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ちょっといい話

100匹目のサル
100匹目のサル
   ライアル・ワトソンは『生命潮流』という本の中で、九州・日南海岸のサルについて、興味深いエピソードを紹介しています。それは、次のようなものです。
   コロニーの中のサルたちに、砂にまみれた生のサツマイモを与えました。ところが、サルたちにはその食べ方がわかりません。もし、そのまま食べれば、砂で口の中がじゃりじゃりになってしまいます。
   そのとき、生後18か月のイモという名のメスザルが、サツマイモを川まで運んで、洗って食べることを思いつきました。若いイモは、この方法を母親や遊び仲間に教え、さらにその仲間が自分の親に教えました。
   これは、サルの社会の風潮である、親が子に伝えるやり方と完全に逆行した伝達経路でしたが、それほどこの方法は、サルたちにとって衝撃的だったのです。
   イモは、さらに天才ぶりを発揮して、海水でサツマイモを洗うと、塩水によってきれいに洗えるばかりか、一層おいしい味になることに気づいて、それもまわりのサルに教えました。こうして、サツマイモを海水で洗うサルは増え続け、99匹に達しました。
   ついに、1匹が加わって、ちょうど100匹になったその日の夕方、驚くべきことが起きました。100匹になると同時に、コロニーのほぼ全員が同じことをするようになったのです。そして、この習性は、他の島々や本州の高崎山のサルにも自然発生していきました。
   100匹という数を超えた瞬間、革新的行動が、一挙に、爆発的に広まっていく。この現象は「100匹目のサル」と命名されました。ワトソンはこうした状態を「コンティンジェント・システム」と呼び、次のように要約しています。
   「あることを真実だと思う人数が一定数に達すると、それは万人にとって真実になる」
   たとえば、少数意見と考えていたものが、いつの間にか常識となっていて、驚かされることがあります。
   はじめ、何気なく耳にした言葉が、いつとはなく広まって流行語になる、といった例は、皆さんもうなずける現象でしょう。これはイケル、ヒット商品になる、といったセンスを磨くためにも、身の回りに起こる出来事への感度を高めたいものです。

監修
福田 健