ビジネスわかったランド (人事・労務)

賃下げ・降格等

賃下げに必要な「高度な合理性」
賃金は非常に重要な労働条件であるため、賃下げを適法に行なうためには「高度な合理性」が問われることになる。

(1)「高度な合理性」が必要な理由

労働契約法第8条では、これまでの判例をもとに、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と規定している。

就業規則上で労働条件の不利益変更をする場合でも、原則として労働者の同意が必要となる(労働契約法第9条)。

ただし、変更後の就業規則を従業員に周知し、その不利益変更が合理的な理由に基づいていれば、従業員本人の同意がなくても効力をもつものとされている(労働契約法第10条)。

したがって、就業規則の変更について合理性を確保できれば、従業員の同意がなくても、当該不利益変更は効力が認められる。

とはいえ、前述のとおり賃金は労働条件の中でも最も重要なものであるため、その求められる合理性も高度なものとなる。他の労働条件の引下げと比べて、より慎重に検討しなければならない。

(2)労働契約法でいう「合理性」とは

次の事項は、過去の裁判で争点になったものであり、合理性を判断するうえでの重要なポイントとなる。
・従業員の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
ただ、不利益の程度はどこまでなら許されるのか、労働組合等と何回交渉すればよいのか、といったことについて明確な基準が定められているわけではなく、会社の実情やその他の経緯等を総合的に判断して、事案ごとに個別的に判断される。

そこで参考になるのが、過去の裁判例である。特に、第四銀行事件(平成9年2月28日・最高裁判決)は、個々の事案の合理性の基本的な判断材料といえる。

同事件では、賃金低下の合理性の判断材料として、次の7項目を挙げている。
  1. 従業員が被る不利益の程度
  2. 変更の必要性の内容・程度
  3. 変更後の就業規則の内容自体の相当性
  4. 代償措置その他の労働条件の改善状況
  5. 労働組合等との交渉の経緯
  6. 他の労働組合または他の従業員の対応
  7. 同種事項に関する我が国社会における一般的状況
この事件は定年延長の代替としての給与減額を争ったもので、すべての賃下げの事案に当てはまるわけではないが、合理性を判断する基準が明確にされているため、不利益変更を考える際に参考となる。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。