ビジネスわかったランド (経営・社長)
経営計画の立て方・進め方
全体計画と部門計画の調整の仕方は
積み上げられた部門計画と全体計画を突き合せて、全体と部門の、また、部門相互の調整を行なうが、その流れと手順は次のとおり。
全体計画と部門計画調整のフローチャート
積み上げられた部門計画と全体計画を突き合せて、全体と部門の、また、部門相互の調整を行なう場合の流れは、次の図表1のとおり。
(STEP1)全体計画と部門計画のギャップ
部門から積み上げられてきた予算と全体の利益計画マスタープランを比較検討して、そのギャップを明かにすることが第一である。
全体計画のほうが部門計画の合計より小さい場合には、部門予算が妥当と判断されれば全体予算を修正すれば足りる。しかし、このようなケースは少なく、部門計画の合計が全体予算を下回っていることが多い。
(STEP2)予算の調整
部門予算の根拠を検討し、全体予算とのギャップの原因や予算の妥当性を判断する。そして、全体予算と部門予算の調整および部門間の調整を図る。
部門予算を修正する場合には、その根拠を明らかにするとともに、この対策をできるだけ具体的に煮詰めることが必要である。
(STEP3)方針、政策の調整
予算の調整に伴って部門方針に十分でないところがあれば修正する。また、全社の重点方針に修正が必要と判断された場合には、全社の経営重点方針を修正する。
最後に、修正事項を確認して、部門計画のまとめ指示をするとともに、全体予算の確定のための手順を決めてこのステップを終了する。
<< 調整事項とその具体的内容 >>
全体調整の内容
全体調整は、各部門から積み上げられた計画と全体計画の調整、および各部門間の調整であるが、その内容は次の4つである。
(1) 予算
部門損益制度や事業部制を採用している企業にあっては、各部門の利益計画の調整。
部門別損益制度を採用していないところでは、売上、回収、仕入、生産、在庫、費用、利益などの予算がそれぞれ調整の対象となる。
(2) 新規採用人員および組織構造計画
翌年度の人員構成と組織構造は、これより前のステップにおいて全体計画は立案されているが、部門計画の煮詰めのなかで修正された部門もあるので全体調整を図っておく。
(3) 設備投資計画
翌年度の設備投資計画も同様に、各部門の計画と全体計画との調整を図っておく。
(4) 各種のプロジェクト計画など
このほか、改善プロジェクトやQC活動をはじめ、年間の行事計画など、できるだけ年度初めに全体の内容と日程を固めておくことが望ましい。
全体と部門との調整
調整は、まず、全体と部門全体の調整から始まる。部門の合計を全体に合致させる調整であり、上からの一方的な指示ではなくて、現場の状況も汲み上げて、全体との調和を図らなければならない。
ポイントは、全体最適化と部分最適化は必ずしも一致しないということ。それぞれの計画がよくても、それは結果として全体の利益につながらないことがある。
たとえば、各部門から見れば必要な設備投資も、全社予算からは資金調達がむずかしいとか、部門計画で利益優先の商品構成や市場編成を組みたくても、会社全体のことを考えると、長期的な観点から異なった商品構成や市場編成が必要とされるという場合である。
全体計画と部門計画は、原則として、全体計画に沿って部門計画が組まれることが前提である。
部門間の調整
もう1点は、横の調整、すなわち、ライン部門とスタッフ部門、ライン部門同士など、部門間の調整である。部門間の調整の主なものは、以下のとおりである。
(1) 販売部門と生産部門
販売量と生産量の調整。
見込み生産、受注生産形態を問わず、営業部の製品別販売計画に生産計画を合わせるのが普通であるが、生産部門は生産効率の上から少品種、多量生産の要請と、営業部門の得意先ニーズへの対応とのギャップの調整が課題となる。
(2) 仕入、資材部門と生産部門
生産量に合わせた資材の調達と在庫量の調整。
在庫量が多い分だけ生産部門の部品在庫切れが少なくなるが、反面、資材の在庫コストがかさむ。
(3) 開発部門と販売、生産部門
開発部門の製品開発状況に合わせた生産計画と販売計画との調整。
商品開発時期に合わせた生産部門の材料、作業員などの手配と販売計画設定との調整。
(4) 経理部門と他の各部門
計画は、最終的に、利益計画および資金計画にまとめられるが、このまとめの上から、すべての部門の売上、原価予算並びに回収、支払い、さらに設備投資計画などについての調整を行なう。
