ビジネスわかったランド (人事・労務)

賃金制度と給与計算

年俸制

(1)年俸制とは

年俸制については、労働法令上で明確な定義がなされていない。

労働基準法は、第24条から第28条にわたって賃金に関する定めを置いているが、そこでは賃金の支払方法や休業手当等を定めているだけで、賃金の決定方法については触れていない。

つまり、賃金の決定方法は会社に委ねられ、どういう賃金制度を採用するかは会社の自由であり、年俸制の導入の可否、年俸額の決定方法についても、会社が自由に判断できることになる。

一方、労働時間については、どのような賃金制度であっても、労働基準法に定められた基準を守らなければならない。年俸制の場合も、法定労働時間を超えて労働させることがあれば、会社に割増賃金の支払義務が生じる。

この点、年俸制が月給制や時間給制と異なる点はない。賃金制度によって労働時間の解釈が異なることはないのであり、これは、休日や休憩についても同じである。

以上のことから、年俸制を導入する場合には、賃金と労働時間をいったん切り離して考える必要がある。

(2)年俸制に向いている者

年俸制というと、真っ先にプロ野球選手をはじめとするプロスポーツ選手をイメージするかもしれない。会社組織では、まずは取締役(役員報酬)が挙げられるだろう。

両者に共通しているのは、報酬の評価基準が「貢献度」にあるという点である。個人が組織の成長や利益にどれだけ貢献したかが、報酬額を左右する大きなポイントとなり、そのような評価を行なうことが適している職種に年俸制は向いているといえる。

また、労働基準法による労働時間や休日等の規定が適用されない管理監督者や、業務遂行が本人の裁量に委ねられている裁量労働制や、高度プロフェッショナル制度が適用される者は、会社に対する貢献度や達成した成果によって評価したほうが適当ともいえるため、年俸制との相性はよい。
注意点!
会社によっては、残業代の抑制手段として年俸制の導入を検討するケースがある。しかし、年俸制を導入すれば割増賃金の支払義務がなくなる、というわけではない。

前述したように、年俸制を導入したとしても、労働時間や休日、休憩について月給制や時給制と考え方が異なる点はない。

年俸制にして、その報酬額に月々予定される時間外労働等の割増賃金分を含めているケースもあるが、あらかじめ定めた割増賃金分を超えて働かせた場合には、その超えた分の割増賃金の支払義務が生じる。

そのため、月々の残業時間数がほぼ一定であるような場合はよいが、残業時間数の変動が大きければ、年俸制を導入する意味はあまりないかもしれない。

年俸制を導入すれば残業代の支払いは不要となる

まったくの誤解である!

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。