ビジネスわかったランド (人事・労務)

労災と労災保険

療養(補償)給付の手続きと注意点-2
ここでは、療養(補償)給付の申請において注意すべき点について解説する。

(1)健康保険で受診してしまった場合

労災事故の場合、療養の給付請求書を労災指定医療機関に提出すれば、無料で治療を受けられる。しかし、災害の発生状況等の書類を作成する手間があるため、治療と同時に請求書を持参するのは難しいケースもある。

そのため、病院に労災事故であることを説明したうえで治療費を仮払いし、その後に療養の給付請求書を持参することが多い。

ただし、従業員本人に労災に関する意識が薄い場合などは、労災事故であっても健康保険で受診してしまうケースがある。

このような場合には、労災保険と健康保険は本人の選択で利用するものではないため、その事故が労災事故である限り、後日、健康保険で受診した給付を労災保険に切り替える必要が出てくる。

病院や薬局が健康保険組合などの医療保険者に診療報酬の請求をしていない段階なら、医療機関の窓口に療養の給付請求書を提出し直せば切替えが可能である。しかし、すでに医療保険者に診療報酬の請求をしている場合には、健康保険で受けた保険給付分を医療保険者に払い戻したうえで、労災保険分を請求し直す必要がある。

したがって、健康保険で受診した場合には、後で労災に切り替える事務処理が発生し、手続きが煩雑になる可能性がある。労災で受診する場合には、あらかじめ労災事故である旨を医療機関に伝えるよう、従業員に対して指導を徹底しておきたい。

(2)労災の書類の多さに注意

療養(補償)給付については、

1.「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を医療機関に提出する方法
2.「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を労働基準監督署に提出する方法

の2つがある。

2の療養(補償)給付たる療養の費用請求書には複数の種類があるので、治療費を請求するのか、柔道整復師の費用を請求するのか、処方薬の費用を請求するのかを十分に確認したうえで、書類の準備を進める必要がある。

なお、接骨院等の場合には、労災指定の有無にかかわらず、業務災害の場合は「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号(1))を、通勤災害の場合は「療養給付たる療養の費用請求書」(様式等16号の5(1))を利用する。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。