ビジネスわかったランド (人事・労務)

労災と労災保険

労災保険給付におけるその他の留意事項

(1)休業(補償)給付の待期期間と年次有給休暇

待期期間は休業(補償)給付の支給がないため、会社が補償するが、被災者本人が年次有給休暇を請求した場合には、年次有給休暇を消化させることになる。年次有給休暇の請求理由は問われないので、本人の請求があれば待期期間でも年次有給休暇を付与する。

なお、労働基準法の災害補償は賃金を受けていない場合に支払うべきものであり、年次有給休暇の取得により賃金が発生するときは、重ねて休業補償を行なう必要はない。

(2)労働者死傷病報告と給付の関係

4日以上の休業の場合には、労災給付の請求の有無にかかわらず、労働者死傷病報告を提出する義務がある。提出を怠っても休業(補償)給付の支給に影響することはないが、会社が罰則の対象となる。

労働者死傷病報告は、労働安全衛生法を根拠として提出が義務づけられているもので、次の2種類に分かれている。
  1. 1日以上4日未満の休業では、1月から数えて4半期ごとの集計を、各4半期の翌月末日までに届け出る
  2. 4日以上の休業では、その事故ごとに遅滞なく届け出る
なお、労働者死傷病報告の提出モレが多いという現状があるため、休業(補償)給付の請求書内には、報告書の提出年月日を記載する欄が設けられている。

(3)業務上の疾病について

業務上の疾病には、災害性疾病や職業性疾病があるが、原則として、業務上のケガと同様に、業務との因果関係が必要となる。つまり、業務が原因で疾病状態になったのか、ということである。

ただし、疾病の場合には、ケガと違って因果関係の把握が困難なケースが少なくない。そのため、労働基準法施行規則別表第1の2とそれに基づく告示により、あらかじめ疾病の種類を列挙している。

別表第1の2に掲げる疾病は次のとおりである。
  1. 業務上の負傷に起因する疾病
  2. 物理的因子による疾病
  3. 身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病
  4. 化学物質等による疾病
  5. 粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症等
  6. 細菌、ウイルス等の病原体による疾病
  7. がん原性物質もしくはがん原性因子またはがん原性工程における業務による疾病
  8. 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳性、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)もしくは解離性大動脈瘤またはこれらの疾病に付随する疾病
  9. 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神および行動の障害またはこれに付随する疾病
  10. 1~9に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病
  11. その他業務に起因することが明らかな疾病
なお、脳や心臓疾患、精神障害など特に判断が難しいとされるものも、この施行規則を根拠に指針や認定基準が出されている。

施行規則等に列挙されている種類の疾病が、一定の職業に従事する従業員に発生した場合には、特段の反証がない限りは業務起因性を推定するものとされている。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。