ビジネスわかったランド (経営・社長)

経営計画の立て方・進め方

経営計画書作成と提示の仕方は
 全社と部門の計画を経営計画書としてまとめるとともに、全社員を対象に経営計画発表会を開き、その実現に向けて全社の意思統一を図るようにもっていくが、そのやり方は次のとおり。


経営計画書作成と経営計画発表会のフローチャート
経営計画書作成と提示の仕方としての経営計画発表会は、次の図表1のフローチャートに沿って行なう。

(STEP1)経営計画書の作成
経営理念から導かれた経営基本方針とその方針に沿って立てられた利益計画、資金計画等に各部門計画を加えて、これらを総合し、製本して計画書としてまとめる。
計画書は、経営理念から始まり、本年度実績の反省、翌年度の経営重点方針、全社利益計画など全社の計画だけでなく各部門計画を盛り込む。
(STEP2)経営計画発表会の開催
経営計画書が作成できたら、計画発表会を準備し、全社員を対象に計画発表会を開催し、全社員の意思統一を図る。

<< 経営計画書の体系 >>

経営計画書に盛り込む内容
固められた計画は、経営計画書としてまとめられ、全社員に配付される。それは、1年間の経営指針として、全社員あるいは経営幹部に活用されることとなる。
計画書には、一般的には次のような内容を盛り込む。これらは、各ステップごとのワークシートの内容をそのまま記載してもらえばよい。
(1) 社是、社訓
(2) 経営基本方針
(3) 中長期目標
(4) 前年度の反省
(5) ○○年度経営重点方針
(6) 全社利益計画
・利益計画総括表
・月別利益計画表
・商品別、市場別販売・生産計画表
・製造原価および販売費・管理費明細表
(7) 部門別計画(各部門ごと)
イ 利益計画表(年間合計および月別)
・売上・利益計画表
・経費明細表
ロ 部門重点方針
ハ 個人別行動目標
(8) プロジェクト計画
・研究開発計画
・○○システム改善計画
・○○活動計画
(9) 組織機構図
(10) 年間行事計画表
「社是」「社訓」「経営基本方針」などは、大きな文字で、1ページないし2ページを使って、ゆとりをもって載せるとよい。
「中長期目標」は、別項(Q 中長期目標の設定手順は)で検討した内容、あるいは中長期計画の内容をそのまま記載する。
「前年度の反省」は、社長が今年度の反省と翌年度に向けた挨拶や指針を掲げることが多い。全社員が理解できるように、やさしく書き表わすこと。
「○○年度経営重点方針」は、別項(Q 年度経営重点方針設定の手順は)の内容を掲げる。
「全社利益計画」のうち利益計画総括表は、全体利益計画を別項(Q 利益計画マスタープラン策定の手順は)で策定した利益計画マスタープランの形で記載する。部門がいくつかに分かれている会社では、部門別利益計画の要約の形で記載する。
月別利益計画表は、全社利益計画を月別に展開したもの。
商品別、市場別の販売・生産計画は、決定した計画を別項(Q 市場編成・商品構成計画の着眼点は)で設定したフォーマットで表わすとよい。
「部門別計画」は、営業部門、生産部門など自社の部門ごとに計画を記載する。計画は、それぞれ、予算、重点方針と部門責任者の個人目標の3つの体系で記載する。
「プロジェクト計画」は、翌年度実施する計画の各種プロジェクトについて、その計画やスタッフなどを記載する。
「組織機構図」は、翌年度の組織機構図を、部署名、氏名を含めて記載する。
最後の「年間行事計画」は、各種会議日程や入社式、株主総会、その他、各種の社内イベントなど、年間の行事日程を一覧表で記載する。

計画書づくりのポイント
計画書をつくるうえでのポイントや各社の計画書作成のアイデアを列挙しておくので、実際につくる場合の参考にされたい。
(1) 幹部社員用の計画書と一般社員用の計画書
経営計画書は、会社の大局的な経営方針から、具体的な作戦までが盛り込まれているので、もちろん「社外秘」の取扱いをすべきである。しかし、幹部社員はともかく、一般社員やパート社員などの中には、こうした守秘義務意識の欠けた社員がいるかもしれない。
また、悪気はなくとも、不注意で計画書を置き忘れたりして、結果として秘密漏洩につながりかねない。
そこで、計画書を幹部社員用と一般社員用の2種類つくることがよく行なわれる。幹部社員用には全部を載せるが、一般社員用にはマル秘事項を除き、全社の基本的な方針と自部門の計画だけを載せるようにする。
(2) 活用しやすく
計画書は、1年間通して使うものであるから、しっかりした装丁をすることが望ましい。もちろん、ワープロ、コピー仕上げでもかまわないが、表紙や「とじしろ」などは、常時使うのに耐えるようにつくりたい。
毎日の朝礼に計画書を持参することを義務づけている会社もある。こうした会社では、毎朝、スローガンを唱和し、計画と実績を確認している。
計画書も飾っておくだけでなく、毎日使うことによってその効果が発揮されるのであるから、装丁もこうした観点からの配慮が必要である。
(3) 実績欄を入れる
計画書の計画欄の横に実績欄を入れておく会社も多い。もちろん、実績は、毎月コンピュータ資料としてアウトプットされるが、自分で計画欄の横にボールペンや鉛筆で記入することが、より計画を意識づけることにつながるからである。
(4) チェックリストを入れる
計画書を日常の行動指針とするために、計画書に行動チェックリストや能力開発チェックリストを盛り込むことも効果的である。
次の図表2は、計画書の裏表紙に書かれた会議チェックリストの例である。

