ビジネスわかったランド (営業・販売)

販売促進

得意先のキーマンの見つけ方・付合い方は
 購買決定権をもつ人、すなわちキーマンは、地位が上の人とは限らない。その見つけ方は、実取引で探るしかないが、付合い方は価値ある情報提供をベースにすべきであろう。それらのポイントは次のとおりである。

誰と付き合っているかがビジネスを左右する
情報もノウハウも、真に役に立つものは人から人へ、それも特定の人から特定の人へと伝わっていくようになってきた。
仕事に役に立つことを伝えていく人、それがいま仕事に影響をもつ人、すなわちキーマンなのである。
キーマンを定義もどきにいうと、キーマンのマン(MAN)をもじって、M(マネー=Money→予算・資金があること)、A(オーソリティ=Authority→購買決定権をもっていること)、N(ニーズ=Needs→必要性があること)ということになる。
つまり、得意先がモノまたはサービスを買うだけの力(資金)があり、何かのモノまたはサービスを必要としており、そういう得意先の中で「購買決定権」をもっている人、それをキーマンという。キー(鍵)を握る重要人物のこと、ということになる。
したがって、営業マンの立場から見れば、いかに「購買決定権」をもつ人を押さえるかに注意が集中することになる。

真のキーマンの見つけ方
得意先のキーマンは誰か。常識的には、購買部門の責任者、購買部長ということになるが、会社の内側から見ると、部長は実務の購買業務には直接関与しないで、部下の管理や購買予算の管理などを行なっており、必ずしも営業マンから見てキーマンとはならない。
むしろ、日常の仕事では、大口の商談は課長、定例的な購入品であれば係長か主任が実質的な権限をもっていることが多い。
実質的権限とは、得意先の会社の中であらかじめ年度計画として定められた、購買予算の範囲内で購入するものについては、係長以下でも自分の選定で購入先を決められるということである。
もちろん、安定供給力の点や金融機関の系列関係などのチェックを課長や部長から受けるが、上司がどういう会社との取引にOKを出すかぐらいのことは担当係長ならわかっているので、係長の選んだところにほぼ決定されるのである。
年次予算を超える購入品や例年とは異なる型式の部品、技術革新されたものなどに切り換えるような「定例」を超えるものは、課長以上の判断に委ねられる。したがって、自分の持ち込んだ商談の中身によって、キーマンが変わることになる。
もし、係長が実質権限をもっている「定例的購入品」を売り込むために、課長や部長にばかりアプローチしたらどうなるか。係長から見ると、頭越しに商談されるのであるから、心情的には不快なものを感じるのは当然である。
位の上の人がいつもキーマンとは限らない、ということをよく承知しておかなければならない。逆に、係長では決められない商談を係長相手にどんなに一生懸命やっても実を結ばない。

文具や文書類はベテラン女子社員
また、文具や文書類の印刷、小口の什器の購入などは、ベテラン女子社員が担当していることが多い。
女子社員が担当している分野を、その上にいる人(係長など)に商談すると、係長は一応受けてくれるが、決してそれ以上には発展しない。必ずあとで女子社員にその話を回すのである。ベテランの女子社員には、社内の人はそれくらい気をつかっているものである。
女子社員は、ある分野では独裁的なキーマンなので、このことを十分留意しておかなければならない。

工場などの技術的判断を要するもの
購入品が「技術的判断」を要するもの、たとえば工場の設備や機械類、ハイテク用品などは、その会社の中でそれの購入を要請した部署である工場や技術部、設計部などの実力者がキーマンとなる。そういう場合、購買部は、単に事務手続きをするだけである。
工場や技術部門の人がキーマンである場合は、こちらも技術系の人間を同行しないと営業マンだけでは相手にされない。技術系の人は、文科系の人や販売系の人をやや異端視する傾向がある。会話が通じにくいとか、何となくフィーリングが合わないなど、微妙な点でしっくりいかないからである。

会社独自の人事ポジションのチェックメモ
会社の中には、その会社独自の人的ポジションというものがある。こういうことは、その得意先と深く付き合わないとわからないが、わからないまでも、そういうことを意識して見ておかねばならないことである。
たとえば、実力役員に目をかけられている係長と定年に近い課長では、職務上の地位とは関係のない「力関係」が働いて係長がキーマンとなる。
あるいは、課長よりも部長のほうが年齢が下であるような場合、部長はいくつもの部署を順番に経験するために短期間就任していることが多い。したがって、実務権限はほとんど課長が握っており、仕事のことは部長が課長に教わっているのが実情である。
得意先の内部事情や年度計画、予算、現取引先とその金額などは、部課長クラスは口が堅いので聞き出しにくい。
それよりも、入社間もない男子社員などがそういう事務をやっているので詳しい。こういう目立たない人も、陰のキーマンである。
特定の人だけに権限や情報が集中しているのではなく、組織の中では分担されている。それぞれの分担範囲でキーマンがいるのである。

キーマンとの付合い方は
キーマンと付き合う基本姿勢は、「相手尊重」「他利優先」である。
「相手尊重」とは、売り手と買い手は1対1の互角で対等であることを双方が確認したうえで、買い手の希望する条件を満たすために全力を尽くすということである。
また「他利優先」とは、相手の利益になることを優先して、自社の対応を考えるということである。この場合の相手(キーマン)利益とは、値引をするとか、無償サービスを多くすることではない。
もちろん、そういうことをする必要がある場合もあるが、それ以外に相手キーマンの将来にとって勉強になるような情報を伝える、いい人を紹介する、参考になりそうな本を提供するなど、キーマン自身の啓発や成長の役に立つことが本来の「利益」と考えるのである。
値引や、無償サービスは、競合相手との関係から発生する取引条件である。こちらだけが相手に利益を与えるのでなく、競合相手も同様の条件を提示するであろうから、相手にとっては大きな利益にはならない。キーマンの立場から見れば、どちらからでも得られる利益であって、とくに「ありがたい」と感じるものではない。
キーマン自身のプラスになるようなことが、キーマン攻略のポイントである。

紹介できる人を何人もっているか
キーマン自身にとって、何がプラスになるかといえば、社内の誰に知られても問題のない事柄で、しかもキーマン個人にとってのプラスばかりでなく、会社にもプラスになり、いい影響を及ぼすものである。
現在では、そういう価値を有するものは、人か情報である。人が情報をもつことが多いから、突き詰めていえば、“人”である。
キーマンに紹介するに足る人を、こちらも何人もっているかが問われるのである。最も望ましいのは、「他に代えられない貴重な存在」になることであろう。

著者
和田 浩(経営コンサルタント)
2010年6月末現在の法令等に基づいています。