ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

全社予算編成の手順は
 全体予算の編成は、調整済みの全体計画を踏まえ、次のような手順で見積損益計算書、予想貸借対照表などにまとめる。

全社予算編成のフローチャート
全体計画は、部門計画と調整を終え、必要な部分修正を加えた上で、次の図表1のフローチャートに沿って、見積損益計算書、予想貸借対照表など全社予算としてまとめる。

(STEP1)利益計画
利益計画マスタープランとの調整を終えた各部門の売上計画、原価、費用計画をもとに、全社の利益計画を修正するとともに、見積損益計算書にまとめる。また、これを月別利益計画に展開する。
(STEP2)資金繰り計画
月別の利益計画や回収、支払計画および設備投資計画等をもとに、月別資金繰り計画を設定する。
(STEP3)資産、負債、資本計画
さらに、回収、支払、在庫条件の改善計画や設備投資計画などを総合して翌年度末の予想貸借対照表を作成する。

<< 利益計画の作成 >>

全体計画と部門計画の調整の結果を修正して利益計画を固めるが、原価や経営計画については、別項(Q 利益計画マスタープラン策定の手順は)の段階では概算予算であったので、この段階では部門の売上計画や生産計画をもとに、経費予算も科目別に詳細に検討して計画を確定する。
以下、利益計画設定のポイントを説明しておこう。

売上高計画
売上高計画は、各部門から積み上げられた商品別、得意先別計画の数字を使う。
売上計画が月別に展開されていないときは、前年度以前の月別実績をもとに季節変動を出して、これをもとに、全体売上高を各月に按分する。
しかし、新規市場の開拓や新商品の発売などが予定されている場合には、これらを除いて、従来の市場や商品で季節変動計算をして、これに新商品や新市場の売上高を加えて計画する。

仕入、在庫計画
営業部計画では、仕入、在庫計画を設定せずに、粗利益率から粗利益計画を設定する会社が多いが、資金繰り計画作成の上からは仕入、在庫計画に組み替えておかなければならない。
(1) 適正期末在庫高
まず、年間仕入額を決める。これは、
売上-粗利益±在庫増減=仕入高
として計算される。すなわち、今年度の在庫高に対して翌年度の在庫高をいくら増減するかによって仕入高は決まってくる。
(2) 季節変動と適正在庫回転率
年間の仕入高が決定したら、月ごとの在庫計画を考慮して月別の仕入高を計画するが、この場合に、在庫回転率を適正に保つことに留意しなければならない。期末の在庫高を圧縮しても、期中の在庫高が大きくては、結局資金負担が大きくなるからである。

生産計画
生産計画については、前述の仕入計画と同じような考え方で、在庫を加味して受注高あるいは売上高をもとに決定する。
いうまでもなく、生産能力に限度がある場合には、これも考慮しなければならない。

人件費計画
(1) 人員計画
人員計画は、製造関係、営業関係等、部門別に、正社員、準社員、パート別に、また男女別に計画する。新規採用については、採用時期が異なる場合には採用の月を明確にしておく。
(2) 現社員の給与額の計画
翌年度の昇給率を予測し、これを現社員の昇給対象給与額に乗じて昇給額を算出し、これを現在の給与額にプラスして昇給後の給与額を計算する。さらに、昇給前の給与と昇給後の給与に、それぞれの月数を乗じて年間の給与額を計算する。
(3) 現社員の賞与額の計画
賞与月数を予測し、給与と同じような考え方で計算する。
(4) 新規採用社員等の給与、賞与の計画
新規採用社員等の給与、賞与も同様に計算する。
(5) その他の人件費計画
その他の人件費のうち、法定福利費については、本年の実績の、賞与・給与に対する比率を算出し、これに翌年度の賞与・給与金額を乗じて計算する。ただし、法定福利費の率が変更になったり、あるいは、社員の構成が大きく変わった場合には正しく計算し直す必要がある。
福利厚生費については、翌年度における福利厚生施策をもとに計算する。

