ビジネスわかったランド (営業・販売)

実践テクニック

顧客の心理をうまく見抜くには
 人の心の動きには、「注意」を引くことから始まって、「決定・行動」に踏み切り、「満足」が得られるまで、「10のステップ」があるので、これらを頭に入れて、顧客との折衝に当たる。そして、顧客の心理を見抜くためには、色眼鏡をかけず、素直な心で相手と接する。そうすれば、「対人感受性」が鋭敏になり、相手が何を考え、何を欲しているのかがわかってくる。

<< 彼と彼女のデートから人間の心理を考えてみると >>

「あんたなんか大嫌い」と彼女から言われて
とても気が弱く無口でネクラな男が、同じ職場の女性に惚れられて、きょうは公園のベンチでデート中。先ほどから、あまり女性と話をしたことのない彼は、話題に困り、会社の決算についてぼそぼそと喋っている。と突然、彼女は「あんたなんか大嫌い」と言った。

彼の取った行動は、次のどれか
さて、ここで彼の取った行動は、次のどれだろうか。1は、がっくりショックを受け、黙ってその場を立ち去り、家で毛布を頭からかぶって劣等感に悶々。2は、恐る恐るボクのどこがお嫌いなのでしょうか、と意気消沈しながらも尋ねてみる。3は、憤然と怒り出し、彼女に噛み付く。

彼女は彼が好きで、ちょっとすねてみただけ
このどれもが、今度は彼女にショックを与える。彼女の気持ちは、とっても彼が好きであり、やさしい彼の言葉がほしいし、もっとアツアツのデートになりたいのに、彼は会社の決算という野暮な話をするから「大嫌い」と、心の中と逆のことを言って、すねてみただけである。

彼女の心理を見抜く方法は彼女の顔を見ること
このとき、対人関係の苦手な彼に、彼女のこの心理を見抜く方法は1つしかない。生まれて初めてのデートの恥ずかしさで、うつむいて話していた彼が、「あんたなんか大嫌い」の言葉にはっとして、彼女の顔を見たなら救われる。彼女の目はやさしいし、顔はおだやかにほほえんでいる。あれー!? 彼女はボクに愛を表現していると感じる。

<< 色眼鏡では相手の心理は見えない >>

相手の心理を見抜くには、相手の言葉を“目で聞く”こと
すなわち、相手の心理を見抜くには、相手の言葉を耳で聞かず、“目で聞く”ことが最も基本の方法である。

自分のエゴにとらわれると相手の心が見えない
しかし、顔を見ていても相手の心がまったく見えないこともある。それは自分の立場・利害・感情だけで相手に接しているときである。エゴのタコツボに入って接する人には、視力がないのである。

エゴ、偏見、独断が人の心に気づく感受性を麻痺させる
相手がお金や注文書や申込書のカモに見えたり、自分の言うことを受諾しないから馬鹿に見えたり、憎く思ったりしているときも、その色眼鏡で見るから、相手の心理は見えない。すなわち、エゴ、偏見、独断、一方的な考えが、人の心に気づく感受性を麻痺させる。

<< 動作全体を見て“感じる、気づく”もの >>

相手の心理は相手の立場になれば“感じる、気づく”もの
相手の心理は、相手の表情、目、口許、手の動作、体の動作で表現されているから、その全体を視界に収め、常に相手の立場になって取り組むことによって“感じる、気づく”ものである。決して会話から“わかる、知る”ようなものではない。

営業担当者に帰ってほしいときの信号を無視するな
お客さまは、顔見知りの営業担当者に対して、「帰ってほしい」と直接口に出してはいわないものである。そのかわり、その態度に様々な変化が現われる。たとえば、次の図表に掲げるようなものである。自分のほうの話に夢中であると、この退去命令信号が通じない。


他人の押付けで買うような時代ではない
相手の心を無視して、一にも二にも押しまくれ、粘り抜けという営業法は、この情報化社会では通用しない。客は物知りで、自分の好みや価値観を持っており、他人の押付けで買うような時代ではない。

<< 心理の動きには「10のステップ」がある >>

心理の動きを表わす「10のステップ」とは
人間の心の中は複雑で微妙なものだが、しかしその人がある行動をとる場合には、必ず一定のステップを辿り、最終的な行動にまで至る。その10のステップとは、次の図表に掲げるようなものである。


