ビジネスわかったランド (人事・労務)

人事異動

転勤に関する基礎知識
転勤は、従業員の就業場所が変わる人事異動である。

転勤は、従業員の個別的な同意がなくても命令できるが、会社の転勤命令権の行使のためには、就業規則等の根拠が必要である。

しかし、無条件に転勤を命じられるわけではなく、会社側は次の点を考慮しなければならない。
(1) 業務上の必要性
(2) 不利益の程度
(3) 勤務地の限定の有無

(1)業務上の必要性

転勤命令は、就業規則等の根拠が必要だが、そのうえで業務上の必要性があるかどうかが問われる。

ただし、転勤における業務上の必要性は比較的広く認められており、判例でも「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する場合は、業務上の必要性がある」とされている。

たとえば、全国展開をしている会社が、人事施策の一環として転勤させている場合であれば、業務上の必要性があることになる。

一方、報復的な人事や懲罰人事のようなものは、業務上の必要性が認められず、人事権の濫用とされる可能性が高い。

(2)不利益の程度

一般的に、転勤では、転居を伴うなどある程度の不利益は想定されるが、通常考えられる程度を大幅に超える場合には、合理性のない不利益変更と判断される可能性がある。

この転勤に伴う不利益を考える際、従業員本人の事情(病気等)、家族の問題も重要な要素になる。
注意点!
転勤の対象者が、家族の介護や育児をしている場合は注意が必要である。

育児介護休業法第26条では、「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と定めている。

したがって、転勤命令を出す場合には、本人だけでなく、家族の状況にも十分に配慮する必要がある。

(3)勤務地の限定の有無

転勤命令は、採用時に勤務地を限定したり、転勤を行なわない旨の特約を交わしている場合や、支店や営業所等における現地採用では認められない。

転勤は通常、本社採用の総合職など、その会社で長期的にキャリアを形成していく場合に行なわれるものと解されている。

そのため、就業規則上でも、転勤の可能性だけでなく、対象となる職掌(総合職、一般職、専門職等の採用コース)について規定しておくことが望ましい。もちろん、採用時に労使間で十分に確認しておくことも大切である。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。