(5) 人事部門と他の各部門
人材の新規採用および中途採用のほか、人事のローテーション、昇格など、人に関わる調整。
納得のいく調整をするためのコツ
全体計画と部門計画の調整は、数字合わせにならないように、具体的な根拠をもって、かつ、上からの押付けにならないような配慮が必要である。
そこで、
(1) 予算の修正をする場合は、その根拠を明確にする
(2) 予算の裏付けに、具体的な対策を明らかにする
(3) その対策を実行するための担当分担や期限を明かにする
ことが必要である。
たとえば、部門別の売上高合計が全体の必要売上高に比べて低い場合の調整を考えてみよう。
(設例)
部門の売上を調整するために得意先別、商品別の売上高予算を検討した結果、A得意先の売上予算が1,000万円低めに設定されていた。営業部長によると、A社が翌年度方針として当社の競合先である甲商事の商品を重点的に取り扱うと情報が入っていたため、低めに設定した、という。
そこで、社長は、A社の売上を拡大すれば全社予算に近づくので、営業部長にA社の売上を増大するよう検討を求めた。
(調整)
問題は、甲商事の進出を阻み、当社の商品を従来通りA社の主力商品として取り扱ってもらえるか否かにかかっている。そのためにはどういう対策をとることが必要かを検討しなければならない。
検討の結果、部長は、社長と協議して、
(1) A社のトップ対応を当社の社長に依頼する
(2) 部長は、A社専務をはじめ、営業幹部層とともにA社の次期の販売計画立案に参加し、当社商品を従来通り主力商品として扱うよう方向づける
(3) 生産面においては、A社商品向けの商品開発のためにプロジェクトを編成する
の3点を当社の対策として決定した。さらに、この実現のために、具体的な対策とスケジュールを決めて実行に移すこととした。
そのうえでA社予算を1,000万円上乗せし、全体予算に近づけた。
このように、単に予算が低いからといって数字を上乗せするのでなく、
(1) 具体的な根拠を明確にして予算を修正すること
(2) この実現のために、誰が、どのように取り組むか、5W1Hを明確に設定すること
が必要である。
<< 部門責任者に対する指導 >>
全体調整は、トップ層による各部門の計画策定に関わる指導の場でもある。
社長はじめ役員層は、各部の計画の吟味を通じて、部門責任者およびその補完者層の計画立案、その遂行に対する取り組み状況を診断し、適切な指導をすることが必要である。
トップ層の役割は、部門責任者が計画を遂行するための障害点を発見し、計画達成に導くことにある。上の人の役割は、「部下が目標を達成できる環境を作ってあげること」だからである。
いい替えれば、「トップ層が何をしてあげれば部門計画が実現できるか」を考えて、サポートしてあげることといえよう。
こうした観点から、トップ層が部門計画をチェック、検討する時の着眼点を整理すると、次のようになろう。
方針、予算の妥当性指導
(1) 予算は、商品別、得意先別、セールスマン別など、全社の方針に沿って作成されているか。
(2) 部門方針は、全社方針に沿って、また、今年度の部門方針推進状況の問題点などを踏まえて設定されているか。
(3) 部門方針は、実行のための具体化計画に下ろされており、実施担当者の行動計画にまで煮詰められているか。
(4) 部門方針と予算は、整合性が十分に図られているか。
(5) 部門計画を推進するための組織編成や役割分担は適正に計画されているか。
責任者自身への指導
(1) 部門方針や具体化計画を推進するために、部門責任者自身が取り組むべき課題が明らかになっているか。
(2) 部門責任者の補完者層と、部門方針の推進や予算の実現に向けて、全面的な協力体制が取られているか。
(3) また、協力体制を固めるための部下の教育や組織の活性化、コミュニケーションの強化策など、対策が打たれているか。
(4) 計画実現に向けて、部門責任者自身の熱意とやる気は十分か。
トップ層自身のサポート
(1) 部門計画を実現するために、部門責任者が最も気をつけなければならないことは何かを発見し、それを気づかせる。
(2) 部門責任者にどのようなサポートをしてあげたら部門計画が実現しやすくなるかを聞いて、トップ層自身のサポート内容を固める。
(3) 部門に対するサポートの仕方を具体的に決める。
<< 調整会議としての合宿会議 >>
