ビジネスわかったランド (人事・労務)

服務規律・ハラスメント防止

信義則の原則と服務規律
「信義則の原則」とは、使用者と労働者は、互いに相手の信頼を損なわないように、誠実に権利の行使や義務の履行をしなければならない、という原則である。「信義誠実の原則」とも呼ばれている。

(1)労働契約と信義則の原則

労働契約法第3条4項は、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と定めている。

この条文は、民法第1条2項(注参照)の信義則の原則を根拠としており、権利の行使はもちろんのこと、義務を履行する場合も、信義に従い、誠実に行なうべきことが定められている。この考え方は、まさに服務規律の理念と一致し、労使間の権利義務関係の基礎となるものである。

服務規律は会社によって多種多様だが、服務規律を定める際には、信義則の原則をベースに検討していく必要がある。


注:民法第1条(基本原則)の条文
第1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

(2)信義則の原則を従業員に意識させる

労働契約は、会社と従業員の双方に義務を発生させるものである。会社は誠実にその義務を履行することが求められるし、同じく、従業員側も義務を履行する際には誠実さが求められる。

従業員が履行すべき義務の一つとして、会社の規則を遵守する義務があり、特に会社の秩序を維持するために服務規律を遵守することは重要である。

会社は従業員に対し、日頃の指導、教育を通じて、服務規律というルールの根底にある信義則の原則を意識づける必要があるだろう。

(3)服務規律の形骸化を防ぐために

服務規律を具体的にどのように定めるべきかについて、特に決まりはない。その結果として、一般的なモデル規程を流用してしまうケースが少なくない。

確かに、すべての会社に共通する服務事項もあるが、業種や職種、組織・形態によって定めるべき事項は自ずと異なる。そのため、就業規則に服務規律の定めを置いたとしても、モデル規程の流用ではあまり効果は期待できない。

服務規律を形骸化させないためには、信義則の原則に基づき、業種や職種の特徴などを反映させて、実効性を伴った服務規律を作成することがポイントである。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。