ビジネスわかったランド (人事・労務)

労働(雇用)契約

労働契約書に盛り込んではいけない事項
以下では、労働契約書に盛り込んではならない事項、または盛り込むことがふさわしくない事項を確認する。


(1) 損害賠償金額の予定

労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めている。

したがって、労働契約締結時に、「契約期間の途中に自己都合で退職する場合は、○万円を違約金として支払うこと」「業務中に会社の××を毀損した場合は、1個につき○円を支払うこと」というように、違約金や賠償金の金額を設定することはできない。

なお、金額をあらかじめ特定せず、現実に生じた損害について賠償を請求する旨を労働契約に追加することは可能である。たとえば、「故意や重大な過失により会社の備品を毀損した場合は、実費を弁償すること」と定めることは、あらかじめ金額を特定していないので、労働基準法第16条には抵触しない。


(2) 一定の場合に自主退職を促す文言

「入社後○か月間の営業成績が○○を下回った場合は退職届を出すこと」という条項は、労働契約締結時の会社と従業員との力関係からすると、従業員の本意ではないとしても、受け入れざるを得ない状況にあると考えられる。したがって、このような条項を労働契約に盛り込むことはふさわしくない。

労働契約は民事上の契約であるため、「損害賠償金額の予定」などの禁止事項を除いて、そこに何を盛り込むかについて法的な制約はないが、労働契約法第3条が定めている次の原則に基づいて締結することが大切である。

(ア) 労働者と使用者が、対等の立場における合意に基づいて締結すること
(イ) 労働者と使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結すること

自主退職をする旨の条項は、民法第90条の公序良俗の定めに抵触する可能性がある。また、一定の条件に達しない場合に退職届の提出を強制するのは、退職を強制していることになり、双方合意による退職とはみなされないことも考えられる。


(3) 就業規則に違反する労働契約

労働契約は、就業規則に違反してはならない。労働契約法第12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と定めている。

したがって、たとえば就業規則で家族手当を3万円としているのに、労働契約で家族手当を1万円と定めても、その部分は無効となり、就業規則の「3万円」が適用される。
注意点!
就業規則を上回る労働条件を定める労働契約は有効である。たとえば、就業規則で家族手当を3万円としている場合において、労働契約で家族手当を4万円と定めることに問題はなく、有効となる。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。