ビジネスわかったランド (人事・労務)

労災と労災保険

業務災害と通勤災害、業務起因性と遂行性

(1)通勤災害

労災保険法が施行された当時は、通勤災害は労災保険の対象ではなかったが、通勤も業務と密接な関連性があるとの判断から、その後の改正で対象に加えられた。通勤災害と認められれば、療養給付から遺族給付まで、そのすべての給付が対象となる。

(2)通勤とは

働き方の変化等に伴い、本業先から兼業先へ向かう途中も通勤として扱うなど、通勤の解釈は拡大されてきているが、常に判断が難しいのが、通勤途中の「中断・逸脱の解釈」である。

労災保険では、原則として通勤途中の中断や逸脱とそれ以後の移動は、通勤とはみなさない。

ただし、その中断・逸脱が日常生活上必要な行為であり、できる限り最短の距離・時間で行なった場合には、その中断・逸脱をしている間以外は通勤とみなされる。この「日常生活上必要な行為」は、厚生労働省令により列挙されていて、日用品の購入や病院等での治療などが該当する。
【日常生活上必要な行為】

・日用品の購入その他これに準ずる行為
・公共職業能力開発施設で行なわれる職業訓練など
・選挙権の行使その他これに準ずる行為
・病院または診療所において診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
・要介護状態にある一定の親族等の介護(継続的にまたは反復して行なわれるもの)
逸脱・中断が日常生活上必要な行為である
    (通勤ではない)    
就業場所 通勤
逸脱・中断 通勤
自宅住居
  ×  
逸脱・中断が日常生活上必要な行為ではない
    (通勤ではない)    
就業場所 通勤
逸脱・中断 通勤ではない
自宅住居
  × ×  

…… 通勤とみなされる
× …… 通勤とみなされない

(3)業務災害の判断基準となる業務起因性と業務遂行性

労災保険では、ケガや病気と業務との間に因果関係が認められなければ、保険給付の対象とはならない。つまり、そのケガや病気に、いわゆる「業務起因性」が認められるのかということである。

この業務起因性を判断するには、「業務遂行性」の有無がポイントになる。

業務遂行性とは、従業員が「会社の支配下にある状態」をいい、会社内での仕事中はもちろん、外回り中や出張中でも業務遂行性は認められる。そのうえで業務起因性が判断される。

たとえば、会社内での作業中のケガでも、その原因が作業ではなく私的な行為にあると判断される場合には、原則として、業務遂行性があったとしても業務起因性は認められないため、保険給付の対象にはならない。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。