宿泊会議の狙い
経営計画は、十分に練られたもので、また、社内の意思統一が図られた分だけその実現は確かなものとなることはいうまでもない。
しかし、毎日、その日の予算達成に追われている状況では、じっくり全社の問題を検討し、対策を立てたり、また他部門との調整をしている余裕はないのが実態であろう。
そこで、経営幹部だけででも、できれば宿泊で調整合議を持つことをお勧めする。宿泊で行なうことによって、計画の調整だけでなく、研修の要素を織り込み、合宿を通して幹部層の一層の意思統一や教育の場とすることも期待できる。
合宿という言葉は、運動部の強化訓練などで使われるが、同じ釜のメシを食べながら、夜遅くまで共に翌年度の対策を検討する過程で、共感が生まれ、集団としての意思統一とともに能力開発が図れることが大きな利点である。
合宿会議に取り込む内容
合宿合議を行なう場合には、全体調整だけでなく、部門方針の設定や個人目標までを含めることが多い。
すなわち、「Q 部門計画策定の手順は」では、部門予算の立案を中心としておき、部門方針の検討は調整会議に取り入れるのである。また、「Q 部門計画のまとめ方・個人目標設定のポイントは」で行なう予定となっている、部門責任者自身の「個人目標の設定」も合宿会議のテーマに取り込んでしまう。
通常、合宿は、金曜・土曜または、土曜・日曜の1泊2日で行なう。できればちょっと郊外の、宿泊施設のある会場を選ぶと、環境も変わって、新たな雰囲気で計画作成に当たれる。
また、毎年、合宿の計画作成会議を継続していると、そのよさがわかってきて、各部門計画の煮詰めも合宿会議で行なうようになった会社も数多くある。
合宿会議のスケジュール
幹部層により翌年度計画作成の合宿を実施した会社のスケジュール例を図表2に示しておこう。第1日目は、金曜日の午後から始めて、翌日土曜日の夕方まで、土曜の休日を潰して実施した例である。
第1日目は、開会挨拶に続いて社長の翌年度経営重点方針の発表があり、続いて、この方針に基づいて全員で翌年度の取り組み方について、常務の司会により討論し、社長方針の理解を深めた。
休憩ののち、各部門に分かれて、部門ごとに今年度の反省に基づいて、翌年度の予算の検討と部門方針の検討を行なう。部門方針は、具体化計画まで含めて行なった。
夜は、少し遅くまで会議を続け、20時から夕食。夕食は軽くビールをつけて懇談をしながらとり、食後は、各部屋に入ってそれぞれ、持込みのウイスキーなどで懇談を続けて23時には就寝。
第2日目は、朝食前に全員で玄関前にて朝礼、ラジオ体操のあと、みんなでランニングを行ない、軽く汗をかいてから朝食。
朝食のあと、前日に煮つめた部門計画を発表しあい、利益計画マスタープランおよび重点方針と調整を行なう。調整が済んだうえで、各部門とも、幹部層一人ひとりの個人目標の設定に入り、個人目標ができた人から、その個人目標について上司とミーティングし、チェックをしてもらう。
個人目標のチェックが全員終了し、全員集まったところで個人別の目標発表を行ない、社長の総括コメントがあって合宿を終わった。
合宿会議の効用
合宿合議のよさは、何といっても腹を割って話し合えるような雰囲気がつくれること、そして、参加者の一人ひとりが翌年度に向けて、自分の目標をしっかりと確認できることである。
どこの会社も予算の達成は容易ではないが、むずかしくとも、この挑戦の意欲がかきたてられるような雰囲気ができさえすれば、計画の達成も見えてくる。
とくに、それまで成行き的な雰囲気の会社が、初めて合宿会議を実施したときには独特の興奮感が感じられる。
まとまった文章を書いたこともない現場のリーダーたちが、目を輝かせて自分たちの計画を煮詰めて、目標を発表する姿は、初めてQCサークル活動に取り組んだ全社のQC発表大会の雰囲気に似ている。
最後の社長の挨拶も、自社にはこんなすばらしい幹部層やリーダー層が揃っていたのかという感激や、これからの会社経営に自信を深めたという感謝の言葉、そして、将来に向かって一緒に取り組もうという同志としての結束を喜ぶ言葉が続くものである。
会社の会議室で、背広とネクタイの合議ばかりで、合宿会議を経験したことのない会社は、リラックスした雰囲気の中で、社長とリーダーが同じ立場に立って、共通の目標に向かって自由な意見を戦わせる合宿会議を、ぜひ取り入れてみてほしい。
