作成に当たっては、基準となる達成目標が設定されている場合も多く、この場合にはこの基準を原則として予算設定の基準とする。
(3) グループ方針は、部門方針に沿って、これを実現するための具体的な対策、施策を中心に煮詰めるが、この段階で個人別の実行目標や計画まで展開する場合もある。

部門計画との調整と確定
各グループからグループ計画が積み上げられたら、部門全体計画との突き合せを行なう。
(1) グループ予算の合計は部門予算骨子と合致しているか。していない場合にはグループ別予算の設定根拠を検討し、全体との調整を行なう。
(2) 予算の検討はグループ方針とあわせて行ない、予算実現のための対策、施策が適切であるか否かを検討し、必要な修正を加えて確定する。

<< 部門予算設定における利益目標設定 >>

全社予算の部門別展開
事業部制をとっている企業や、営業部門がいくつかに分かれていて部門別管理を実施している企業の場合、各部門の目標利益や目標売上高をどのように設定するかが問題となる。すなわち、全社の利益計画マスタープランを各部門に展開するにあたって、各部門に予算をどのように割り振るかという問題である。
これは、企業の採用している管理システムの違いや経営方針の違いによってさまざまであるが、基本的な考え方をここで整理しておこう。
ただし、現実には一律にいかないことが多いので、各社の状況に応じて、各社なりの方法を編み出すことが必要である。そして、それは当り前のことながら、各部門の責任者を初め、全員が納得のいく方法であることが望ましい(図表3参照)。


事業部制は資本利益率
事業部制は、全社の使用資本を各事業部ごとに分割し、その使用資本に対する利益率や規範利益をもって事業部予算設定の基準とすることができる。事業部制といっても、資本が分割されていない場合には、次の部門別損益制度と同じと考えてよい。
資本が分割されている場合には、各事業部の目標資本利益率を同じとすることには問題がある。というのは、各事業部ごとに事業の内容が異なり、その事業内容によって、市場の伸び率や収益力に違いがあるからである。
そこで、資本利益率を参考にしながらも、これら事業の内容を勘案して、中長期目標を基にトップ方針として決断することが多い。

部門別損益制度における部門利益設定
各部門が同一商品を扱っていて、部門別損益制度を採用している企業の場合はどうか。
部門別損益制度は、通常、資本の分割はしておらず、損益だけで管理しているので、資本利益率や規範利益を目標として用いることはできない。
そこで、部門利益額あるいは売上対部門利益率を目標に置くのが一般的である。
次の図表4は部門別損益表のひな型であるが、部門利益といっても、売上粗利益、部門貢献利益、そして全社の間接費を控除したあとの部門純利益の3段階がある。

このうち、部門利益目標に用いられるのは、部門貢献利益か部門純利益のいずれかである。
(1) どちらの利益を用いるのが正しいか
部門貢献利益を目標とするか、部門純利益を目標とするかは意見の分かれるところである。
部門貢献利益は、部門粗利益から部門の固有経費を控除した、部門が稼ぎ出した利益である。それに対して、部門純利益は、貢献利益から全社の間接費負担額を控除した残りの利益である。
部門純利益は企業の経常利益に近い概念であるという意味では、部門目標としてより適切である。しかし、貢献利益を支持する見解からは、部門純利益は間接費負担の配賦方法の違いによって、また、間接費の額は自部門の努力と関係なく増減してしまうので、部門利益は目標利益たり得ないと考える。
いずれがよいとは言いきれないが、部門責任者が管理できるという意味で、貢献利益を目標とするのが理論的には正当であろう。
しかし、筆者は、間接費負担もした上で部門利益を出すことが部門責任者の利益責任であることを認識してもらうために、部門純利益がよいように思うし、現実的であろうと考える。
(2) 利益率か利益額か
部門利益か貢献利益か、どちらの利益を用いるかは、各部門責任者の合意をもって決めるとして、目標利益として利益額か、利益率かという問題がある。各部門とも扱っている商品は同じでも、利益率が高く取れる市場をもつ部門もあれば、低い利益率しか取れない市場を抱えた部門もあることから、利益額を用いるところが多い。
利益の絶対額を目標利益とした場合、利益目標額の決め方は、1人当り利益額を基準としている企業が多い。

