ビジネスわかったランド (人事・労務)

残業代問題

残業代のその他の注意点

(1)遅刻・早退をした従業員の残業代の計算

たとえば、所定労働時間が8時間(9時始業、18時終業、休憩1時間)のA社において、1時間遅刻した従業員が20時まで勤務した場合(休憩を1時間取得)、残業代の計算はどのようになるだろうか。

10時~12時:実働2時間
12時~13時:休憩1時間
13時~20時:実働7時間
〔実働時間の合計:9時間〕

ここで重要なのは、労働基準法は、「実労働時間主義」、つまり、実際に何時間働いたかで所定労働時間、残業時間を算出する考え方を採用しているということである。したがって、実際に働いた時間が8時間を超えれば、超えた分が時間外労働となる。

上記のA社の例に当てはめて考えると、10時から19時までは8時間の所定労働、その後の19時から20時までの1時間が時間外労働となり、1時間分の残業代が発生する。

この場合は、結果として所定労働時間の8時間を勤務しているので、遅刻控除は発生しない。

参考までに、「始業・終業時刻主義」の場合には、始業時刻前と終業時刻後の労働が時間外労働となる。就業規則等で、「始業時刻前・終業時刻後の勤務については時間外手当を支払う」と定めている場合は、始業・終業時刻主義を採用していることになり、A社の例では、「1時間分の遅刻控除」と「2時間分の残業代」が発生する。
注意点!
実労働時間主義は、年次有給休暇を取得した場合にも適用される。

たとえば、午前半休を取得し、午後に出勤して終業時刻まで勤務後、1時間残業をしたとすると、余分に1時間働いているので当然、残業代が発生する。しかし、1日の実労働時間が8時間を超えていなければ割増を行なう必要はなく、時間単価×1時間の残業代を支払えば足りる。

(2)時間外代休の賃金計算

時間外代休とは、月の時間外労働時間の合計が、会社の定める所定労働時間に達した場合に、代休を取得できる制度である。この時間外代休を無給とすることにより、賃金計算上は次のような取扱いとなる。

※時給1,000円、会社の定める所定労働時間8時間、時間外労働時間の合計8時間とした場合

代休取得分:▲8,000円(1,000円×8時間)
残業代:10,000円(1,000円×1.25×8時間)
差し引き:2,000円を追加で支払い

したがって、時間外代休制度を使用した場合は、労働者は1日休息でき、会社は残業代を節減できるというメリットがある。

なお、時間外代休制度を設け、会社が利用を啓蒙することは自由だが、強制的に時間外代休を取得させると、労働者の意思に反して就業を拒否し、休業を命じていることになってしまう。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。