著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
全体計画と部門計画調整のフローチャート
積み上げられた部門計画と全体計画を突き合せて、全体と部門の、また、部門相互の調整を行なう場合の流れは、次の図表1のとおり。
(STEP1)全体計画と部門計画のギャップ
部門から積み上げられてきた予算と全体の利益計画マスタープランを比較検討して、そのギャップを明かにすることが第一である。
全体計画のほうが部門計画の合計より小さい場合には、部門予算が妥当と判断されれば全体予算を修正すれば足りる。しかし、このようなケースは少なく、部門計画の合計が全体予算を下回っていることが多い。
(STEP2)予算の調整
部門予算の根拠を検討し、全体予算とのギャップの原因や予算の妥当性を判断する。そして、全体予算と部門予算の調整および部門間の調整を図る。
部門予算を修正する場合には、その根拠を明らかにするとともに、この対策をできるだけ具体的に煮詰めることが必要である。
(STEP3)方針、政策の調整
予算の調整に伴って部門方針に十分でないところがあれば修正する。また、全社の重点方針に修正が必要と判断された場合には、全社の経営重点方針を修正する。
最後に、修正事項を確認して、部門計画のまとめ指示をするとともに、全体予算の確定のための手順を決めてこのステップを終了する。
<< 調整事項とその具体的内容 >>
全体調整の内容
全体調整は、各部門から積み上げられた計画と全体計画の調整、および各部門間の調整であるが、その内容は次の4つである。
(1) 予算
部門損益制度や事業部制を採用している企業にあっては、各部門の利益計画の調整。
部門別損益制度を採用していないところでは、売上、回収、仕入、生産、在庫、費用、利益などの予算がそれぞれ調整の対象となる。
(2) 新規採用人員および組織構造計画
翌年度の人員構成と組織構造は、これより前のステップにおいて全体計画は立案されているが、部門計画の煮詰めのなかで修正された部門もあるので全体調整を図っておく。
(3) 設備投資計画
翌年度の設備投資計画も同様に、各部門の計画と全体計画との調整を図っておく。
(4) 各種のプロジェクト計画など
このほか、改善プロジェクトやQC活動をはじめ、年間の行事計画など、できるだけ年度初めに全体の内容と日程を固めておくことが望ましい。
全体と部門との調整
調整は、まず、全体と部門全体の調整から始まる。部門の合計を全体に合致させる調整であり、上からの一方的な指示ではなくて、現場の状況も汲み上げて、全体との調和を図らなければならない。
ポイントは、全体最適化と部分最適化は必ずしも一致しないということ。それぞれの計画がよくても、それは結果として全体の利益につながらないことがある。
たとえば、各部門から見れば必要な設備投資も、全社予算からは資金調達がむずかしいとか、部門計画で利益優先の商品構成や市場編成を組みたくても、会社全体のことを考えると、長期的な観点から異なった商品構成や市場編成が必要とされるという場合である。
全体計画と部門計画は、原則として、全体計画に沿って部門計画が組まれることが前提である。
部門間の調整
もう1点は、横の調整、すなわち、ライン部門とスタッフ部門、ライン部門同士など、部門間の調整である。部門間の調整の主なものは、以下のとおりである。
(1) 販売部門と生産部門
販売量と生産量の調整。
見込み生産、受注生産形態を問わず、営業部の製品別販売計画に生産計画を合わせるのが普通であるが、生産部門は生産効率の上から少品種、多量生産の要請と、営業部門の得意先ニーズへの対応とのギャップの調整が課題となる。
(2) 仕入、資材部門と生産部門
生産量に合わせた資材の調達と在庫量の調整。
在庫量が多い分だけ生産部門の部品在庫切れが少なくなるが、反面、資材の在庫コストがかさむ。
(3) 開発部門と販売、生産部門
開発部門の製品開発状況に合わせた生産計画と販売計画との調整。
商品開発時期に合わせた生産部門の材料、作業員などの手配と販売計画設定との調整。
(4) 経理部門と他の各部門
計画は、最終的に、利益計画および資金計画にまとめられるが、このまとめの上から、すべての部門の売上、原価予算並びに回収、支払い、さらに設備投資計画などについての調整を行なう。
(5) 人事部門と他の各部門
人材の新規採用および中途採用のほか、人事のローテーション、昇格など、人に関わる調整。