この会社では、会議を始めるときに必ず、司会者が声を出してこの10か条を読み上げてから会議に入る習慣となっている。
そのほかにもチェックリストとして、セールス行動チェックリスト、自己啓発チェックリストなどがよく使われている。
(5) 住所録など個人情報の記載
緊急電話連絡網や住所録、家族紹介から、結婚式予定日、誕生日など個人情報を記載している会社もある。
(6) その他
年間行事計画、個人別研修計画や朝礼の司会者当番、宿直当番などを記載しているところも多い。

<< 経営計画発表会とその進め方 >>

経営計画発表会の狙い
計画が実現できるかどうかは、「やってみなければわからない」というのはウソである。計画は、立案した段階で、「全員が計画を達成した」と思えば実現する。なぜならば、行動よりも心が先行するからである。問題は、全社員の決意次第である。
よい会社は、情報と価値観の共有化が図られているという。情報の共有化とは、社員が会社の現状や進むべき目標や計画の内容を、みんなで理解していること。営業部の人はみんな知っているのに、製造の人は知らなかったというように、知っている人と知らない人がいると社員の中で僻みが出たり、上司に対する不信が出たりして、行動に意思統一が図れない。
価値観の共有化とは、個人としての価値観は別として、企業人としてのあるべき価値基準をみんながもっていること。また、自社の社員として、自社の思想や経営理念を正しく理解し、自分のものとしていることである。
全社員が経営計画の内容を理解、確認し、この実現に向けて決意を固めるのが計画発表会である。それは、全社員が、新しい期に向けて計画を中心とした情報の共有化とこれを実現するための価値観の共有化を図るための場であるといい替えてもよいだろう。
計画発表会がうまくいかなければ、経営計画自体の実現が危ぶまれかねない。

計画発表会の要領
発表会の準備は、発表会の1か月前くらいには始めておきたい。記念講演を依頼する場合には、少なくとも3か月前から準備が必要である。
発表会準備の内容は、およそ次のとおりである。
(1) 発表会日時の決定
通常は、新しい年度の始まる前後。できれば年度末数日前の金曜日か土曜日がよい。新しい年度が始まるまで何日かあると、この期間に少しでも心の準備もできるからである。
小規模企業では、ゆっくり発表会の時間をとれないことが多いので、新年度期の最初の日の朝礼か作業終了後に、少し時間をかけて行なうことでもよい。
所要時間は、一般的には2時間から3時間。午後からか、夕方から始めてもよいが、発表会を大事な行事と考えている企業は1日かけて行なうところも多い。
全員が集まることが前提だから、日時は早めに決定することが必要である。
(2) 当日の式次第とタイムスケジュール
図表3にひな型を掲載しておいたが、前年度の実績見込み、当年度の計画発表、各部計画の発表が中心内容となる。

ほかに、社員表彰や記念講演、また、懇親会をセットしている企業も少なくない。
あわせて、当日の司会者や準備の担当などは、早めにまた準備よく決めて、手際よく行なえるようにしたい。
(3) 来賓者の決定
計画発表会に来賓者を呼ぶ場合にも、早めに招待しておきたい。来賓者としては、親会社、関係会社のほか、主力仕入先や協力企業の責任者、そして金融機関などである。
議員など政治家は、社長が個人的に深い関係がある場合にはともかく、経営計画の発表においては、遠慮していただき、事業に直接関係ある人をお招きしたほうがよいようである。
招待者がある場合は、招待状などの準備やお礼の準備などがある。
(4) 前年度実績予測と反省
発表会で忘れてはならないのが、前年度実績見込みである。
通常、発表会の実施日には、前年度の決算を終えていないので、見込みで決算予測をしなければならない。
また、実績見込みの数字は、遅くなればなるほど正確度が増すが、発表の準備のためには早めに数字を固めなければならないというジレンマがある。年度計画書に盛り込むかどうかも課題の一つであるが、載せるとしても計画書にはその概要だけを載せて、あとは発表会用の資料を別につくって説明することが多い。
発表に当たっては、数字の発表が中心となるので、わかりやすくするためにOHP等を使って行なうことが望ましい。
(5) その他
当日の会場準備やマイク、パソコン、プロジェクターなどの準備のほか、講演会や懇親会をあわせて実施する場合にはその準備がある。
発表会の式次第は、特別にルールがあるわけでなく、各社が創意と工夫で計画している。最近は経営計画発表会をイベントという観点から、若い人を中心にプロジェクトチームを編成して企画から任せているところもある。
このような会社では、いろいろ奇抜なアイデアを取り入れて、全員参加による盛り上がりを見せている。

発表会はイベント感覚で
発表会では、全社員が当年度の経営方針や具体的施策を十分に理解するとともに、この達成に向けて意思統一を図ることが主眼であるが、堅苦しい雰囲気ではちっとも盛り上がらない。
イベントばやりの現在は、発表会もイベント感覚で行ないたい。
発表会の企画から運営までを若い人たちに任せると、何をするかわからないと心配する時代ではなくなってきている。若い人たちのほうが会を盛り上げるのがずっとうまいし、また、この企画や運営を通じて若い人たちが伸びていく。
また、懇親会では、家族を呼んで簡単な立食パーティを実施する企業も増えている。社員だけでなく、家族ぐるみで、家族の健康と幸せと会社の繁栄を考える場としての計画発表会に移りつつある。

著者
天明 茂(公認会計士、宮城大学名誉教授)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。