ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

経営理念・方針策定の手順は
 経営理念・方針は、次のフローチャートに従ってキーワードをピックアップし、経営者の哲学をベースに、顧客からも、社員からも共感を得られるものをまとめる。


経営理念、経営基本方針作成のフローチャート
経営理念・方針の策定は、まず、次の図表に示したフローチャートに従い、経営の基本的な経営姿勢として貫いていかなければならない理念や方針のキーワードをピックアップする。

(STEP1)経営者の人生観、創業の動機
経営者の人生観や創業動機を整理してみる。自分が創業者ではない場合には、創業者がどのような理由でこの事業を創業したのか、また、その後継者はどのような考えで経営を継承してきたかを整理する。
(STEP2)いままでの企業の経営理念、経営姿勢
現在までの経営理念や経営姿勢は社内に受け入れられてきたか、現在の経営環境にマッチしているかを検討し、見直す。
さらに、これからの社会の変化を予測して、自社がどのような分野で社会貢献していくか、進べき方向を考える。
(STEP3)経営の筋道
事業活動を成功に導くための原理原則は何か、これを整理してみる。事業を進めていくうえでの筋道ということである。どんなことでも原理原則にそって行なうことが成功の秘訣であるように、経営も正しい考え方=筋道があるはずである。
(STEP4)経営理念の成文化
以上を総合すると、これからの自社の経営の基本的な経営姿勢として貫いていかなければならない理念や方針のキーワードがいろいろ出てくる。これらをひとまず、列挙してみる。
そして、これらのなかから、経営者の哲学に合致し、顧客からも、社員からも共感を得られるものを、社是、経営基本方針などとしてまとめる。

<< 見直される経営理念 >>

変わる経営理念
経営理念を作り変えている会社が増えている。業種や企業規模を越えて多くの会社が経営理念の見直しをしている。
反面、こうした環境変化や社内の活性化に向けて企業を変革させようという考えとはまったく裏腹に、立派な経営理念が泣くような不祥事が生じている。
最近では耐震強度偽装事件、食品表示の偽装、有価証券報告書の虚偽記載など、企業の社会的責任(CSR)が今ほど問われている時はない。
経営理念を設定していても、トップ層を初め、社員の模範となるべき幹部層がこぞって自ら経営理念にもとる行動をしていたのでは、企業の存続意義そのものを疑われかねない。

経営理念と社会的責任
日本の経営理念の発祥は、旧商家の家訓がモトとなっている。三井も住友も、家の家訓をベースに商いのよりどころたる精神的指針として経営理念を定めてきた。そして、代々の当主が、事業経営の成功や失敗などの経験のなかで、これこそ経営の要諦であると認識してきた経営者の心構え、経営姿勢や、経営を成功に導くための管理の要締などをまとめたものが経営理念となっている。
それは企業の代々にわたって守られ、また、付け加えられ、その時代にあったように改訂が繰り返されてきた経営の指針である。
それだけに、現在経営にあたるものは、また、将来経営に携わるものは、これを守ることを通して、経営を正しい方向に導く義務がある。
環境変化への対応とか企業のアイデンティティーの確立といった、若い社員に受け入れられる表現も大切であるが、より本質的には企業が社会的な存在として、社会的な責任を全うするという倫理性を打ち立てるとともに、全社員にこの倫理性にそった行動をうながすような経営理念でありたい。

経営理念の創造は経営者の責務
この意味で、経営理念の創造は、経営者の最も大切な責務である。
そもそも経営理念は、経営の最高責任者が自身の経営思想や価値観を顧客や社員に向けて表明したものである。全員参加でみんなに考えさせる必要がないとはいわないが、この場合にも基本的な最高経営者の思想を反映したものであることが大切である。
私は、いままで、数十社の行き詰まった企業の再逮指導に携わってきたが、行き詰まる企業のほとんどは、経営者自身の経営理念が確立されていない。
総合衣料品小売業のO社は、近くにナショナルスーパーが出店してから、毎日のように、その競合店に行っては価格や品揃えを見て、自社の品揃えや価格設定をしたり、また、売上を伸ばすために借入金で無理な新規出店を重ね、結局、行き詰まった。そこには従業員の幸せを願う心や、本当の顧客の立場に立った商品政策がなかった。
また、精密加工業のH社は、利益を自己の資産に回して身分不相応な車を乗り回し、外に女性をつくり、公私混同に陥り、過剰投資から資金逼迫に陥り倒産した。
どちらの会社も「何のために経営するのか」という基本的な経営理念に欠けていたための悲劇であった。幸いにも両社とも、社長がこのような状態に至った自分自身の不徳を反省し、本当にお客様のために、また、愛する社員と共にという精神で再出発したので見事に再建を果たしている。
「何のために経営するか」という経営の基本的な理念を確立し、社員をそのように動機づけ、育成し、顧客の要求に応えていくことこそ経営者の最も大事な責務である。

<< 社是と経営基本方針の定め方 >>

経営理念とは
経営理念とは、「会社の、社会における役割や社会的責任、目標、戦略、行動指針などの重点を、簡潔な言葉やシンボルで表わしたもの」である(『現代の経営戦略』河野豊弘著、ダイヤモンド社)。
また、「経営者が企業を経営するに当たって持っているところの信念、信条、理想、哲学であり、その企業の行動指標となる考え方を示すもの」であるという(『経営効率化の具体策』日経連中小企業問題特別委員会編)。
いかに経営者の経営感覚が優れていても、顧客や従業員に共感を得られるような企業としての哲学がなければ、一時的な繁栄はあっても長続きしない。経営者自身が自ら信ずるところや、あるいは先代、先輩たちの経験をベースとした経営理念でなければならない。

経営理念の表わし方
経常理念は、具体的には社是、社訓、経営基本方針、経営要綱、経営指針、スローガンなどとして表わされる。それらの意味するところは、それぞれ若干異なるのであろうが、現実的な表わし方としては、
(1) 企業が大切にしている価値観
(2) 企業の存在意義
(3) 経営姿勢や行動規範
の3つに分けるか、あるいは、
(1) 社是
(2) 経営基本方針
の2つに分けるのがわかりやすいようである。
(1) 大切にしている価値観とは
これは「顧客第一主義」や「安全」、あるいは「信用」などといった経営上最も重視する価値観を表わしたもの。住友生命の調査によると、日本のベスト3は「誠実」「努力」「和」といわれていたが、最近は企業の社会的責任が加わってきている。
(2) 企業の存在意義とは
何をもって社会に貢献するか、という企業の社会的な存在意義を規定したもの。これをさらに、会社が進むべき分野にまで言及すると事業領域となる。
(3) 経営姿勢や社員の行動規範とは
経営姿勢とはキヤノンの社風として掲げられている「実力主義をモットーとし、人材登用を図る」のようなもので、また、社員の行動規範とは、「たえまない挑戦と自己革新」(東京書籍)といったものをいう。
また、社是と経営基本方針との2つに分ける場合には、次を参考にされたい。
(1) 社是
これは前記の「大切にしている価値観」に相当するもので、企業運営上で、全社員が守るべき行動のよりどころをまとめたもの。
(2) 経営基本方針
社是を具体的な事業運営にあてはめて、基本的な運営方針として定めたもので、前記の「企業の存在意義」の他、経営の運営方針などを定めたものである。

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。