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人事異動

在籍出向の労働条件と妥当性
在籍出向時の労働条件を定めるにあたっては、対象従業員にとって不利益とならないように配慮することが望ましい。また、会社としては、出向を行なう目的にも注意し、労働者供給事業とならないようにする必要がある。

(1)出向者の労働条件

出向者の労働条件でもっとも重要なものは、出向元と出向先のいずれが賃金の支払い義務を負うかという点である。

選択肢としては、(1)出向元が支払う、(2)出向先が支払う、(3)出向元と出向先がそれぞれ支払う、という3つがある。

実は、出向時の賃金の支払い義務をどちらが負うのかを明確に定めた法律はない。したがって、出向元と出向先が協議して決定し、協議内容を出向契約書、覚書等で取り交わした場合は、それに基づき賃金を支払うことになる。

勤務時間や休憩、時間外労働等の勤怠については、労務提供先である出向先の規定が適用され、出向先が労働基準法上の義務を負うことになる。したがって、出向する従業員の時間外・休日労働については、出向先の三六協定が適用される。

(2)出向者の労働条件の低下

従業員が出向を命じられることにより、労働条件が低下する場合は、その低下分を補てんして不利益を是正するのが一般的である。

たとえば、出向元では1日の所定労働時間が7時間30分、出向先では1日8時間というケースがある。この場合、賃金額が変わらないとすると、実質的には労働条件の不利益変更になってしまう。したがって、このような場合には、出向により増加する労働時間分の賃金を補てんすることが行なわれている。

(3)出向の妥当性

出向は、一般に人事交流や人材開発、技術指導といった経営上の目的で行なわれるが、最近では、雇用機会を確保する目的で利用されるケースも増えている。

しかし、無制限に出向が認められるわけではない。出向は、出向元と出向先の両方に労働契約関係が発生する特殊な形態である。この場合に、出向元が、出向先から利益を得ているとみなされると、禁止されている労働者供給事業に該当してしまう。

職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)では、「何人も…(中略)…労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」とあり、違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。

したがって、出向は、営業目的ではなく、あくまで人事交流や技術指導といった経営上の目的に基づくものであることが前提となる。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。