ビジネスわかったランド (人事・労務)

服務規律・ハラスメント防止

その他のハラスメント対応

(1)パワー・ハラスメントについて

パワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」という)とは、職権などの力関係を利用して部下等の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行ない、精神的な苦痛を与えてその働く環境を悪化させたり、雇用不安を与えることをいう。
細かく言うと、①優越的な地位を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③の要素を全て満たすものをいう。

パワハラは、大きく分けると以下の6つに分類することができる。
  1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
職場においてパワハラが発生すると、職場環境の悪化による生産性の低下や人材の流出が生じるばかりか、場合によっては会社に対して高額な損害賠償請求が行なわれることもある。

ただ、対応が難しい点として、どのような行為がパワハラと認定されるかはケース・バイ・ケースであり、上司から部下への指導・注意は事業運営上必要な場合がある、ということが挙げられる。

この点、セクシュアル・ハラスメントにおける性的な言動は事業運営上まったく不要であるため、パワハラに比べると判断はまだ容易である。

厚生労働省のホームページでは、どのような行為がパワハラになるかが解説されているので、必要に応じて参照されたい。

2020年6月1日(中小企業は2022年4月1日)以降、企業は職場におけるパワハラ防止のために次の措置を講じることが義務づけられている。
  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
  3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 相談者等のプライバシー保護、相談したことにより不利益取り扱いをされない旨を定め、周知・啓発すること

(2)妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントについて

妊娠・出産、育児・介護休業等を理由として、解雇・雇止め・降格などの不利益な取扱いを行なう行為は違法である。

具体的には、次のような行為が該当する。

・契約更新を前提に雇用していた女性従業員を、妊娠の報告を受けたのを機に雇止めすること ・1年間育児休業を取得したいという申出をした従業員を、経営悪化等を口実に解雇すること ・社内において、妊娠・出産、育児・介護休業等をする従業員に対して、他の従業員がいやがらせ、誹謗中傷を行なうこと

男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、妊娠・出産、育児・介護休業等のハラスメントの防止措置を講じることが義務づけられている。

したがって、会社としては次の措置を講じる必要がある。
  1. 事業主の方針等の明確化とその周知・啓発◆妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントの内容、このようなハラスメントがあってはならない旨の方針を、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること◆妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントに係る言動を行なった者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に定め、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備◆相談窓口をあらかじめ定め、相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること
  3. 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応◆事実関係を迅速かつ正確に確認すること◆事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行なうこと◆事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行なうこと◆再発防止に向けた措置を講ずること
  4. 職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置◆業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること
  5. 併せて講ずべき措置◆相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること◆相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行なってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。