ビジネスわかったランド (人事・労務)

残業代問題

残業代問題がもたらすリスク
会社は、時間外労働または休日労働に対して残業代(割増賃金)を支払う義務がある。ここでは、残業代をまったく支払っていないか、もしくは正確に支払っていない場合に、会社にはどんなリスクが生じるかをみていく。

(1)金銭的リスク

残業代の不払いは、予期しない多額の金銭的リスクを突然に生じさせる。残業代の請求権の時効が3年(従前は2年だったが2020年4月1日以降に支払われるべき残業代については3年へ改正された)であるため、従業員はさかのぼって全額を請求する権利をもつ。さらに、残業時間に対応する実際の残業代以外にも、遅延損害金や付加金の支払いを求められる可能性がある。
残業代を含めた未払賃金の請求権の時効は、将来は5年への延長が検討されている。


●遅延損害金の請求権

支払われるべき残業代が支払われないことから、本来支払うべき日の翌日以降、遅延損害金が発生し、従業員は遅延損害金を会社に求める権利がある。




●裁判所による付加金の支払命令

残業代の不払いが裁判上の紛争となった場合、裁判所は、従業員の請求により、使用者が支払わなければならない割増賃金と同一額の付加金の支払いを命じることができるとされている(労働基準法第114条)。



以上により、遅延損害金や付加金の支払いを求められた場合、会社は本来の不払残業代の2倍を超える金額を支払わなければならない可能性がある。これが金銭的リスクであり、場合によっては会社の経営が傾く可能性もある。
会社
「付加金・遅延損害金・残業代の未払分」支払い
従業員

(2)法的責任のリスク

残業代が不払いで、労働基準法第37条違反となった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(労働基準法第119条)。

また、労働基準法第121条は、「両罰規定」として、「この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する」と定めている。

したがって、「残業代の不払いは直属の上司の一存により行なわれたもので、会社は関与していない」という言い訳は通じない。会社が違反行為の防止に必要な措置を講じていなかった場合は、直接の担当(行為)者だけでなく、会社も責任が問われる。

(3)従業員の不満増大・士気低下のリスク

残業代の不払いは「ブラック企業」の代名詞でもある。このような問題を放置しておくと、従業員の士気の低下を招くばかりか、優秀な人材の確保や人材育成にも悪影響を及ぼす。さらに、長時間労働についての認識もルーズになるため、過労死や労災事故などが発生すると、安全配慮義務違反による損害賠償責任につながっていく可能性もある。

残業代の不払い

金銭上のリスク   法的リスク   従業員の不満増大・
士気低下のリスク

大きな代償を払うことになる

 

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。