ビジネスわかったランド (営業・販売)

基本と行動マナー

相手と自分の呼び方のマナーは
 相手と自分の呼び方は、意外とむずかしいものである。基本は、社外に対して内部の人はすべて呼び捨てにするほか、次のような言い回しが求められる。

事例でまず試してみよう
得意先から東田課長に電話がかかってきた。たまたま東田課長は会議中だったので、部下の川上君が応対した。
1.「課長さんは、会議に出席しておられ、ただいまお席にはいらっしゃいません」
2.「課長はあいにく席を外しています。1時間後には戻ると思いますが、よろしければ、わたくし、川上がおことづけを承ります」
どちらが正しいか。あえて説明するまでもないと思うが、次に呼称の基本を示しておく。

「僕」「君」は一般社会の場では用いない
社員間であろうとお客様との間であろうと、そして男性であれ女性であれ、自分のことは「わたくし」と言うのが最も正しい。略した言い方が「わたし」である。僕、君という呼び方はよほど親しい者の間で使う、いわば学生言葉だから、一般社会では使わないほうがよい。

社外に対しては、内部の人はすべて呼び捨てにする
たとえ社長のことでも、敬称や尊敬語は使わないこと。「社長はアメリカへ出張中です」「専務がよろしくと申しておりました」「橋本は席を外しています」などと言うのが正しい。
ただし、社内の人の家族からの電話に出たときは、「部長さんにはいつもお世話になっています」「東田課長さんは、ただいまほかのお電話でお話し中です」「東田さんの奥様ですね」などと言う。この場合、部長、課長などの役職名は、それ自体が敬意をもっているので「さん」をつけなくてもよいが、つけてもさほど違和感はない。

自分の家や家族のことには敬称や尊敬語を絶対に使わない
「父が存じ上げているそうで」「兄が近くに勤務しております」といったように、敬称抜きでも丁寧に話すように心がけることが大切である。

社内の自部署と他部署の呼び方
これもなかなか厄介である。一般に「うちの課」「おたくの部」が慣用されているが、ボーダレスの昨今では古い組織風土を感じる。自分側を「営業1課では」と言い、相手方にも「営業企画課ではどう考えていますか」と言うほうがすっきりする。
フリーな討論などでは、自分のことは「わたくし」と言い、相手方は「〇〇さんのいまのご意見は」と、相手の名前で呼ぶ。先輩ならば「お」「ご」をつけ、丁寧語で話すことも忘れてはならない。

他社の人と話すときの自社と他社の呼び方
他社の人と話すとき、自社のことは「わが社」よりも「当社」「弊社」「わたくしどもの会社」と言うのがよい。相手の会社に対しては「御社」と言うのが一般的である。社外の交遊の場でも「おたくの会社」という言い方はしないほうがよい。「新宿産業さんでは」など、社名に「さん」づけで呼ぶのはOK。「当社の社長は、企業倫理に厳格でして……」と謙譲し、相手へは「御社の社長さんは、油絵のご趣味で……」「ご本社への稟議をよろしく……」などのように使えばよい。

貴支店・貴営業所などは地名に置き換える
文書なら貴支店や貴営業所で何の違和感もないが、口に出すとなめらかさに欠ける。そこで、話すときには貴を地名に換えればスムーズに言える。「大阪支店さんのほうでご検討いただけますか」「福岡営業所さんにはいつもお引き立ていただき」のように「貴」をつけなくても、「さん」をつけることによって敬意が表わせる。

お世辞や誉め言葉はわざとらしいと顰蹙を買う
お世辞や誉め言葉は営業上欠かせないが、わざとらしい言い方やみえみえのリップサービスではかえって顰蹙を買ってしまう。誉めるときは、ほとんど形容詞か形容動詞を使っているのだから、「お」「ご」の接頭語をつけるとセンスのよい表現になる。「きょうはとくにお美しいですね」「お酒はお強いのでしょうか」「お魚はお好きではないのですか」など。
この“お魚”の例で1つ気をつけたいことがある。「お魚はお嫌いですか」「お肉は苦手ですか」のように、嫌い・苦手という暗いイメージや否定・拒否の意味の言葉は避けたほうが話しぶりが上品になる。「スポーツはお嫌いなのですね」よりも「ご興味が向かないのですね」のほうがよい。
敬語の使い方の基本を列記したが、ここまで解説すれば、冒頭の川上君の対応に関する答えは自ずとわかるはずである。正解は2。1の欠点は2つ。
・自社の人に敬語を使ったこと
・会議に出席していると事実を言ったこと
お客様は、会議中でもちょっと電話口に出てほしいのにと、軽視された気分になる。会議中、来客中、電話中、取込み中といった内部の事情を話すのはよくない。
最後に、日常よく使う例を表にまとめたので記憶してほしい。




著者
伊藤 倫男(元文京学院大学・文京学院短期大学兼担教授)
2009年11月末現在の法令等に基づいています。