納得のいく調整をするためのコツ
全体計画と部門計画の調整は、数字合わせにならないように、具体的な根拠をもって、かつ、上からの押付けにならないような配慮が必要である。
そこで、
(1) 予算の修正をする場合は、その根拠を明確にする
(2) 予算の裏付けに、具体的な対策を明らかにする
(3) その対策を実行するための担当分担や期限を明かにする
ことが必要である。
たとえば、部門別の売上高合計が全体の必要売上高に比べて低い場合の調整を考えてみよう。
(設例)
部門の売上を調整するために得意先別、商品別の売上高予算を検討した結果、A得意先の売上予算が1,000万円低めに設定されていた。営業部長によると、A社が翌年度方針として当社の競合先である甲商事の商品を重点的に取り扱うと情報が入っていたため、低めに設定した、という。
そこで、社長は、A社の売上を拡大すれば全社予算に近づくので、営業部長にA社の売上を増大するよう検討を求めた。
(調整)
問題は、甲商事の進出を阻み、当社の商品を従来通りA社の主力商品として取り扱ってもらえるか否かにかかっている。そのためにはどういう対策をとることが必要かを検討しなければならない。
検討の結果、部長は、社長と協議して、
(1) A社のトップ対応を当社の社長に依頼する
(2) 部長は、A社専務をはじめ、営業幹部層とともにA社の次期の販売計画立案に参加し、当社商品を従来通り主力商品として扱うよう方向づける
(3) 生産面においては、A社商品向けの商品開発のためにプロジェクトを編成する
の3点を当社の対策として決定した。さらに、この実現のために、具体的な対策とスケジュールを決めて実行に移すこととした。
そのうえでA社予算を1,000万円上乗せし、全体予算に近づけた。
このように、単に予算が低いからといって数字を上乗せするのでなく、
(1) 具体的な根拠を明確にして予算を修正すること
(2) この実現のために、誰が、どのように取り組むか、5W1Hを明確に設定すること
が必要である。
<< 部門責任者に対する指導 >>
全体調整は、トップ層による各部門の計画策定に関わる指導の場でもある。
社長はじめ役員層は、各部の計画の吟味を通じて、部門責任者およびその補完者層の計画立案、その遂行に対する取り組み状況を診断し、適切な指導をすることが必要である。
トップ層の役割は、部門責任者が計画を遂行するための障害点を発見し、計画達成に導くことにある。上の人の役割は、「部下が目標を達成できる環境を作ってあげること」だからである。
いい替えれば、「トップ層が何をしてあげれば部門計画が実現できるか」を考えて、サポートしてあげることといえよう。
こうした観点から、トップ層が部門計画をチェック、検討する時の着眼点を整理すると、次のようになろう。
方針、予算の妥当性指導
(1) 予算は、商品別、得意先別、セールスマン別など、全社の方針に沿って作成されているか。
(2) 部門方針は、全社方針に沿って、また、今年度の部門方針推進状況の問題点などを踏まえて設定されているか。
(3) 部門方針は、実行のための具体化計画に下ろされており、実施担当者の行動計画にまで煮詰められているか。
(4) 部門方針と予算は、整合性が十分に図られているか。
(5) 部門計画を推進するための組織編成や役割分担は適正に計画されているか。
責任者自身への指導
(1) 部門方針や具体化計画を推進するために、部門責任者自身が取り組むべき課題が明らかになっているか。
(2) 部門責任者の補完者層と、部門方針の推進や予算の実現に向けて、全面的な協力体制が取られているか。
(3) また、協力体制を固めるための部下の教育や組織の活性化、コミュニケーションの強化策など、対策が打たれているか。
(4) 計画実現に向けて、部門責任者自身の熱意とやる気は十分か。
トップ層自身のサポート
(1) 部門計画を実現するために、部門責任者が最も気をつけなければならないことは何かを発見し、それを気づかせる。
(2) 部門責任者にどのようなサポートをしてあげたら部門計画が実現しやすくなるかを聞いて、トップ層自身のサポート内容を固める。
(3) 部門に対するサポートの仕方を具体的に決める。
<< 調整会議としての合宿会議 >>
宿泊会議の狙い
経営計画は、十分に練られたもので、また、社内の意思統一が図られた分だけその実現は確かなものとなることはいうまでもない。
