ビジネスわかったランド (人事・労務)

入社・試用

試用期間の満了と本採用拒否
試用期間満了後、特段の問題がないと会社が判断すれば、「本採用」となる。
問題があるため本採用できないと会社が判断した場合は、「本採用拒否」となる。

新卒者について試用期間満了後、本採用拒否とするケースは少ないと思われる。一方、即戦力として中途採用した者について、期待どおりの能力がなかったために本採用を拒否するといったケースは、多くはないが見受けられる。

本採用を拒否する際に留意すべきポイントは次のとおりである。

(1)本採用拒否の法的性質は解雇と同じ

試用期間満了後の本採用拒否を「契約期間満了」と同じように考えているケースがあるが、本採用拒否の法的性質は「解雇」となる。なぜなら、試用期間といえども入社時に無期雇用の労働契約を締結しているからである。

したがって、本採用拒否は解雇であるから、30日以上前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となる。ただし、入社後14日以内に解雇する場合は、解雇予告または解雇予告手当の支払いは必要ない。

また、本採用拒否の理由が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となる(労働契約法第16条)。

なお、この合理的な理由の判断にあたっては、試用期間は「解約権を留保した労働契約」であり、解雇に際しては、一般従業員の解雇よりも広い範囲の自由が会社に認められる、と解されている。しかし、労働紛争のリスクは存在することに注意が必要である。

(2)本採用拒否の具体的な事由

本採用拒否は解雇なので、当然その具体的な事由が必要である。この事由が客観的に合理的なものではない場合、本採用拒否は無効となることに注意する。

本採用拒否の具体的な事由としては、ケースバイケースではあるが、一般的には次のものが挙げられるだろう。

・無断欠勤・遅刻をしばしば繰り返すなど勤怠が悪いこと
・正当な理由もなく、上司の指示命令に従わないことや反抗すること
・協調性がなく、社内秩序を乱すような行為をすること
・職務遂行能力が低く、能力向上の見込みもないこと

(3)会社側に求められること

本採用を拒否するにあたっては、「会社としてどのように教育・指導を行なったか」が重要になってくる。

試用期間中の従業員に問題が認められる場合は、それを放置せず、本採用を拒否するか否かは別として、まずは教育と指導を行なう必要がある。そのうえで、本採用を拒否する場合に備えて、指導した事実と内容を書面で残しておくことが望ましい。

たとえば、「職務遂行能力が低く、能力向上の見込みもない」という事由で本採用を拒否する場合は、「職務遂行能力を向上させるための指導をしたが、いっこうに改善がみられない」という事実を書面で残しておくことが、後々のトラブルを防ぐためにも重要である。


●指導内容を残す書面モデル

指導対象者:○○太郎

試用期間:○年4月1日~6月30日(入社日から3か月間)

指導年月日:○年5月31日 (前回指導:○年4月30日)

今回の指導内容:

前回の指導票でも指摘した点ですが、正当な理由のない遅刻が目立ちます。社会人としての自覚をもって体調管理を行ない、遅刻をしないよう十分に注意を払ってください。

指導責任者:総務部課長 ○○二郎


上記の指導内容を確認し、該当事項の改善・向上に励みます。

 

○年5月31日
○○太郎 印

書式ダウンロード

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。