「注意」を引くことからすべてがスタートする
普通は、電車の中、職場の中でも、周囲の人をあまり意識しない。むしろ未知の人には強く「警戒」をしている。その中であるとき、ふと目にとまった女性。「注意」を引いたのがスタートである。

「関心」を持つと「興味」がわいてくる
電車で目に止まったときから、次の日もまた見かけると、強く「関心」を持つようになる。こうなると、どんな人かと「興味」を持つようになり、彼女のほうも彼を意識していると、偶然のきっかけで2人は言葉を交わすことになり、交際が始まる。彼女が警戒のステップだと、声をかけても痴漢扱いをされる。

「連想」から「欲望」が起こってくる
交際が始まりデートを重ねると、互いに相手のことをもっと知りたい。興味は強まる一方で、段々と、この人と結婚したらどうなるかしらとか、結婚披露宴の様子や、新婚家庭のことなどの情景(イメージ)を「連想」するようになると、結婚したいという「欲望」が起こってくる。

「比較」し、検討する
男のほうは、彼女のヌードやセックスを連想し、性欲という欲望が燃えてくる。このように結婚の相手として考えるようになると、友達に相談したり、自分の知っている学校や職場の異性や、友人の配偶者と「比較」し、自分なりに検討してみる。

「決定・行動」に踏み切り、「満足」が得られる
その結果、やっぱりあの人が最もよいとの「信念」が固まってきて、結婚に踏み切るという「決定・行動」がとられる。そして夫婦になって何年経っても、この人と結婚してよかったという「満足」があってこそ、メデタシということになる。

10段階を5つに整理したのがAIDMA(アイドマ)の原理
この10段階を「注意、興味、欲望、記憶、(比較)決定」の5つに整理して、その英語の頭文字をとってAIDMAの原理などと気取っていっているのが、営業の世界である。

購入動機要因にはどんなものがあるか
ところが、既に顔なじみの営業マンや、来店したお客さんとの場合は、商品を目の前にしているので、少し様子は変わってくる。この場合は、購入動機要因としてとらえてみる。
たとえば、私たちが何かを買うとき、品質、性能、耐久力、消費エネルギー、仕様、色彩、デザイン、価格、支払方法、アフターサービス、営業マンの人柄、店の信用度などを、心の中で検討したうえで、決定に至る。

相手の表情、目線、言葉から相手の心理を見抜く
その心理過程の中で、先ほどのステップも連動されてくる。相手の表情、目線、言葉から、いま何を検討し、どれに興味や欲望を感じているかに気づくのも、心理を見抜くテクニックである。

<< 素直な心になる >>

相手に与える印象次第で人の評価は変わる
人間の心理は、微妙なものである。相手に与えるほんのちょっとした印象次第で、すばらしい人と思われたり、逆にどうにもならない奴と思われたりする。
次に、その例を図表にして示したので、ごらんいただきたい。


「対人感受性」が大切
自分では前者のつもりが、相手には後者に思われていることが多い。どちらに思われているかも分からないようでは、相手の心理に気づくことは絶望的である。
人の心理を見抜くなどというと、読心術か何かの魔術で心の奥を透視されるようで、イヤな気分である。私たちは、見抜く魔力はないのであって、持ち合わせている能力は「対人感受性」である。

感受性が鋭敏になるときとは
私たちの潜在能力として持っている感受性が鋭敏になる代表的なケースは、素直な心で接したとき、極限状態や非常に真剣・必死な思いになったとき、芸術に没入したときなどである。

素直な心になることが凡人の心眼を開いてくれる
この中で営業に活用できるのは、素直な心になることである。素直に、真っ白な気持ちで人に接する。自分の考え方、好み、利害をいったん捨てて、相手と「無」の心で接する努力が凡人の心眼を開かせる道である。
物体は眼鏡を使うとよく見えるが、人の心理は眼鏡をはずさなければ見えない。素直になるとは、色眼鏡を捨てることにほかならない。

著者
藤森 悠紀男(株式会社経営開発研究所社長)
2004年11月末現在の法令等に基づいています。