しかし、毎日、その日の予算達成に追われている状況では、じっくり全社の問題を検討し、対策を立てたり、また他部門との調整をしている余裕はないのが実態であろう。
そこで、経営幹部だけででも、できれば宿泊で調整合議を持つことをお勧めする。宿泊で行なうことによって、計画の調整だけでなく、研修の要素を織り込み、合宿を通して幹部層の一層の意思統一や教育の場とすることも期待できる。
合宿という言葉は、運動部の強化訓練などで使われるが、同じ釜のメシを食べながら、夜遅くまで共に翌年度の対策を検討する過程で、共感が生まれ、集団としての意思統一とともに能力開発が図れることが大きな利点である。
合宿会議に取り込む内容
合宿合議を行なう場合には、全体調整だけでなく、部門方針の設定や個人目標までを含めることが多い。
すなわち、「Q 部門計画策定の手順は」では、部門予算の立案を中心としておき、部門方針の検討は調整会議に取り入れるのである。また、「Q 部門計画のまとめ方・個人目標設定のポイントは」で行なう予定となっている、部門責任者自身の「個人目標の設定」も合宿会議のテーマに取り込んでしまう。
通常、合宿は、金曜・土曜または、土曜・日曜の1泊2日で行なう。できればちょっと郊外の、宿泊施設のある会場を選ぶと、環境も変わって、新たな雰囲気で計画作成に当たれる。
また、毎年、合宿の計画作成会議を継続していると、そのよさがわかってきて、各部門計画の煮詰めも合宿会議で行なうようになった会社も数多くある。
合宿会議のスケジュール
幹部層により翌年度計画作成の合宿を実施した会社のスケジュール例を図表2に示しておこう。第1日目は、金曜日の午後から始めて、翌日土曜日の夕方まで、土曜の休日を潰して実施した例である。
第1日目は、開会挨拶に続いて社長の翌年度経営重点方針の発表があり、続いて、この方針に基づいて全員で翌年度の取り組み方について、常務の司会により討論し、社長方針の理解を深めた。
休憩ののち、各部門に分かれて、部門ごとに今年度の反省に基づいて、翌年度の予算の検討と部門方針の検討を行なう。部門方針は、具体化計画まで含めて行なった。
夜は、少し遅くまで会議を続け、20時から夕食。夕食は軽くビールをつけて懇談をしながらとり、食後は、各部屋に入ってそれぞれ、持込みのウイスキーなどで懇談を続けて23時には就寝。
第2日目は、朝食前に全員で玄関前にて朝礼、ラジオ体操のあと、みんなでランニングを行ない、軽く汗をかいてから朝食。
朝食のあと、前日に煮つめた部門計画を発表しあい、利益計画マスタープランおよび重点方針と調整を行なう。調整が済んだうえで、各部門とも、幹部層一人ひとりの個人目標の設定に入り、個人目標ができた人から、その個人目標について上司とミーティングし、チェックをしてもらう。
個人目標のチェックが全員終了し、全員集まったところで個人別の目標発表を行ない、社長の総括コメントがあって合宿を終わった。
合宿会議の効用
合宿合議のよさは、何といっても腹を割って話し合えるような雰囲気がつくれること、そして、参加者の一人ひとりが翌年度に向けて、自分の目標をしっかりと確認できることである。
どこの会社も予算の達成は容易ではないが、むずかしくとも、この挑戦の意欲がかきたてられるような雰囲気ができさえすれば、計画の達成も見えてくる。
とくに、それまで成行き的な雰囲気の会社が、初めて合宿会議を実施したときには独特の興奮感が感じられる。
まとまった文章を書いたこともない現場のリーダーたちが、目を輝かせて自分たちの計画を煮詰めて、目標を発表する姿は、初めてQCサークル活動に取り組んだ全社のQC発表大会の雰囲気に似ている。
最後の社長の挨拶も、自社にはこんなすばらしい幹部層やリーダー層が揃っていたのかという感激や、これからの会社経営に自信を深めたという感謝の言葉、そして、将来に向かって一緒に取り組もうという同志としての結束を喜ぶ言葉が続くものである。
会社の会議室で、背広とネクタイの合議ばかりで、合宿会議を経験したことのない会社は、リラックスした雰囲気の中で、社長とリーダーが同じ立場に立って、共通の目標に向かって自由な意見を戦わせる合宿会議を、ぜひ取り入れてみてほしい。
著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
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