ビジネスわかったランド (人事・労務)

賃下げ・降格等

賃下げとは
従業員の賃金を引き下げることを、一般的には「賃下げ」「賃金カット」などと呼んでいる。賃下げにはさまざまなケースがあるが、賃金は労働条件の中でも大変重要なものであるため、賃下げのハードルは高い。やむを得ない理由により賃下げを実施せざるを得ない場合は、労使紛争に発展するリスクも考慮する必要があるだろう。

(1)会社が賃下げを行なうケースとは

賃金の引下げ、いわゆる「賃下げ」を行なう状況としては、賃金制度の見直しや経営悪化等によるもの、人事制度上の措置による場合や懲戒処分によるものなど、さまざまなケースが考えられるが、共通して「合理的な理由」「切迫した理由」が必要であるといえる。
■主な賃下げのケース
  1. 賃金制度の見直し
    年功制度から能力・成果制度への変更等
  2. 経営悪化・業績不振等
    従業員全員または一部を対象とする賃下げ
  3. 人事制度上の措置
    役職、資格等級、仕事内容等の変更を根拠とする賃下げ
  4. 懲戒処分によるもの
    懲戒規定による減給で、労働基準法第91条に抵触しない賃下げ
  5. その他
    企業再編に伴う賃下げ、役職者をはじめとする従業員側からの自主返上の申入れ等
上記のうち、最も一般的かつ代表的なものといえるのが、「1.賃金制度の見直し」と「2.経営悪化・業績不振等」による賃下げである。

特に、大不況に見舞われたり、被災したことにより会社の業績が急激に悪化した場合は、賃下げを行なわないと事業の存続自体が脅かされることもある。

(2)賃金は高度な労働条件

従業員の労働条件には、労働時間、休暇、福利厚生などがあるが、賃金はその中でも最も重要なものといえる。

もともと、賃金は労務の提供の対価として支払われるものであり、従業員の会社に対する金銭債権である。したがって、従業員にとっては既得権であり、会社に対して当然に請求する権利があることは疑いようがない。

その賃金を会社側が引き下げるということは、この既得権を侵害する行為であるため、従業員本人の同意を得ない限り、原則として行なうことはできない。このことを念頭に置いて、賃下げの問題を考えていく必要がある。

労働契約法第8条は、この点について次のように定めている。
(労働契約の内容の変更)
第八条  労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
したがって、賃下げを行なうにあたっては対象者の同意が必要となる。ただし、就業規則を変更し、その変更が諸事情に照らして合理的なものであるときは、この限りではない。

著者: 佐藤 大輔(社会保険労務士法人坂井事務所、特定社会保険労務士・行政書士)

※記述内容は、2021年10月末現在の関係法令等に基づいています。