部門別売上高あるいは付加価値管理の会社は……
部門別損益制度を実施しておらず、部門の売上高あるいは付加価値で部門管理を行なっている企業では、部門利益目標をどのように決めたらよいか。
この場合も、部門によって市場の特性や歴史が異なるので、一律の基準を設けることはむずかしいが、一般的には次のような項目を基準として決定している。
(1) 前年度実績伸び率(売上高または付加価値)
(2) 1人当り金額(同)
(3) 人件費当り金額(同)
(4) 担当エリアのマーケットシェア(売上高)
このうち、人件費当り売上高あるいは付加価値額は、1人当りだと、ベテランセールスが多い部門と新人が多い部門との公平を欠くことから、これに代わるものとして人件費を用いたものである。また、マーケットシェアは、業種によって何を基準とするかが異なるが、たとえば担当エリアの人口や工業生産高などをもって基準とするものである。
どの基準も公平妥当ということはないが、全体で協議して納得のいく方法を生み出すプロセスを通じて、また、理解が深まるものである。

部門別損益制度の間接費配賦基準について
部門別損益制度をとる場合の間接費配賦基準については、この決め方によって部門利益設定方法が異なってくることがあるので、少し触れておこう。
本社の間接費の配賦基準は、大きく分けて、間接費を一括して何らかの基準をもって配賦する方法と、間接費の科目ごとに適切な配賦基準を選択して配賦する方法とがある。
間接費の科目ごとに適切な配賦基準を用いて配賦するのがより適切であるが、これだと簡単に計算することができないので、一括して配賦する方法も広く用いられている。
(1) 間接費の合計額を一定の基準で配賦する方法
・各部門の売上高または粗利益額で配賦する
・各部門の人員数または人件費額で配賦する
・各部門の主だった設備投資額で配賦する
・以上のうちの、いくつかの基準の組合せの基準を用いる
(2) 間接費の科目ごとに配賦基準を選択する方法
(例)
人事部門の経費…各部門の人員数
経理部門の経費…各部門の伝票枚数
業務部門の経費…各部門の売上高
減価償却費…各部門の償却資産額
支払利息…各部門の在庫および売掛金

<< 部門別の予算方針設定の着眼点 >>

以下に、部門ごとの計画策走における主なポイントを整理しておいたので、部門計画作成に当たって参考にしてほしい。

営業部門計画
(1) 販売予算作成のポイント
・予算は販売経路別、得意先別、商品別、セールス別など、できるだけ多方面から設定することにより精度を高めることができる
・得意先別予算では、新規得意先と既存得意先に分ける
・商品別予算には新商品の販売予算を明確に盛り込む
・販売経費は、科目ごとに、用途別に予算化すること
(2) 販売部門方針設定のポイント
・得意先格付けに応じた対策を明確に打ち出す
・商品群別あるいは主だった戦略商品は商品別の対策を明確にする
・目標達成のための販売管理のシステムを決めておく
・営業員の基本行動をはっきりさせておく

生産部門計画
(1) 予算設定のポイント
・生産計画は営業部門の予算と連携を図っておく
・月別の季節変動を考慮し、仕掛品や在庫との調整を図っておく
・時短を計画的に盛り込んだ予算であること
・経費予算は変動費、固定費に区分し、操業度に合わせた予算を設定する
(2) 部門方針の設定ポイント
・働きやすい環境づくりを促進する生産システムを考慮する
・職場の安全に一層の注意を払い、無事故、無災害を実現すること
・得意先の要請に十分応えられることを中心に、生産システムを設計する
・品質向上、原価低減、納期短縮の生産管理3原則の一層の促進を図る

開発部門計画
(1) 予算設定のポイント
・開発商品について可能であれば、売上予算設定をする
・開発投資および経費については開発テーマごとに設定する
(2) 部門方針のポイント
・開発テーマごとの研究開発スケジュールを設定する
・あわせて、進捗管理のシステムを決めておく
・開発テーマごとのスタッフの目標および行動計画を盛り込む
・外部開発機関との連携が計画されている場合には、連携をうまく行なうこと

間接部門計画
(1) 部門予算設定のポイント
・間接部門でも、定量的な目標とするよう工夫する
・経費予算については、科目ごとに翌年度の行動計画を考慮して予算化する
・経費予算はゼロベースの志向で、付加価値を上げるための犠牲支出という観点から判断して予算化すること
(2) 部門方針設定のポイント
・間接部門の業務は直接部門に対するサービスの提供であることを認識して、直接部門の要請に応えられるような改善を心がける
・その目標達成に向けて、スタッフ一人ひとりの取り組む目標を明確にしておく

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。