変動費計画
(1) 仕入計画
これについては、すでに述べたとおりである。
(2) 材料費
製品の材料費は、計画売上高に計画材料費率を乗じて計算するが、原料、補助材料、包装資材等、材料の種類ごとに単価の改訂予想と使用材料の歩留まり、不良率の改善などを考慮して計算すればより正確である。
(3) 外注加工費
外注加工費についても、材料費と同じように売上高に対する外注加工費率をもって計算するが、外注単価に生産数量を乗じて計算してもよい。
(4) その他の製造変動費
電力料、燃料費などその他の製造変動経費についても、科目ごとの計画変動費率をもとに計算する。
(5) 販売変動費
販売経費のうち発送費、包装費、旅賓交通費、広告宣伝費、営業に関わる車両費など変動費の性格の大きいものは、売上高に対する今年度の実績比率を参考に、翌年度の政策を織り込んで計画する。

製造固定費計画
賃借料、減価償却費、工場消耗品費など製造固定費は、それぞれの経費の性格に応じて翌年度の設備計画や生産計画等を加味するとともに、経費削減対策を織リ込んで計画する。

販売費・管理費計画
(1) 販売費
旅費交通費、通信費、広告宣伝費、交際費、営業車両費など販売活動に関わる固定経費については、翌年度における販売活動の内容を考慮して計画する。
(2) 管理費
経営全般に関わる管理コストには、
・本社設備に関わる賃借料、減価償却費などのような設備費
・人の募集採用、教育など人に関わる費用
・経理、財務、請求業務など会計情報に関わる業務
・株式、庶務、株主関係といった総務業務
などに分かれる。
管理費の計画に当たっては、これらの業務ごとに翌年度の業務計画を明らかにして、これらの業務遂行に必要とされる経費を個別の業務ごとに計画するのが望ましい。

営業外収益計画
(1) 財務関係の収益
受取利息、受取配当金などは、これら収益のもととなる銀行預金、有価証券の残高と予想金利や配当率をもとに計画する。
(2) 営業関係の収益
雑収入の中には、販売リベートなど販売関係に関わるものが少なくないが、これらは営業計画に沿って計画する。その他の営業外収益は、過去の実績を参考に予測する。

営業外費用計画
(1) 財務関係の費用
支払利息は、見積損益が確定した上で、これをもとに資金繰り計画や見積貸借対照表を作成し、ここから導き出された借入金に予測金利率を乗じて計画する。
しかし、財務構成が大きく変化しないと予想される場合には、前年度の支払利息等の実績を参考に計画してもよい。
(2) その他の費用
その他の営業外費用は、過去の実績を参考に計画する。

見積損益計算書
以上、売上計画から営業外費用までを損益計算書の形に組み上げたものが見積損益計算書である。この結果、目標利益が確保できることが確認されれば利益計画の作成は終了する。

<< 資金繰り計画の作成 >>

資金繰り計画は、利益計画を月別計画に展開し、売上入金、仕入支払などの資料をもとに作成する。

売上入金
販売の回収条件に合わせて売掛金回収の計画を立てる。現金販売ならば[売上高=入金高]であるが、掛売りの場合には、
・売掛金の回収(現金回収、手形回収)
・回収手形の決済
に分けて計画しなければならない。
たとえば、1月の売上高300万円の代金の回収が、1か月後に20%現金、手形の期日3か月という場合は図表2のようになる。

売掛金の回収条件や受取手形の期日が得意先によってマチマチの場合には、平均の回収条件や手形期日を求めて計算する。
すでに販売したものの入金計画は、計画月初めの売掛金および受取手形残高をもとに計画を立てる。

仕入支払い
材料や商品および外注費の支払いは、商品の販売と同じように、支払条件によって計画を立てる。材料や商品は、売上原価でなく、仕入高で計画を立てることに注意する。
すでに仕入れたものの支払いは、売上入金と同じように、計画月初めの買掛金および支払手形残高をもとに計画を立てる。手持ち支払手形は、決済日別の残高を調べ、その決済月に支払いを計画する。
たとえば、月初の買掛金300万円、支払手形900万円(1月300万円、2月400万円、3月200万円)、1月の仕入500万円(1か月後、現金30%・手形70%払い。手形のうち60%はサイト2か月、40%は3か月)とすると、図表3のようになる。


人件費支払い
人件費のうち、賞与引当金繰入れや退職給与引当金繰入れなどは資金支出とはならない。他方、夏冬の賞与の支払いや退職金の支払い等は実際に支払う月の支出となるよう計画する。また、源泉税の預かり分は翌月の支払いとなる。

