ビジネスわかったランド (人事・労務)

残業代問題

定額残業代制の実務(1)
定額残業代制を導入するためには、いくつか押さえておくべき点がある。

(1)定額残業代制

定額残業代制とは、一定の時間分の残業代を定額で支払うという制度である。

定期残業代

基本給

毎月、給与として支払う

定額残業代制という仕組みは、いくつかの要件を満たせば労働基準法に抵触せず、適法である。ただし、人件費コストの削減という目的だけのために定額残業代制を導入するのは望ましくない。

導入にあたっては、次のようなデメリットがあることをふまえ、定額残業代制を導入すべき状況にあるのか否かを慎重に検討する必要がある。
  1. 定額残業代制を導入すると、残業をした従業員にも、残業をしない従業員にも、定額の残業代が支払われることになる
    →従業員の間で不公平感が募り、勤労意欲が低下することがある
  2. 「残業して当然」という職場風土を生み、業務の効率化・労働時間の短縮について、会社・従業員双方が創意工夫し、知恵を絞ることを妨げる
    →結果として長時間労働が容認され、従業員が疲弊することがある

(2)適法な定額残業代制の要件

定額残業代制が適法なものと認められるためには、次の3つのポイントを押さえておく必要がある。
  1. 月給のなかで、定額残業代が明確に区分されていること
  2. 就業規則等に規定されており、労使双方の認識が統一されていること
  3. 適正な労働時間管理を行ない、定額残業代を超過する分は、全額を追加で支払うこと

(3)定額残業代の明確な区分

残業代を固定額で支払うことは、その額が労働基準法で定める割増賃金額を超えていれば違法とはならない。ただし、所定の割増賃金が支払われているか否かが判断できるように、割増賃金部分が明確でなければならない。理由は次のとおりである。
  1. 残業代は、労働基準法第37条に基づき、その全額を支払う必要がある
  2. 定額残業代制の場合も、毎月、実際の残業代の金額を算出し、定額残業代を超過する分は、その超過分の全額を支払う必要がある
  3. 定額残業代の金額が明確にされていなければ、実際の残業代との差額を算出することは不可能であり、結果として労働基準法第37条違反となる
以上から、定額残業代制を導入する場合は、通常の労働時間に対して支給される賃金(基本給)と、残業時間に対する賃金(定額残業代)が明確に区分されていることが不可欠である。

そのうえで、このような取扱いが行なわれていることが賃金台帳上から明確にわかり、従業員も理解している必要がある。

なお、会社によっては、「基本給に○時間分の残業代を含む」としているケースも見受けられる。このような定め方も不可というわけではないが、この場合も基本給内の定額残業代の部分が明確に区分され、その金額と実際の残業代との差額が支払われなければならない。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。