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人事異動

出向者の社会保険等の取扱い
出向者は、出向元と出向先の双方と労働契約関係が生じる特殊な形態である。そのため、従業員を出向させた場合、社会保険等にも例外的な取扱いが発生する。

出向の場合、労務を提供するのは出向先になるため、通常、賃金は出向先が支払う。しかし、出向契約の内容は会社間で自由に決められるので、出向元が賃金の全額を支給したり、出向元と出向先で割合を決めて負担するケースなど、実際にはさまざまである。

出向者の社会保険等の適用は、賃金が出向元と出向先のどちらで支払われるかを基準に判断するのが原則となる。

(1)健康保険・厚生年金保険の取扱い

  1. 出向先が賃金の全額を支払う場合

    出向先での適用となる。したがって、出向元での被保険者資格は喪失し、出向先で被保険者資格を取得する。

    なお、健康保険の保険者が出向元と出向先で異なる場合(例:出向元の保険者が健康保険組合、出向先が協会けんぽ)、出向元での被保険者資格を喪失することにより、出向元が加入する健康保険が提供する充実した保険給付、福利厚生を失ってしまうことがある点に注意が必要である。
  2. 出向元が賃金の全額を支払う場合

    出向元での適用となり、出向元での被保険者資格を継続する。
  3. 出向元と出向先で賃金を分担して負担する場合

    出向元の被保険者資格が継続するとともに、出向先でも被保険者資格を取得する。そのうえで、出向者がいずれの被保険者になるかを選択する。

    具体的には、二以上事業所勤務届(管轄年金事務所が同じ場合)か、所属選択届(管轄年金事務所が異なる場合等)を提出することになる。

(2)雇用保険の取扱い

2以上の事業主に雇用される場合には、「生計を維持するにあたって主たる賃金を受ける雇用関係」でのみ、被保険者となるのが原則である。

折半負担の場合には、出向者がいずれの被保険者になるかを選択する。

(3)労災保険の取扱い

労災保険は、出向元と出向先のいずれが賃金を支払うかにかかわらず、出向先での適用となる。

労働保険料の年度更新の際には、出向元で賃金が支払われていても、その金額を出向先の賃金総額に含め、出向先が保険料を納付しなければならない。

したがって、出向元でも賃金を支払っている場合は、労働保険料の年度更新の時期に、出向者の賃金情報を出向先に報告する必要がある。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。