その他の製造経費および販売費・管理費
減価償却を除いては、ほぼ発生経費額が支払いとなるので、特別のものを除いては発生額を支払計画に入れる。

営業外収支
営業外収益および費用は、通常、発生額が収入および支払いとなるので、その金額を乗せる。

経常外収支
設備投資に関わる支払いや手形決済額、決算に伴う納税、株主配当、役員賞与支払いなどは、それぞれの支払月に計上する。

財務収支
まず、財務収支のうち、借入金の返済額、定期積金の積立額などの財務支払いを計上する。
そのうえで、
月初現金預金±経常収支±経常外収支±財務収支
を求め、繰越現金預金を計算する。
もし、マイナスとなれば資金不足となることを表わしているので、借入金や割引手形などによる資金調達を計画する。

<< 予想貸借対照表の作成 >>

見積損益計算書が作成されたら、これをもとに予想貸借対照表を作成する。
予想貸借対照表作成の基本的な考え方は、資産、負債、資本の各科目ごとに翌年度において変動する要因を予測し、これを今年度末の貸借対照表に増減して翌年度の残高を予測する。翌年度において変動する要因がつかみきれないものについては、現状の売上高回転率をもとに翌年度末の残高を予測する。

運転資本計画
まず、売掛金、受取手形、棚卸資産、買掛金、支払手形などの営業上の資産、負債については、今年度の回転率をもとに、改善計画を盛り込んで次期の回転率計画を設定し、翌年度の計画売上高等から翌年度末の残高を予測する。
図表4の設例で見てみよう。

図表4の例では、11期における必要運転資本は、
売掛金+受取手形+棚卸資産-(買掛金+支払手形)
として計算されるから
2,000万円+8,000万円+4,000万円-(1,600万円+3,200万円)=9,200万円
と計算される。
12期における必要運転資本を少しでも圧縮するために、手形サイトの短い得意先への売上構成を高め、また、売筋商品に商品構成を絞ることによって、受取手形回転率と棚卸資産回転率をそれぞれ、3回転、6回転に高めるように計画したとしよう。
12期の計画売上高を2.4億円、仕入高を1.9億円とした場合の売掛金、受取手形、棚卸資産、買掛金、支払手形は図表4のように計算され、
その結果、12期における必要運転資本は、
2,400万円+8,000万円+4,000万円-(1,900万円+3,800万円)=8,700万円
と計算される。11期と比べて500万円減少することがわかる。

設備資本計画
設備資本計画は、翌年度の設備投資計画と翌年度の減価償却予定額から計画する。
設備投資計画および減価償却については、固定資産の種類別に予測する。
調達資本については、自己資金か他人資本か、他人資本の場合は支払手形か借入金か、あるいはリースか、また、借入金等の場合は返済計画や手形決済を計画に織り込む。

納税充当金
翌年度の税引前利益額から未払法人税等額を予測して計画する。

借入金等
長期借入金は、約定の返済条件に従って翌年度の返済額を計画する。短期借入金は、返済がはっきりしているものはその金額を、転がしているものについては、ひとまずそのまま継続するものと考えておく。
割引手形は、今期の金額をそのまま記入しておくか、あるいは翌年度末の受取手形残高から、今年度の手形割引額を参考に翌年度の割引額を予測する。

現金預金
定期預金および積立預金の積立額や満期取崩しが決まっているものについては、それによって計算した金額を今年度貸借対照表に増減して翌年度末残高を計画する。
現金当座預金は、適正手持ち残高がわかればそれを、わからない場合には今年度の回転率をもとに予測する。

その他の資産、負債計画
その他の流動資産、流動負債等については、変動要因がわかっていればそれに基づいて、わからない場合には売上回転率などを参考に予測する。

資本計画
資本勘定のうち資本金は、変動がなければ今年度の金額と同額。利益剰余金の各勘定残高も、原則として今年度末の残高をそのまま引き継ぐ。

貸借差額の調整
以上の結果作成された仮の予想貸借対照表を貸借合計すると、貸借のいずれかに差額が発生する。その差額は、それぞれの科目の予想額が正しかったとした場合の、資金の余剰あるいは不足を表わしている。
余剰は、現金預金の増加あるいは借入金の返済に充当できる。また、不足額が出た場合には、現金預金を減額するか、あるいは借入金等で充当しなければならない。
この調整を実施して、予想貸借対照表を完成させる。

予想資金運用表の作成
最後は、この予想貸借対照表をもとに、今年度の貸借対照表との比較増減額から資金運用表を作成する。とりわけ、新たな資金調達が必要であることが判明した場合には、その調達方法を考えておかなければならない。

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。