ビジネスわかったランド (人事・労務)

労災と労災保険

労働者災害補償保険の概要
ここでは、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」という)について説明する。

(1)労災保険と会社の災害補償義務の免除

もともと、会社には、従業員の業務災害に対して労働基準法で定める「災害補償義務」が課せられている。この災害補償義務は、会社に故意や過失がなくても責任が問われる非常に厳しいものである。

したがって、従業員が会社で業務災害に見舞われたときには、理由を問わず、会社が治療費と休業補償の全額を負担しなければならない。しかし、これでは会社の負担が膨大になってしまうことが予想される。

そこで、労働基準法は、第84条に次のような定めを置いている。

「この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる」

つまり、労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」という)による保険給付が行なわれる場合には、会社に課せられた災害補償義務が免除される。

労災保険は、被災従業員や遺族の保護はもとより、会社の義務や負担を減免する制度でもあるといえる。
労災事故
労災保険により労働者へ給付

(2)労災保険と自賠責保険の関係

実務上、業務中に従業員が交通事故に遭うことがあるが、自動車には自賠責保険を付保しているため、労災保険と自賠責保険のいずれを選択するのかという疑問が生じる。

この場合、労災保険と自賠責保険は本人が自由に選択できるが、労働基準監督署からは自賠責保険を優先するよう指導される。

労災保険と自賠責保険のどちらを優先するかについては、厚生労働省から「給付事務の円滑化を目的として、原則は自賠責保険を先行させるように取り扱う」との通達が出されている。労働基準監督署は、この通達に従って自賠責保険を優先するよう指示を出している。

ただし、通達には法的な拘束力がないため、事情に応じて選択することも可能である。たとえば、過失割合の決定に時間を要する場合や、被災労働者側の過失割合が高く、自賠責保険が減額される場合などは、労災保険の申請を検討してもよいだろう。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。